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積もる話もあるだろう

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阿ヶ崎アガサのエッセイ集。毎週日曜日更新。
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記事一覧

【エッセイ】真っ白い鏡台の話

【エッセイ】真っ白い鏡台の話

 実家の二階に、真っ白い鏡台が置いてある。大きな三面鏡が設えられた立派な鏡台で、白い陶器の天板が美しい。今は叔母の部屋に置かれているが、当初は母の持ち物であったらしい。鏡台を迎えた時のことを、母はよく、誇らしげに話す。

「ある日、おじいちゃん(母の父)の知り合いの家具屋さんがね、在庫処分だからって言って、トラックの荷台いっぱいに家具を積んできてね。『無料でやるから、どれでも好きなものを一個選べ』

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【エッセイ】おいでませ物欲、消耗品の人生

【エッセイ】おいでませ物欲、消耗品の人生

 生来、物欲は無い方だ。貧乏性というか守銭奴気質というか、「欲しい!」と思ったものを、金を使ってまで手に入れようとはあまり思えない。買ったってどうせすぐ飽きるし、手に入れるだけで満足してろくに使わず終わることもあるかもしれない。そうじゃなくても物は朽ちるのが条理。諸行は無常だ。朽ちると決まっているものに金を払うなんて馬鹿げている。
 その点、お金は良い。朽ちも腐りもしない。お金を使って贅沢するより

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【エッセイ】美しい生き方

【エッセイ】美しい生き方

 ある本に、老化とは機能でなく不可抗力なのだと書いてあった。
 生存と繁殖に必要な機能を手に入れる為の成長は、つまり必要な機能の全てを備えたら止まる。対して老化は、単純に身体が使い古されてガタがくるだけのことであって、老化によって手に入るものもなければ、身体が老化する必要性などというものもない。革の財布が使い込むほど柔らかくなっていくように、劣化であり条理であり自然現象なのだ。
 本は、「機能では

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【自己紹介】阿ヶ崎アガサの輪郭

【自己紹介】阿ヶ崎アガサの輪郭

 生来、自己紹介が好きじゃない。
 そもそも自分のことが好きじゃないので、好きじゃないものを他人様に紹介するのは良い気がしない。初対面の他人にもそう興味がないので、他人の自己紹介を聞くのも楽しめない。そのうえ、互いに自己紹介をしてしまえば、それだけで私と相手は知り合いということになってしまうのだから、これがまた面倒くさい。一度紹介しあったくらいで、一体何を知りあえると言うのか。
 いや、分かってい

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【エッセイ】腕時計を壊して死にたい

【エッセイ】腕時計を壊して死にたい

 人間、生まれたからには死ぬもので、人生とは死ぬまでの暇つぶしに過ぎない。生きることに飽いたら死のうと思ってはいるが、そううまく行くとは限らないもので、例えば突然事故に遭ったり、殺人事件に巻き込まれたり、サメに食べられたりして、予定外のタイミングで死んでしまう可能性もある。死に時は必ずしも選べない。

 ならばせめて、死に様くらいはどうにか選べはしないだろうか。

 高倉にはかねてからの夢がある。

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【エッセイ】茄子のはなし

【エッセイ】茄子のはなし

 スーパーで買い物をしている折、ふと、立派な茄子に目を引かれました。決められた大きさ、長さ、色から若干外れた、所謂「規格外野菜」がひしめくワゴンを、高倉が見ることは滅多にありません。一人暮らしは下手に自炊するよりも、総菜や冷凍食品で済ませる方が経済的にも手間的にも都合がいいのです。しかしその日は、どうしてもこの茄子を無視できなかったのです。
 透明なビニール袋に、大きな茄子が三本、ぎゅうぎゅうに詰

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【エッセイ】最近の小学生というものは

【エッセイ】最近の小学生というものは

 ラジオから「最近は小学生でメイクしているみたいですよ、ちょっと信じられないですね」と聞こえてきて、同じような話を小学生の頃にも聞いた気がしている。高倉は最近の小学生ではないし、ちょっと歩けば防空壕があるようなド田舎で小学生時代を過ごしたが、それでもリップをつけている同級生も髪を金髪にしている後輩もいた。小学生のメイクなどというのは最近始まった話というわけではなく、いつの時代もそういう小学生はいて

