へびのあしあと
夜の街は色彩で満ちていた。 まだ色の絶えない過去の世界で 僕は何を経験し、持ち帰って来れるのだろうか。
この世界では人に影響を与えられる人とそうで無い人がいる 一生のうちで深く関われる人は 生まれた時にすでに決まっているんだ。 それ以外の人たちを 彼は「カザリ」と呼んだ。 (序章0〜終章14)
丑三つ時に繋がった、 ある幽霊のお喋りは、 いつしか事件の真実へと近づいて行く。 全五話。
明日晴れたら宇宙へ行こう。 片道切符を握りしめた私は 地球での最後の日を迎えた。
ニンゲンになりたくて、 ニンゲンを知りたくて、 僕たちは神の身分を捨て 地上に降りることを選んだんだ。 (不定期更新)
私が同じ日を五日も繰り返していると言ったら 誰が信じてくれるだろうか? 目が覚めて時計を見て日付けを見ると 昨日と同じ時刻に同じ天気予報が記されていて ああ、また進まなかったかと眠い目をこすった 最初はもちろん焦ったし戸惑ったけど 今は別にこのままでもいいか、くらいな気持ちで 今朝もパンにジャムを塗って食べながら 違う味も買っておけばよかったと悔やむけど それはもうすでに手遅れなのだ 同じ事を毎日も繰り返している周りの人に 話を合わせたりはぐらかしたり別行動をしてみた
女性が運転する紫の軽自動車で夜の街を走る ビル街の景色は七色の光の玉で溢れていた 降り出した小雨がフロントガラスを濡らしていて ネオンに光る景色が幻想的で写真を撮った 「着く頃には晴れたらいいね」 車内に小さく流れる古く新しい音楽が心地良かった 移動中はこの時代の事や女性のいた未来の話を聞いた 基本僕たちは自分たちがいた時代よりも 過去には行けても未来には行けないから 新鮮ではあるけれど聞いていい物かと思いながら 新しい技術や大きなニュースを教えてくれた 僕が少しで
「私は未来より今のこの時代の方が好きかな」 女性は「時間旅行」と言う名のワインを 惜しげも無くグラスに注ぎながらそう言った 「紫色って上品よね?昔から高貴な色だと言うし」 なるほど、この店が紫を基調にしているのも 彼女が紫の服を着ているのもそう言う理由からか 「確かにミステリアスで独特な色ですよね」 未来に戻ればすぐにでも取れるはずの 目元の細かいしわを作りながら女性は微笑んだ 「で、あなたは?」 どうやらこちらの素性もバレているみたいだった 未来から来た人同
夜の街は色彩で満ちていた こんなにも沢山の色がこの世界に存在しているなど 数日前の自分に言っても信じてはくれないのだろう この時代から数百年も経つと色は徐々に消えて行き 存在はしていても人が感知する事が出来なくなる 僕はそんな未来から過去へと訪れていた 僕のいる時代では肉体を酷使する人間はごく少数で 大多数の人は家から出ずに勉強し仕事をする 常にコンピュータの前かVRの中にいた 通貨は無く、争いも飢えもない 世界中の人たちが平等に、同じレベルで生きている それが良いのか
「この薬には副作用があってですね」 そう言われて医者は副作用を抑える薬を勧めた 何の知識も無い僕は言われるがまま頷くしかない 「さらにこれにも副作用があってですね」 と薬のための別の薬も追加された 「さらにさらに、困った事にこれにも」 「副作用ですか?」 「ええ、だからこれも必要になってですね」 ひとつの薬を飲むために いくつ他の薬を飲まなければいけないのかと とりあえず最後まで聞いてみる事にする 「でもこれは眠気を誘う成分が強くてですね」 ここまで来ると飲む
右耳を引っ張ると雨が降って 左耳を引っ張ると雨が止むの 鼻を押すと雷が鳴って ウィンクすると星が流れるんだ 「どう?すごいでしょ?」 目の前にいる片想いの相手は いまいち反応も感動も少なくて でももっと私の魅力を伝えたくて 興味を持って欲しくて でも今日は調子が悪くてどれも機能しないから どの話も信じてくれない彼と 嘘つきのレッテルが貼られた私 そりゃそんな事、私に出来る訳が無いけど 急に二人きりになって空回りしてるのは自覚してる 気を惹くための方便だってわかっている
夏に持ち帰ったひまわりが 冬になってもまだ枯れずに咲いていた それは年を越してもう何年も 無機質の色しかないこの部屋の片隅で まばゆい黄色はひときわ目を惹いて ただそのひまわりは太陽を向く事は無かった まだつき合って間もない彼女を 初めて家に招いた時 彼女はそのひまわりを見て言った 「まるで本物のようですね」と 造花にでも見えたんだろう そりゃこの季節に咲いている方がおかしいのだから 時と共に彼女との関係は親密になり信頼し合い 恋心が愛へと変わった頃 ひまわりの花び
