見出し画像

【挑戦する先生インタビュー vol.2】「マインドフルネスで全員が幸せな学校づくりへ」

今回は茨城県石岡市の小学校に勤務していらっしゃる安富先生にインタビュー!
学校にマインドフルネスを取り入れるという一風変わった取り組みをされている安富先生。なぜマインドフルネスなのか、どのように学びと結びついているのか。児童と先生、そして学校組織全体を見据えた視点でお話してくださいました!


ーー安富先生はどのような経緯で先生になったのでしょうか?

出身は東京で、大学は法学部を卒業しました。もともと弁護士になりたいという夢があり法学部に入りましたが、広く社会を見てみたいという思いが強く、司法試験の勉強に没頭できませんでした。大学3年生で司法試験を受けても全く手応えがなかったこともあり、方向転換して民間企業に就職しました。民間企業では金融関係の企業に入り、7年間勤務しました。

当時、週末は地元の子ども達に阿波踊りを教えていました。夏休み期間中は特に熱心に取り組んでいましたね。子ども達と過ごす時間がすごく楽しくて、教育や人の成長に関わる仕事に興味を持ち始めました。30歳になった時に、「週2日やりたいことをする人生よりも、週7日自分のやりたいことができる人生を送りたい」と思い、退職しました。

教員免許をもっていなかったので、兵庫教育大学の教職大学院に3年間通い教員免許を取得。卒業後に5年間さいたま市の小学校に勤務しました。子どもが生まれたこともあり、2018年に妻の実家がある茨城県石岡市に移住し、現在は石岡市内の小学校の教員として働いています。

ーー最近、特に挑戦していることや関心があることを教えてください。

私たちの学校では、ソーシャル・エモーショナル・ラーニング(SEL)という社会性と感情の学習に焦点を当てたプログラムを実践しています。
このプログラムを扱う前提として、まず教師自身がSELのスキルを身につけ、その在り方を児童に示すことが重要だと考えています。

私自身、最初は「子ども同士の関係性を作る活動の一環かな」と軽く見ていました。
しかし、実際にプログラムに取り組んでみると、その意義の深さに気づかされました。SELは、単に社会的なスキルを育むだけでなく、子ども達の感情にも焦点を当てているのです。

SELを実践するうえでは、まず私たち教師が自身の感情的な側面を理解し整えることから始め、その姿を子ども達に示し、彼らの社会性を育むことが重要だと考えています。

ーー初めから他の先生方にもSELは受け入れられたのでしょうか?

私は実践が始まって2年目に着任したのですが、なかなか難しかったと思います。

SELで扱う内容が教員にとって馴染みのある社会的なスキルに集中する傾向がありました。しかし、子ども達の生活の中では、そのスキルを生かす前に、感情に振り回されてトラブルに発展してしまうケースが多く見られました。

先生方と対話を重ねる中で、社会的なスキルを学ぶだけでなく、自分の感情と向き合い、それをどう扱うかというトレーニングをすることが重要なのではないかという意識が、段々と芽生えていきました。

この時期、個人的に参加していた講座(こたえのない学校/Schools for Excellence)でマインドフルネスに出会い、トレーニングを重ねていました。

マインドフルネスとは、仏教でいう「念」を英訳したもので、漢字の通り、「今」に「心」つまり「意識」をしっかり置き、「今この瞬間、何が起きているか」に気づいている状態のことを意味します。

特別なことをするのではなく、生活の中で呼吸に意識を向けて「今ここ」に意識を留める、とってもシンプルな実践です。

自分自身がトレーニングを重ねる中で、自然と心が穏やかになったり、自分の内にある幸せに気づく感度が高まっていくことを感じていました。

そこで、これまでのSELの取り組みにおけるモヤモヤを晴らすために、マインドフルネスの実践が一つの答えになり得るかも知れないと校内で提案したところ、意外にも先生方の反応が良かったんです。

「黙想」「黙読」などの心を落ち着かせる実践は、これまでの教育実践の中でも多くみられるものでした。職員室でもベテランの先生方を中心に、スムーズに受け入れてもらえたように思います。

一方で、先生方の中には、「いきなりマインドフルネスを始めて、うまくリードできるかな?」といった不安もありました。

そこで私は、マインドフルネスに関する5分程度の短い動画を毎日観ることで、心が落ち着きストレスが緩和されるという実践のデータを紹介しました。

当時、コロナウイルスによる臨時休校等により、子ども達は大きなストレスを受けていたこともあり、そのストレスを緩和できればと、全クラスで毎朝5分間、子ども向けのマインドフルネス動画を視聴することから始めました。

幸いにも、この取り組みがNHKの「おはよう日本」で紹介され、全国に放送されました。これにより、保護者や他の教員もマインドフルネスへの理解が広がりました。少しずつマインドフルネスの種をまき、学校文化の中に根を下ろしていくことができました。

ーー先生方も納得できたからこそ、今では校内にマインドフルネスが根付いているんですね

現在、学校全体の取り組みとしては、毎朝2分間、自然の音を聞きながら目を閉じて自分の呼吸に意識を向ける「静かな時間」を実践しています。この時間が、子ども達だけでなく教職員にとっても、1日を穏やかに始めるための大切な「余白の時間」になっています。

私はこの「静かな時間」を通じて、子ども達だけでなく、私達教職員があえて思考のスピードを落とし、リラックスした状態になってほしいと考えているんです。

教員の朝の時間はとにかく忙しいですからね。やるべきことをあれこれ考えてしまう朝だからこそ、あえて一呼吸おいて、「今ここ」に意識を向けることに挑戦していきたいですね。

ーーマインドフルネスが実践の場をブリッジしていくイメージなのでしょうか?

