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非常時に、本と本屋ができるかもしれないこと

非常事態が起きた時に最優先されるべきなのは、もちろん衣食住に関わることです。そして、次にくるのが心のケアだと思います。本や雑誌がそこでどんな役割を果たせるのかを、頭の片隅に置きながら日々仕事をしています。

鎌倉幸子『走れ!移動図書館』(ちくまプリマー新書)は、東日本大震災直後に立ち上げられた移動図書館プロジェクトについての活動記録です。もらうのでもなく購入するのでもなく、「借りる」という行動を選ぶ理由。それは、借りた本を返す・期限という約束を守る・みんなで使うものは大切に扱う、という行為を繰り返すことが、日常を取り戻すための大切な訓練になるからです。また、ボランティアとして地域とどう関わっていくかについても詳しく書かれており、学ぶことの多い一冊です。

本は紙でできている。当たり前すぎて普段は全く意識していませんが、震災の影響でその紙を作ることが出来なくなったことは、あまり知られていないかもしれません。宮城県にある日本製紙の石巻工場は、地震と津波で壊滅的な被害を受けました。従業員のほとんどが被災者であり、食料の入手すら困難な中で、電気もガスも水道も復旧の見通しが立たないという状況に立ち向かい、たった半年で工場を復旧させました。本を待つ読者のために、そして職業人としてのプライドを持って仕事に向き合うことで、日常を取り戻すために。丁寧な取材を重ねた佐々涼子『紙つなげ!』(ハヤカワ文庫NF)は、今だからこそもう一度読みたい本です。

被災地では、スーパーやコンビニなど、ライフラインに直結するお店だけではなく、書店の営業再開を待ち望む人も多かったと聞きます。稲泉連の『復興の書店』(小学館文庫)は、岩手・宮城・福島の書店を取材したドキュメントです。被害を免れた本や、かろうじて届いた本。あらゆるものが売れていきます。いつも読んでいた週刊誌やコミック、お礼を書くための手紙の書き方、失った自宅を探すための地元の写真集、一人の時間を大切にするための小説。「生活必需品」である本たちが、書店には並んでいます。


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