BtoB製造業のデジタルコミュニケーションを突き詰める
自己紹介、そしてBtoBとの出会い
はじめまして。イントリックスの気賀です。
まず自己紹介をさせてください。1994年に慶応大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)を一期生として卒業後、米国のプライベートバンクBrown Brothers Harriman & Co.で6年ほど日本株のアナリストをしました。その後、インターネットブームの到来でそのとてつもない可能性に惹かれ、Webインテグレーションを手掛けるScientでコンサルタントになりました。
僕自身は関わっていませんが、Scientは、2000年当時に米大リーグ30球団の共通インフラとしてのWebサイト・バックエンドシステムを開発し、ストリーミングやECなど大リーグがデジタルサービスで大躍進する基礎を作った会社です。大規模Webサイトの戦略立案から設計・構築までを一気通貫で手掛ける、業務システムのシステムインテグレーターとは異なるデジタル時代の新興業態として、eBusiness Consultantとか、Web Integratorなどと呼ばれていました。
Scientの日本法人(途中で米国本社は倒産し、日本はMBOにて独立)に9年勤め、僕はコンサルタントやプロジェクトマネージャーとして、数々のBtoB企業の大規模Web構築を支援しました。BtoB企業を担当したのはたまたまでしたが、ここに大きな意義と機会があることに気づいてから、意識的にBtoB企業プロジェクトを開拓するようになりました。
最後はついに、BtoB企業に特化して仕事をしたいと思うようになり、現在CTOを務める猪目と一緒にイントリックスを創業しました。今から13年前、2009年のことです。
念願かなってBtoBにフォーカスできるようになったイントリックスでは、現在60名の社員とともに、素材から部品・部材、完成品、そしてサービス業まで、あらゆるBtoB企業のデジタルコミュニケーションを総合的に支援しています。
製造業に特化している訳ではありませんが、日本のBtoBの産業構成上、必然的にお客様の大半が製造業です。
なぜBtoBにとりつかれたのか
僕自身はBtoB製造業で働いたことはありませんが、振り返ると過去に大きな接点が3回ほどありました。
1つ目は自分の出身地。山口県岩国市は、瀬戸内工業地帯の西方に位置し、東洋紡、帝人、日本製紙などのコンビナートがありました。父の勤める三井石油化学(現三井化学)もその一角を占めていましたし、お隣広島県大竹市にはダイセル化学や三菱レイヨン(現三菱化学)などの工場があり、コンビナートの景色は自分にとって日常の一部でした。
岩国は中一で東京に転勤するまで過ごした場所で、父はエンジニアだったということしか知らないのですが、母によると僕は幼稚園の頃、近所で「俺のパパは、三井石油に勤めとるんで~」と自慢していたそうです。近所とは三井石油化学の社宅でした(笑)。壮大な仕掛けの中で行われているモノづくりに対し、知らず知らずのうちに畏敬の念を抱いていた気がします。
2つ目はアナリスト時代。今から25年前、僕は、新卒で入った会社ですぐにNew Yorkに転勤となり、米国人ファンドマネージャーのもとで投資先候補の日本企業を調べる仕事をしていました。日本をよく知る彼は、東京エレクトロンやキーエンス、ダイキンなど、社会人数年目の日本人の僕が知らない会社を調査するように言うことがありました。
ところがそういった会社を調べてみると面白いこと!
この経験から、自分の見えないところで人々の日常を下支えする会社がたくさんあることと、競争力のある日本のBtoB企業の存在を知ることができました。ちなみに当時と比べると株価は東京エレクトロン14倍、キーエンス27倍、ダイキン20倍。日本の製造業の地盤沈下の話題ばかりの昨今ですが、米国の株価指数(S&P500)の5倍を大きく上回る製造業がまだあることがわかります。
3つ目が、Scientでのコンサルタント時代。いくつかのBtoCのプロジェクトを経験した後に、プラント制御機器、建設機械、精密機器、電機メーカーのWeb活用を支援したことで、BtoCと比べ、BtoB企業には4つの特徴があることがわかりました。
①競争力・技術力のある会社が多い プロジェクトでヒアリングをすると、思った以上に高いシェアや競争力のある製品を持っている会社が多い。株式アナリストよりもコンサルタントの方が一つの会社を深く知ることができるので、BtoB企業のすごさをあらためて実感しました。一方、それらを伝える努力が十分にはなされていないとも感じました。
②情報発信への意識が弱い BtoB企業の売り先は企業です。マスを狙うBtoCと違って販売先が限られる分、メディアで広く情報発信することよりも、営業が足しげく通い、売り先の要求に応えることが重視されてきました。その結果、自社の強みをコンテンツ化することや、それを広く訴求することが、BtoCほど必要とはされていませんでした。日本経済が成長している時は、これで売上が作れたのです。
しかし、グローバルな競争の激しくなった今後もこのスタンスでいると、増える一方の競合の中に埋没してしまいます。これからは、自社や自社製品を知ってもらうことが、BtoB企業にとって欠かせないものになってくると思いました。
