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【連載小説】扉 vol.3 「幽閉」
https://note.com/tibihime/n/n61ca2d979d50
俺は断固として反対した。
実の息子を幽閉だなんて、狂気の沙汰だ。
しかし、王様は言う。
「あやつにこの国を任せたらどうなる……6千万人の住民たちの命をあずかるのだ……あやつには、無理なのだ。」
「それなら俺だって同じです。務まりません」
「そうかね? 私にはずいぶんしっかりしているように見えるが」
王様は俺をかいかぶっている、と俺は思った。
「とりあえず、明日教師がやって来る。授業だけでも受けてみてはもらえまいか」
王様が懇願する。
「授業……ですか。受けるだけ受けてみましょう」
俺は了承した。
翌日、不機嫌な王子と俺は一緒に授業を受けることになった。
授業は至って簡単な、この国の歴史の授業だった。
しかし、授業が始まると、すぐに別のものに気を取られる王子。
授業を全く聞いていない。
途中、先生から注意を受けるも、またしても違うことを始めてしまう。
俺は真剣に授業を受けていた。
だから、余計に王子の行動が目につく。
50分の授業のうち、五分の四は授業を聞いていなかった。
しかし、先生は
「今日のおさらいのミニテストを……」
と、テスト用紙を出してきた。
もちろん俺は一問も間違えなかった。
だって、直前に聞いた話だったから。
しかし、王子は25点だった。
それでもましな様子で、先生は
「今日は王子はなかなか集中されておりましたね」
と言う。
まあ、あれだけ聞いていないにも関わらず25点は、まあ、いいのか……と思っていると、先生は、
「先週同じ講義を行ったときは0点でございましたから、本日は王様にこの模様をよろしゅうございました、と、報告させていただきます」
と言い放った。
俺はこの発言をにわかに信じがたかった。
今日あった授業のほとんどが同じ有り様だった。
しかも、先生によっては、
「ライバルがおられると、俄然王子にやる気が出られる」
などとぬかす。
俺は頭痛がし始めた。
確かに、この王子に6千万人の住民たちを任せるわけにはいかない。
そう、思った。
王様はミニテストの結果を聞くと、やはり……と思った。
やはり、王子には継がせられない、そう思った。
代わりにあの少年はどうだろうか。
いきなり満点をだすなど、そうできることじゃない。
私の前に出ても、さほど緊張していないようだ。
度胸もあるといったところか。
まだまだ学んでもらわねばならないが、あの少年なら……!
王様はそこまで考えると、少し考えるのをやめた。
私だって王子を幽閉などしたくない。
できれば自分の跡は自分の子どもに継がせたいのが本音だ。
しかし、この調子では何年かかっても王子は王にはなれない。
王様にとっては頭の痛くなる問題だ。
だが、しかし、あの少年なら王子と同じ顔を持つ、あの少年ならば我が子として愛することもできるやもしれぬ……
翌日も、翌々日も授業は相変わらずだった。
俺は相も変わらずの王子を見ているだけで何も出来はしない。
そんなときだった。
教師のうちの一人、歴史の先生が病で倒れてしまった。
倒れた先生の代わりにやって来たのは、若い、熱血教師だった。
熱血教師は今までの温い環境をよしとせず、しっかり王子に教え始めたのだ。
王子もそれなりに話を聞くようにはなった。
なったものの、成績は上がらず。
俺の成績は右上がりに上がっていく。
熱血教師は堪らなくなり、王様に訴えた。
「今の私の力量では、王子は伸びることができません。教師失格です。やめさせてください!」
しかし、王様はやめさせることをしなかった。
なぜなら、少年ケイタを後継者にしようと決めたからであった。
王子には、幽閉こそしないにしろ、王宮より外へでることを禁じた。
これも幽閉と言えば幽閉になるだろう。
しかし、王子は王子で、喜んだ。
だって、嫌いな勉強をしなくてよくなったから。
俺は複雑な気持ちでこの命を受けた。
それからは毎日俺だけが勉強に明け暮れた。
歴史に数学、物理に天文学、そのほかにもたくさんの教科があった。
中には小難しい帝王学もあった。
俺はある程度高校で習っていたので、割りと楽勝に最初は切り抜けた。
最初は、だ。
だんだん難しくなっていく教科を投げ出したい気持ちで一杯になることすらあった。
でも、俺は逃げなかった。
それは王を継ぎたいというよりも、俺がこの世界にいる意味が欲しかったからだ。
教科の中には剣や弓、その他いろいろな体育の授業もあった。
幼少の頃、剣道を習っていたせいもあってか、剣の授業の飲み込みは早かった。
早かったと言っても、他の科目より、というだけで、実戦にはまだどうかな、というところだ。
聞けば、この国と隣国の間にはモンスターがでる砂漠があり、なかなか友好条約を結べないという。
隣国へ行って帰ってくるまでに使いのものがモンスターにやられてしまうのだ。
そこで、国では今、勇者を探しているという。
これって勇者フラグ?と、俺も負けじと出たいことを王様に告げた。
王様は最初は反対していたが、俺が、俺を世間に知らしめるためにもよいチャンスだと言って口説きおとした。
王様は、真の勇者と最も強い魔術師をつけて、俺の護衛にしようと言った。
勇者はなかなか見つからなかった。
勇者は旅をしていることが多く、この国に来ていなければ、国内には勇者はいないだろうとのことだった。
魔術師は、若くて綺麗な男だった。
魔術師と俺は、練習試合を何度も行い、互いのウィークポイントなどを見つけ出しては話し合い、絶好の状態を引き出そうとしていた。
魔術師の名前はシン。
真に強くなるようにと両親が付けてくれた名前だそうだ。
その名の通り、シンは強かった。いくつもの呪文を操り、複合型の魔術を使った。
血筋なのか、両親ともに魔術師だったという。
シンは先日行われた、友好条約のための魔術師を決める試合を総なめにして勝った勝者でもあった。
だから、俺の剣技など、百もお見通しのようだった。
シンに言われたところを直す度に俺は強くなっていった。
強くなり、剣の先生が免状をくれるほどにだ。
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