そうですね。SELやマインドフルネスは「個別化された学び」と「協働的な学び」を実践するための環境づくりにつながっていると思います。

SELやマインドフルネスを通じて心が安定していくと、友達や先生との関係の質が高まります。そうすると、授業中も安心して人と違うことに挑戦できるし、仲間の協力も得やすくなります。

昨年は専科教員として4・5・6年生の理科の授業を担当しました。理科の教科書を見ると、問いも実験方法も決まっていて、実験結果や問いへの答えが分かりやすく載っています。教科書に沿って授業を進めていくと、どうしても「教科書通りに再現すること」が目的になってしまうことに疑問を感じていたんですよね。

そこで、思い切って子ども達に自分でテーマに関連する問いを立ててもらい、それを探究する授業づくりに挑戦しています。一人ひとりが科学者になれる時間なので、「科学者の時間」と呼んでいます。

6年生が「水溶液の性質」について学んでいた際のエピソードを紹介します。

あるチームが「どのようにしたら、炭酸水を作ることができるのか?」という問いを探究していくなかで、二酸化炭素と水を混ぜて炭酸水を自作していました。

完成した自作の炭酸水を市販の炭酸水と比較したところ、自作の炭酸水が市販のものに比べて炭酸が弱いことにショックを受けていました。

すると、子ども達から「もっと強い炭酸水をどうやったら作れるのか」という新しい問いが出てきました。

これをきっかけに、自主的に研究を始める子もいました。例えば、クエン酸と重曹を混ぜて二酸化炭素を発生させる方法を調べ、実際に試してみるといった活動です。

写真:4年生のクエスチョンボード


このように、教科書に書かれている問いから一歩踏み出し、自分たちの興味や関心に基づいて探究することで、より深い理解や更なる問いに繋がります。そして、それぞれが自ら選んだテーマについてお互いに発表し合うことで、学びがより豊かなものになっています。

この取り組みは、単に知識を得るだけでなく、実社会で必要とされる「自分で問いを見つけ、探究し、解決策を見出す力」を育むことに繋がっていると感じています。探究は同じ問いに興味をもった仲間と協働して進めるので、自然と仲間とコラボレーションする力も育まれます。

社会人として働くときには、すべてがマニュアル通りに進むわけではなく、自分で課題や目標を設定して、計画を立て、仲間とともに実行に移す必要があります。学校でもこのような学びを重ねることが、子ども達が将来、社会で活躍するための基盤となるように思います。


ーー安富先生は初めからそのような考えがあったのでしょうか?

私自身が社会人として働いていた経験から、自ら課題を見つけて、解決策を提案し実行していく力を育てていきたいと強く思い続けてきました。

そんな中で、「科学者の時間」を高校で実践している先生とお話した際に「教わったことは忘れる。自分でつかんだ答えなら一生忘れない」というお話があり、衝撃を受けました。

だからこそ、子ども達と取り組んでいる理科の授業では、子どもが自分で問いを見出し、実験計画を立て、実験を重ねながら自分なりの答えをを見つけ出し、発表してフィードバックを受けるという探究のプロセスを大切にしています。そこでの学びが一生忘れないものになったとしたら嬉しいですね。


ーー最後に、先生が大切にしていることを教えてください

子ども達をリスペクトすること、そして子ども達を「子ども扱いしないこと」を大切にしています。

子ども達の興味ややりたいことを大切にしながら、一緒に学びを作り上げていきたいと考えています。過去には自分のやりたいことを優先してしまったこともあり、子どもの思いや声に向き合えていなかったこともありました。

その反省もあり、子ども達の言葉に深く耳を傾けることを大切にしています。

一方で、学校には、いろんな先生がいることが大切だとも思います。自分のような探究的な学びのスタイルをもつ先生がいてもいいし、一斉指導が得意な先生がいてもいい。全員が同じ方法で教える必要はないと考えています。

教育における多様性を受け入れ、一人一人の先生も自分の得意を生かしたり、思いを持って子ども達と関わることを大切にしていきたいですね。

先生が幸せなら、きっと子どもも幸せになる。子どもが幸せなら保護者も幸せになる。

そして、保護者が幸せになれば地域が幸せになる。関わる人全てが幸せになれるような学校を作っていきたいと考えています。

そのために、まずは自分自身が平和で穏やかな状態でいることから始めたいですね。

そして、身近な先生方とのふとした会話であるとか、子どもとの関係性とか教室の雰囲気を丁寧に積み上げていく。

そんな姿に興味をもってくれた先生と、少しずつ幸せの種を広げていくような進め方をしていきたいです。

自分の手の届くところから無理なく、みんなが幸せになれる学校づくりを始めていきたいです。


(インタビュー終了)

安富先生、お話しいただきありがとうございました!
個別最適な学びとマインドフルネスの関係性、そして児童にとっても先生にとっても、全員が幸せになれる学校づくりを目指すというお言葉が印象的でした。
今回も最後まで読んでくださりありがとうございました!

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集