君が欲しがっていた 部屋の天井や壁に星空を投影出来る おもちゃのプラネタリウムを たまたま入った雑貨屋で見つけた 売れ残っていて安くなっていて もうプレゼントする機会などないはずなのに 自分用にと持ち帰り さっそく開けたのはいいものの 電池を入れても動かずに光らずに そんな不良品をつかまされ ただのオブジェと化しながら 部屋の隅でホコリだけが積もって行った 新しい星を見つけて名前をつけたい そんな夢を持っていた君は どんな名前を考えていたんだろう? それからひと月ほ
私はこの世界に同時に二人存在する それは似た人がいるとかそう言う事では無くて 実際に私が二人生きているんだ 例えるなら人の皮を被った二つの人形を 同日同時刻に違う場所で操っている感じ 私は常に二人分の視野が目に映っていて 二人分の動作や会話をこなす 「それは大変だね」 お酒の勢いで喋ったら友達はそう言って おそらく明日には忘れているであろう これまでの苦労や精神的負担の愚痴を語った 普通なら頭がおかしいとしか思われないのだけど だからこそお酒が弱いこの友達は有難い
「 何億光年先まで照らす事の出来る 超協力なライトがあって 何億光年先まで見通す事の出来る 驚異的な視力を持つ男がいて どこか遠く、遥か遠くの銀河の彼方 何億光年先の星の大地に建っている 墓石ほどの石碑を同時に見たら ライトを点けて瞼を開けたら どちらが先に辿り着くのだろうか? そんな勝負が行われた 男が言うには、見た時にはもう 石碑は照らされていたんだと だから自分の負けだと言ったんだ ずっと暗闇が続いていて 何億光年が経ってようやく 小さな四角い石碑が見えたんだっ
ドーナツが大好物な私は 栄養が偏るのも承知の上で 朝昼晩と三食ドーナツ生活を もう何か月も続けていた 友達からは「よく飽きないね」と言われるけど 美味しいし腹持ちもいいし種類も豊富だし なにより自分が満足なのだから仕方がない 小さい頃はドーナツは たまにしか食べられないご褒美で 母が気まぐれに買って来るドーナツを見つけては 学校帰りの私は飛び跳ねて喜んだっけ 口の周りを汚しながらかぶりつく私に母は 「ちゃんと穴まで食べるのよ」 よくそう言われて怒られていたっけ おそら
「ねぇ、見せてもらっていい?」 そう言われて お互いの机をくっつけて 僕の教科書を真ん中に置いた 筆箱も忘れたと言う君は らしくないなと思いながらも 鉛筆を貸して消しゴムを共有する 急に体を寄せて来て 僕のノートを覗き込みながら 「意外と字綺麗なんだね」と言うから 「見るなよ」とノートを腕で隠した 先生が黒板にいろいろと書いている中 今日はやたらとちょっかいを出して来て 見つかって怒られないかとヒヤヒヤものだ 行ったり来たりする消しゴムのカバーを外し 「ここに私の
また知らない世界へと送られた いわゆる並行世界とかパラレルワールドとか その類の物だとは思うのだけど ある事をするとそこへと飛ばされてしまう 僕はそんな特異体質である ただ別の世界に飛ばされたと言っても おそらく0.0001ミリほどしか移動してはいなくて 生活に影響する事は今の所はほとんど無く 周りを見渡して前と変わった所と言えば 水の色がほんのり青くなった事くらいだろうか 毎度移動する度に めんどくさい能力を授かったと自分でも思う 別の世界に行くと、その先では必
駅前から住宅地へと抜ける商店街 角のゲームセンターが 大きな音を響かせてシャッターを閉めた 昼間は人でごった返しているこの場所も さすがに夜遅くともなると人はまばらで 少し別世界にでも来たようなこの空間が好きだ まだお酒が軽く残っていて視界は霞み シャッターの前に一人座り込むと 鞄から出したペットボトルの水を飲んだ たまにその前を通り過ぎて行くのは バイト帰りの学生や、千鳥足のサラリーマン コンビニ帰りのラフな服装の人に 散歩するおじさんなどなど 遠くから轟いて来る
ストロボを浴びる瞬間が好きだ 全身が光に包まれる0コンマ何秒が 私を焼き付けて特別な気分にさせた 小さな個人撮影会の帰り道 今日は頑張ったと自分へのご褒美に ずっと我慢をしていたラーメン屋に入ったら 早くも今日撮ってくれたカメラマンから 数枚の写真が送られて来た 綺麗なスタジオにかわいい衣装 完璧な照明にテンプレートの構図の写真を眺めながら ポーズのバリエーションをもっと増やさないとと 反省しながらお礼の言葉を送る たまに写真が上手な人に撮られると思う事がある あまりに
「 12ページと55ページ 87ページに177ページ 最後のページはどちらでも ここだけ読めば この本の伝えたい事がわかります 私が語りたい事がわかります 理解されるかどうかはわかりません 共感されるかどうかもわかりません ひとつの考えとしてお受け取り下さい 加えて遊びを楽しみたい方は エンターテインメントが好きな方は 全て読むもよし もしくは 凶器は 35ページの2行目 動機は 108ページの12行目 犯人は 211ページの8行目 時間が無い方は ここをどうぞ