【エッセイ】最近の小学生というものは
ラジオから「最近は小学生でメイクしているみたいですよ、ちょっと信じられないですね」と聞こえてきて、同じような話を小学生の頃にも聞いた気がしている。高倉は最近の小学生ではないし、ちょっと歩けば防空壕があるようなド田舎で小学生時代を過ごしたが、それでもリップをつけている同級生も髪を金髪にしている後輩もいた。小学生のメイクなどというのは最近始まった話というわけではなく、いつの時代もそういう小学生はいて、いつの時代も少数派という、ただそれだけのことなんじゃないか。
個人的には、別に何歳の誰が顔に何を塗ろうが髪を何色にしようがどうでもいいと思っている。
ところで、高倉は化粧というのが結構苦手だ。これは幼い頃からの筋金入りで、例えば七五三の写真を撮るだけの短時間すら耐えられず、折角つけてもらった口紅を全部舐め取ってしまう有様だった。いまだに口紅は好きじゃない。唇をナマコのようにぬめぬめぬたぬたさせることの一体何が面白いのか、全く理解に苦しむ。
髪を染めるのもあまり好きではない。これは高倉の持論だが、ひとは誰しも生まれついた毛色が一等似合うのだ。留学先で出会ったブロンドの青年が、ある日美しいブロンドヘアを真っ黒に染めてきたのを見た時は(彼の髪型や髪色について高倉が口を出していい道理はないということは重々承知だが)ちょっとだけ「勿体ない……」と思ってしまった。高倉は自分の黒髪を愛しているし、染めるつもりはあまりない。最近白髪が目立つようになって、いよいよそうも言っていられないのだけれど……。
ネイルも実は好きじゃない。爪を好きな色に染め上げるとテンションが上がるのはよく分かるのだけれど、高倉は所作が大変粗雑なので、放っておくとすぐにぼろぼろにしてしまうのだ。爪の先だけ色が剥げてしまったネイルほど見苦しいものは無い。見苦しくなった爪はもう見ないようになってしまって、ネイルを落とすことすら億劫になる。これは母の言だが、「爪は呼吸している」のだそうだ。長期間ネイルを落とさなかった爪は呼吸困難になって変色する、だからネイルをするならすぐ落とせ。事実、留学時代に一ヶ月間ペディキュアを落とし損ねた足の爪は不健康そうな濃い黄色に変色していた。以降、ネイルがちょっと怖いし好きじゃない。
高倉が通っていた小学校でメイクをしていた女子たちとは、終ぞ仲良くできなかった。休み時間になるごとにトイレの鏡に群がって唇や目の形を直す女の子と、チャイムと同時に駆け出して体育館で狂ったように縄跳びを飛びまくる高倉では、成立する会話もない。
それでも、メイクをしていた同級生の笑顔が、メイクのラメによるものでなく、きらきら輝いていたことはよく覚えている。願わくばメイクを覚えた最近の小学生たちも、心からメイクを楽しんでいますように。