Webサイトは企業そのもの。あるクライアントと交わした400枚の名刺
Webサイトは企業そのものと言われます。
そう。Webサイトには企業のすべてが詰まっています。
ここに、売上1兆円規模のBtoB製造業のクライアントと交わした400枚の名刺があります。
部署の数は30、グループ会社の数は20、国の数だと10か国。販売代理店やエンドユーザーなどが20。合計で80にも及ぶ組織にお話をうかがい、企業グループにとってベストなWebサイト群を作るための議論をしてきました。
多分、クライアントのほとんどの部署と会っているはず。Webサイトが企業そのものであることを示す、わかりやすい例だと思います。
でも、Webサイトを作るのに80もの組織と話す必要があるの?
そう感じる方が多いのも当然です。では、この10年で、どんな組織とどう関わったのかを振り返ってみましょう。
Webサイト群整備に関わった様々な組織
企業内組織
全社Web統括部門
企業グループのWeb情報発信をつかさどる部署。通常、広報・ブランディング・コーポレートコミュニケーション部が担います。グループ全体で百以上あるサイトの中でも中心となる日本サイト(co.jp)とグローバルサイト(com)を主管すると同時に、グループ全体のWebサイトの質を高める責任を負っています。企業グループが正しく理解され、良いイメージを持たれるようにするためのWebサイト群づくりを主導します。
事業部門Web担当
Webサイト群は核となるco.jp/comと、その傘下の事業部サイトから成ります。サイト群全体では、事業部によるマーケティング目的の情報発信の方が、コーポレートコミュニケーション目的よりも多く、沢山の事業部と話をしなければなりません。事業部と言っても、Web活用へのスタンスは様々。それぞれに合った取組みを一緒に考えます。
事業部門事業担当(マーケティング、営業、サポート等)
Webを作るからWeb担当とだけ話せば良い、訳ではありません。情報発信の主役は、事業担当の方々。BtoBではWeb活用にそれほど詳しくない事業担当者も多く、事業ごとに有効な使い方を検討します。
IT部門
サーバー・DBなどのインフラ、製品比較やマイページなどの機能、CMSやMA、問合せなどの管理ツール、セキュリティ等のガバナンスなどを担当します。ただ、IT部門の経験・知見は、一般に業務システムに基づくもので、デジタルコミュニケーションにはそのまま適用できないことも多いので、Webにふさわしい対応策を考えます。
その他本社部門(人事・採用、IR、サステナビリティ、法務、知財)
コーポレートコミュニケーションでは、採用、IR、サステナビリティなども重要なコンテンツです。また、Webサイトの運用は、法律とも無縁ではありません。個人情報保護/GDPR、知財など、企業としての方針を定める必要があります。
研究開発・設計・生産部門
情報発信とは距離があるイメージですが、モノづくりに直接携わるこれらの部門は、企業の価値の源泉。今、大きな変革期にある産業界で、企業は未来に向けてどんな取り組みをしているのかが問われています。その答えがここにあります。
経営企画部門
Webサイト群整備の方向性は、経営企画が定める企業のあるべき姿と一致させなければなりません。Webサイトが企業そのものだと気づいた経営企画部門は、大規模Webリニューアルに積極的にコミットします。自社を可視化しながら企業変革を進める場として活用しているのです。
グループ会社
海外販社
海外比率の高い多くのBtoB製造業のWebサイト群整備とは、海外販社のWebサイトをしっかりすることに他なりません。本社サイトとのブランド統一を図る初級編、各国間ナレッジ共有で互いを高め合う中級編、コンテンツやシステムなどの共通化を進める上級編などがあり、グローバルマーケティング強化に向けて密なやりとりが不可欠です。
事業系子会社
事業部門事業担当の延長線上にある事業系子会社ですが、一定の独立性がある一方で予算が限られていることも多く、Webサイトづくりを任せっぱなしにしていると、本社事業部サイトとの住み分けや情報の質に問題が生じます。来訪者が迷子にならぬよう、全社視点で両者のすり合わせを行ないます。
IT・制作子会社