③インターネットとの親和性が高い BtoCよりも顧客接点が少ない分、いつでもどこでも接点を作りだせるインターネットとBtoBの親和性は非常に高いものがありました。ある機械メーカーのアクセス・問い合わせ分析では、日本では新品、アジアでは中古、北米ではサービス(すでに稼働機械が多いので)に関心が高いことがわかり、販売代理店を挟むため顧客が見えにくいBtoBビジネスにおけるデータ活用の可能性も感じました。
④コミュニケーションのアドバイザーがいない BtoCであれば、様々なコミュニケーション活動のため、大手の広告代理店をメインの相談先にしていることも多いと思いますが、BtoBはそうしていません。それほど多くのメディアを使っている訳でもないので、案件が発生する都度、印刷会社や展示会企画会社に依頼をすれば良かったのです。デジタル時代のコミュニケーション支援は、小さな自分たちにも大いにチャンスがあると思いました。
4つの特徴をまとめると、「日本のBtoB企業は情報発信に熱心でないために、実力がありながらもグローバル市場では十分な評価をされていない。だけど、激しくなったグローバル競争下では自ら情報発信することが不可欠。タイミングよく、BtoBにフィットするインターネットが出てきた。大手のアドバイザーが存在しないということは、自分たちにも総合的な支援をするチャンスがある」と感じたのです。
日本の製造の復権に関する議論で、情報発信の強化が取り上げられることはほとんどありません。製造業ならば技術やビジネスを磨くことに力点を置くのは当然です。しかし、基本的には長期戦です。一方、情報発信はこれまで取り組みが遅れていた分、すぐにやれることが山のようにあり、日本の製造業にとっては費用対効果や即効性が高いと考えられます。特にインターネットの登場で、既存のメディアでは表現しきれなかったBtoB企業の強みや製品の魅力を語りつくす余地は飛躍的に大きくなったのです。
BtoB企業がデジタルコミュニケーションに力を入れなければならないことは明白でした。
こうして、3つのBtoBとの接点が自分の中で熟成発酵し、イントリックスを猪目と創業したことで、BtoBのデジタルコミュニケーションは、自分の大好物となりました。
家族で旅行に行っても巨大インフラがあれば足をのばし、豆柴のタイスケとの散歩中にも建築現場で部材のメーカー名を探してしまう自分の出来上がりです。
noteを書きはじめる理由
BtoBのデジタルコミュニケーションを、業界全体で活性化したい。これが、noteで自分の考えを発信しようと考えた理由です。
僕がイントリックスを通じて実現したいのは、日本のBtoB企業がデジタルコミュニケーションを使いこなすことで、世界により必要とされる存在になること。
これまでイントリックスでは、100社を超えるBtoB企業をご支援してきました。長期伴走型で、時に10年の歳月をかけ、デジタルコミュニケーション活用を総合的にレベルアップしていくために必要なあらゆるテーマに取り組んできました。
実は、イントリックス、そして僕個人は、あまり情報発信をしてきませんでした。2000年代初頭からこの仕事をやっていますが、BtoBのデジタルコミュニケーションがそれほど盛り上がっていない中では、需要(BtoB企業のニーズ)と供給(当社サービスの提供力)がバランスしており、あまり発信する必要性を感じていなかったのです。
しかし、コロナ禍になってから状況は一変しました。対面文化の強いBtoB製造業も、人と会えないとなると当然デジタルコミュニケーションを真剣に考えます。そのため、需要が供給力を上回ると感じることが多くなりました。当社も採用を頑張っているのですが、いかんせん体制拡充が追いつきません。
採用が追い付かない理由の一つに、BtoBを支援することの面白さや意義が知られていないことがあります。デジタルコミュニケーションに関心のある方はたくさんいますが、あえてBtoBをやってみたいという人はそんなにはいません。そもそも普通はBtoBのことを知らないでしょうし、地味で固そうなイメージもあります。BtoCよりもやっていることが難しそうに見えることも、心理的な参入障壁となっています。
BtoBのデジタルコミュニケーションは、仕事として不人気どころか、そもそも認知をされていないのです。
しかしです。もし、日本におけるBtoBが小さい存在なら認知が薄いのも当然ですが、決して小さくはありません。普段の生活では見えにくいだけで、多くのBtoCの活動を幾重にも支えているのがBtoBです。
例えば1台の自動車に対する部品は3万点。1つの部品メーカーが100点を提供するとして、部品メーカーは300社。1つのBtoC企業の背後には、300のBtoB企業がいるのです。製造業の市場規模400兆円から類推すれば、少なくとも300兆円がBtoB製造業ではないでしょうか。
だのに、コミュニケーションやデジタル人材は圧倒的にBtoCに寄ったまま。書籍もセミナーも支援会社も圧倒的にBtoCを向いているものが多い。
日本の製造業におけるBtoC/BtoBの売上比率と、コミュニケーション人材の分布とは、見事なまでに逆転しているのです。
となると、日本のBtoBのデジタルコミュニケーションを強化するには、まず、BtoCを向きがちなコミュニケーション人材にBtoBの面白さを伝え、このねじれ現象の是正を図ることから始めねばなりません。
なお、ここで言う"業界"とは、BtoBのデジタルコミュニケーションに関わる組織を指しているので、BtoB企業と支援を行う企業の双方に人材が来てくれるといいなと思っています。(もちろん、イントリックスにも!)
