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チーズタルト・BAKEの秘密

30代になりある程度仕事も自分で回せるようになると、将来のことを考える余裕が出てくるのだろうか。最近よく「今の会社を辞めたら何をするか」「十分なお金が手に入ったら何をするか」といった会話をすることがある。

その回答は人それぞれなのだが、(意外にも)「パン屋をやりたい」「雰囲気の良いカフェを開きたい」など、飲食業を開業することへの憧れがある人が多いようだ。

飲食業は太古の昔から存在する業種なのだが、飲食業っていわゆる「ベンチャー企業」ってのはないのかな、と気になって調べてみると、上位に出てきたのは、あのチーズタルトで有名な「BAKE」だ。

そこで今回はBAKEがなぜ「お菓子×ベンチャー」の企業として成長したのかを考察し、アーリーリタイアへの憧れを強めてもらいたいと思う。

創業者

1. 家庭環境

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BAKEの創業者は長沼真太郎氏である。長沼氏は北海道札幌市で生まれ、洋菓子店「きのとや」の三代目として教育されてきた。生い立ちからして「お菓子屋さん」だった。

長沼氏は父からお菓子を作るうえで以下の重要な3つの原則を教えられた。それは、

①フレッシュであること
②原材料はいいものを使うこと
③手間をかけること

ということだ。逆にこれだけ守っていれば必ずいいものができるといっていたそうだ。この3つの原則は今のBAKEの経営スタイルにも結び付いている。

2. 学生・社会人時代

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長沼氏は甲子園出場経験もある札幌南高校に入学し、野球部に入部。部員100人をまとめるキャプテンとして就任。このころの経験からリーダーシップ等のスキルが育まれたと思われる。

そして大学は慶応大学商学部に進学し、企業や株式投資を始めとするビジネス系サークルに入り、実際に起業をして経営をしていた。ここで起業のプロセス・ノウハウ・ポイントを把握することができたのだろう。

大学卒業後は丸紅株式会社に入社して海外から輸入した菓子・食品を日本に輸入するという事業に関わっていた。この時に大企業の目線から製菓・飲食業全体をとらえる視野を得ることができたのではないかと思われる。

3. 創業時代

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あるとき実家のお菓子屋である「きのとや」を訪問していた香港財閥の人が「上海でお菓子屋を展開しないか」と長沼氏に持ちかけてきた。長沼氏はこれを良い話だと思って話を受け入れ、丸紅株式会社を退職した。

が、この上海展開プロジェクトは半年程度で中止になってしまった。どうやら香港財閥の人は長沼氏がお菓子屋の三代目ということでお菓子作りができると思っていたようだが、長沼氏はお菓子を作ることができなかった。このすれ違いがプロジェクト中止の原因になったのではないかといわれている。

ここで長沼氏はもう一度お菓子業を勉強したいと思い、実家の「きのとや」に入社した。この「きのとや」で店長を任されたりいろいろしているうちにチーズタルト等を開発して現在のBAKEの形になっていった。

商品へのこだわり

飲食業ではどのようなジャンルにおいても商品力が最も重要な要素となる。

医者や弁護士のような専門的なビジネスでは一般人はそのサービス品質の違いがよくわからないためプロモーション力等が重要となる。

他方で、衣・食・住は全員が毎日経験して無意識のうちに比較をしているため、良し悪しが簡単に評価されてしまうからだ。

1. 取扱い商品の選定

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BAKEでは取り扱い商品については、「10人中8人が大好き」であることを条件としている。ニッチでコアなファンを対象とした製品ではなくてあくまで大勢の人向けの商品を考案しているということだ。

今までBAKEが出している商品を見ると、チーズタルト、バターサンド、ガトーショコラ、シュークリーム、アップルパイ、スフレ等だ。確かにこれらの商品は多くの人が好きそうなラインナップだ。じゅるり。

2. 焼きたての提供

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BAKEの商品は「焼きたて」であるということにこだわっている。そうすることで味や香りが損なわれない状態で顧客に商品を提供している。(長沼氏の父からの教え「①フレッシュであること」

3. 原材料のこだわり

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BAKEは原材料にもこだわっており、チーズタルトにおいては北海道産のどこよりもいい原材料を使用している。(長沼氏の父からの教え「②原材料はいいものを使うこと」