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【エッセイ】ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲

【エッセイ】ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲

 トゲ様による此方の記事を拝読して、古い記憶が蘇るなどしました。折角なので、此処に書き記して供養としたいと思います。

 ※女性器、男性器に関する話です。男女の身体的特徴を面白おかしくネタにするつもりはありませんが、捉え様では下ネタです。どうか自衛ください。

 先に申し上げておくと、高倉は女の子です。股にチンチンはついておらず、おまんこがついています。……やはりこういう単語はちょっと、その、下品

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【エッセイ】見えないものを見たかった

【エッセイ】見えないものを見たかった

 ラジオを聞いていたところ、「皆さん、七夕を信じますか?私は信じてるんですけど、」と女性パーソナリティの声が聞こえてきた。

 高倉は七夕を年中行事だと思っていたし、お盆や正月に「信じる」「信じない」とかいう概念が無いように、七夕に対してもそういう視点で向き合ったことは無かった。クリスマスにおけるサンタクロースならば「信じる」「信じない」があるのは分かるが、七夕にサンタクロースのような登場人物がい

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【エッセイ】紙の本は優しい

【エッセイ】紙の本は優しい

 読書生活の主戦場を紙の本にするか電子書籍にするか、特に決めることなく此処まで来た。正味、決める必要もあまり無いとは思っている。Kindle セール中には割安で電子書籍を手に入れ、ふらりと立ち寄った本屋では一目惚れした本を買う、そういう気ままな生活が愛おしい。
 気ままに生活した結果の話だが、高倉はどちらかというと紙の本を手に取りがちだ。毎日、特にノルマも読む本も固定せず、一時間読書をすることにし

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【エッセイ】ミネラルウォーターのコスパ

【エッセイ】ミネラルウォーターのコスパ

 500ml ペットボトルに入ったミネラルウォーターが67 円する横で、2 Lペットボトルに入ったミネラルウォーターは77 円で売られていた。飲料水の値段設定は本当によくわからない。
 大容量品の方がコスパが良い場合が多い、というのは分かっている。シャンプーやコンディショナーの詰め替えパックもそうだ。以前は一回分の補充パックしかなかったのに、最近は数回分補充できる大型パックが登場した。内容量と値段

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【エッセイ】今更コロナと言われても

【エッセイ】今更コロナと言われても

 新型コロナウイルスに感染しました!

 新型コロナウイルス感染症が五類感染症に移行されて久しい。あんなに感染者数を連日報道していた報道番組は今やコロナのコの字も言わないし、世間はコロナ禍が明けた日常を謳歌する方向へ舵を切っている。マスクを外す人が増え、施設入り口に設置された消毒液に立ち止まる人も殆どいない。まるで、世界から新型コロナウイルスがすっかり駆逐されたかのようだ。
 実際は全然そんなこと

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【エッセイ】つまり自転車薙の白杖

【エッセイ】つまり自転車薙の白杖

 誰とは言わないが、点字ブロックの上に車を停めたり演説をしたり握手会をしたりする人の話題を見かけた。「点字ブロックをふさぐなんてサイテー」「法律違反じゃね」「視覚障碍者を蔑ろにしていてけしからん」と憤る人の声もあれば、「そんなことに目くじら立ててんじゃないよ、どうせ誰も通らないんだからいいじゃん」といった投稿まであって、さながらカオスだ。これだからTwitterランドはやめられない。

 高倉は視

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【エッセイ】等身大で生きていく

【エッセイ】等身大で生きていく

 ユニクロでTシャツを買った。無地のオーバーサイズTシャツだ。

 高倉のクローゼットには無地のTシャツが無かった。決まって変な柄が入っていたり、文字が入っていたり、イラストが入っていたりする。高倉はこういう派手で変なシャツのことも大好きだが、最近ちょっと、柄物を身に着けるに抵抗を覚えることが増えた。
 柄物は好きだ。身に着けるとテンションが上がるし、誰とも被らないアイテムは高倉を無敵の気分にして

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