Webサイトのコンテンツやシステムの運用を担う子会社。ヒアリングで得たWeb運用の業務フローや課題に基づき、運用面に考慮したリニューアルを行ないます。Webサイト群リニューアルでは、イントリックスが作るひな形の横展開を担っていただくことも多いです。
グループ外の関係者
販売代理店
BtoB製造業の販売・サポートの最前線を担うのは販売代理店です。資本関係がなくても、当該地域で企業の看板を背負う立場であり、情報発信やブランディングにおける連携は欠かせません。また、エンドユーザーのニーズや動向を知る立場なので、Web戦略立案・設計における貴重な情報源です。
エンドユーザー
リニューアルプロジェクトでは、企業内外の関係者の話からエンドユーザーのニーズを類推することが多いのですが、当のエンドユーザーと話ができればベストです。クライアントに紹介してもらったり、調査会社を通じてだったり、個人的なつてをたどるなどいくつかの方法があります。
企業変革のきっかけとなるWebリニューアル
Webサイトの整備に、いかに多くの関係者との話し合いが必要か、おわかりいただけたのではないでしょうか。
Webのあり方について、各部門は各様の意見を持っています。自社・製品の見せ方についてはもちろん、運用性、安定性、コスト効率に重きを置く部署もあります。それらを総合して、来訪者にも企業自身にとっても意味あるコミュニケーションを実現するのがWebづくりです。
これは、事業戦略、製品開発、生産、流通、ブランド、法律、ITシステム、社会的責任など、多様な要素を1つにまとめて、継続的価値提供を生み出す企業経営にそっくりです。
別の見方をすると、Webリニューアルの検討過程で見える問題は、企業課題そのものであり、その解決は企業の変革につながります。
例えば、私たちが良くお手伝いするのは、全社製品体系の整理。事業部門ごとでは整理されていても、全社で束ねてみると分かりにくいことが多いので、全事業を束ねた時に最適な見せ方に再編成をします。部門最適を、全社および顧客視点で再調整するのです。
また、グローバルサイトで世界のディーラー情報を出そうとした時、本社に最新の情報が揃っていないことが分かったので、本社に集約し、常にアップデートをする情報フローを作ったこともあります。
「モノ売りからコト売りへ」は、多くのBtoB製造業が掲げていますが、掛け声先行で、実は何なのかはっきりしないことがままあります。しかし、曖昧なことはWebページに落とし込むことができません。するとクライアントの中で、コト売りとは何なのかを考える議論が始まったのです。同様に、製品の価値や自社の存在意義に立ち返って議論することも多く、Webリニューアルをきっかけに、曖昧にされてきたテーマが明確化されていくシーンは幾度も目にしました。
外見は内に影響する
Webサイトは企業の鏡。問題だらけの自社、そして、ありたい姿の自社、どちらも可視化することができます。
企業の変革が一筋縄でいかない一因は、大きくて見えにくいことです。何が問題なのか、どうなりたいのか、言葉や資料だけではなかなか理解できないものです。
それに対して、Webサイトは、企業や製品の理解、製品選択、場合によって発注、そしてサポートまで、企業の一連の活動を可視化したものであり、実際に使うものなので、利用するすべての人が、何が良くて悪いのかを直感的に理解することができます。新しいWebサイトが良ければ、変化を感じることも容易です。
カスタマーエクスペリエンスの向上が叫ばれますが、Webの表層の使い勝手だけを改善すれば済む訳ではありません。中のオペレーション改革とセットでなければ実現はできないのです。
ですから、きっかけはWebの表層の問題改善でも、突き詰めると企業の内部の改革につながっていきます。
経営企画部が企業変革に活用しはじめた話をしましたが、新しい海外事業ガバナンスのトライアルとして、Webサイトのグローバルガバナンスの議論を先行させた大手BtoB企業の経営者もいらっしゃいました。
例に挙げた製品体系整理、情報フローの改善、自社の価値の再検討なども、最初は単なるWeb上でのことかもしれません。しかし、本来あるべき姿をWebに落とし込み、それが利用者を満足させるものであれば、かならず内部の本質的な変化につながっていくはずです。
ぱりっとしたスーツとピカピカの靴を身に着けると気持ちも上がって良い仕事ができますよね。
外見は内に確実に影響します。
Webリニューアルは、企業変革を見すえて取り組むべきです。