noteでは、BtoBのデジタルコミュニケーションの面白さや意義、可能性などについて語っていきます。その結果、少しでもこの業界に飛び込んでくれる方が増え、日本のBtoBのデジタルコミュニケーションの底上げにつながると良いなと思っています。
発信したい情報
この業界に魅力を感じてもらえることならなんでもやるつもりですが、大枠はこうです。
1.製造業に軸足をおいた考察や提言
コロナ禍の後押しで、BtoBのデジタルコミュニケーションはにわかに盛り上がり、関連する情報発信は急速に増えています。
ただその中身はというと、SaaSなどITサービスのマーケティングを対象としていることが多いようです。もちろんこれらもBtoBですが、日本においてもっと大きい製造業セクターに役立つ情報は不足している印象なので、ここではむしろ製造業を念頭に書いていきます。
2.BtoBのデジタルコミュニケーションの全体像
デジタルコミュニケーションと聞いた時、ある人はWebサイト、ある人はSNS、ある人は広告運用、ある人はITインフラ、ある人はデータ分析と、イメージするものがばらばらなので、デジタルコミュニケーションの全体像についても整理をします。
3.課題とその背景
デジタルコミュニケーションはBtoC/B問わず課題だらけですが、問題が根深いのはBtoBでしょう。BtoCは新しいモノを試す文化があるので、前進はしやすい。ひるがえってBtoBは、ネットとの親和性があるのに根が保守的なので、あるべき姿と現状のギャップがあまりにも大きい。ただし、それは理由があってのことなので、なぜこの問題が起きるのかについても考えていきます。実効性のある解決策は、課題の背景まで考慮に入れてあるものです。
4.あるべき姿と現実的な解決アプローチ
解決策については現実的なものとするよう心掛けます。僕自身、過去に書いているのでえらそうなことは言えませんが、「トップがコミットすべき」「部門連携の強化が必須」「デジタルマーケティングに閉じこもるのではなく、上位のマーケティングから考えよう」と言った提言は、言われる側もわかっていることだし、それができないから悩んでいるはず。いくら正しくても新鮮味なく、実現性も低いような提言は極力抑えたいと思います。(ゼロではないです。大事な基本ではあるので)
5.業界の未来と可能性
僕は、建物や広告がすべての組織に必要だからゼネコンや広告代理業が生まれたように、デジタルコミュニケーションの支援も一つの産業を形成すると思って、この仕事に取り組んできました。
現時点でその完成度は50%。全体としては一つの産業となりつつありますが、中身はまだBtoCに偏っているからです。しかし、BtoCに偏っているということは、BtoBでの飛躍はこれからということ。日本のBtoBが持つポテンシャル、ようやく本格化しだしたデジタルへの取り組み、そしてBtoB企業の数の多さを考えると、とても魅力的で可能性にあふれた仕事であることを伝えていきます。
また、BtoB企業にとってデジタルコミュケーションが日常となった暁に、業界自体にどんな変化がおこるかについても考察していきます。
6.BtoBのデジタルコミュニケーションのスキルアップ方法
BtoBコミュニケーションの自立的拡大は、最後は人にかかっています。BtoBとデジタルコミュニケーションの両方を理解する人材が必要です。スキルを磨くにはどんなことをすれば良いのか、僕が見てきたことを踏まえながら、ヒントを提供します。またBtoCとの違いに着目し、BtoC出身者が困惑しがな点と乗り越え方もとりあげていきたいと思います。
最後に
これは初めての投稿なのでシンプルに終わらせるつもりだったのですが、長くなってしまいました。BtoBのことになるとつい熱くなってしまいます、、、
これまであまり情報発信をしてこなかった自分なので、noteでどこまで書けるか不安があったのですが、書いているうちに言いたいことが溢れ出てきたので、ネタには困らなさそうです。
noteでは、BtoBのデジタルコミュニケーションに関心のある方々と一緒に学び、成長していきたいと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。