4. 商品開発へのこだわり

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この流れからすれば、BAKEは一流パテシエ等の専門家を起用して、商品開発において「③手間をかけること」という長沼氏の父からの教えを実践しているのだろうな、と思うかもしれないがそうではなく、あくまで自分たちで商品開発をしている。ただ、従来のお菓子屋さんとは「手間のかけ方」が異なるのだ。

商品開発にはIT業界を中心とする多くのスタートアップで採用されている「ABテスト」や「Co-Creation」という方法が採用されている。

「ABテスト」:2つ以上の物を作って、食べて、比較するということを繰り返してより良いものを採用する方法。
→ BAKEでは原材料、焼き時間、焼く型番等を何度も変更しながら比較実験をしてより良い商品を生み出した。
「Co-Creation」:多様な立場の人たちと対話しながら製品を開発していくという方法。
→ BAKEでは新しいお菓子のベータ版を出した際には顧客からのWEB上でのフィードバックを得つつ、毎週アップデートをしながら商品を開発している。

パテシエによるお菓子作りは言ってみれば「独創性や創造性に依存するアートの領域」ともいえるが、BAKEのお菓子作りは「実験や統計データを用いた論理的・科学的な領域」と考えることもできる。

このような手法を用いる点に「お菓子×ベンチャー」と呼ばれる所以があるのだろう。

売り場へのこだわり

1. 駅ナカ中心の展開

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BAKEは駅ナカ中心に店舗を展開していった。BAKEの商品は「200円で安価だけどちょっとした贅沢品」というイメージを作ってきており、駅ナカにあることにより家族や友人、さらにはビジネス上の手土産として利用される機会が多くなった

「あ~!あの駅ナカにあるやつね~!食べてみたかったんだ~!」というOLの会話が目に浮かぶシチュエーションだ。

2. 五感の支配

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店舗は工房一体型となっており、商品を製造している場所を接客場所と近いところに置いている。それにより以下のように買う前から顧客の味覚以外の五感を支配している

・視覚 = 鉄板に並んだ黄金色の焼きたて製品
・嗅覚 = 焼きたての商品の香ばしいにおい
・聴覚 = 焼けている音
・触覚 = 焼いている工房・袋詰めにされた製品の温かさ

これにより顧客は味覚によっても製品を堪能してみたいと考え、購買意欲が促進されるのである。

プロモーションへのこだわり

1. 1商品1ブランド戦略

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BAKEでは複数の商品を取り扱っているが、商品ごとにそれぞれのブランドを別にしている。1商品1ブランドとすることによるメリットは以下の通りだ。

①店舗面積が少なくてすむ
→家賃が安くなり人気になりがちな駅ナカにも出店しやすい
②店舗で売られている商品が外から見て明確
→注力領域を明確に示すことで認知度が向上しやすい
③オペレーションの単純化
→取り扱い商品が少ないので、オペレーションが単純になりスタッフの作業効率が上がり、また覚えることが少ないため店舗展開の準備に時間がかからない。また、商品の作り立てが提供でき、廃棄率も抑えられる。

ただ、この1商品1ブランド戦略は全く売れない商品を展開した場合にすぐにつぶれてしまうという大きなリスクもはらんでいる。こういった背景の中で既に説明した「10人中8人が大好き」という製品に限定して商品を作るという方針が効を奏することとなる。

2. オウンドメディアを活用したプロモーション

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BAKEはインスタグラム等のSNSはもちろん「THE BAKE MAGAZINE」というオウンドメディアを活用して宣伝している。

オウンドメディアを活用することにより広告会社を活用するよりも極めて安い価格で、かつ一貫性のある宣伝広告を出すことができている

まとめ

BAKEは色々な戦略を展開しているが、よくよく見ているとその中心にある方向性は、長沼氏の父からの教えである、①フレッシュさ、②原材料の良さ、③手間をかけること、の3つしかないことがわかる。これらの3つの方向性を最大限活かす方法として上記のような具体的なアクションがとられているに過ぎない。

経営における中核的な方向性と具体的アクションとの一貫性が重要だということがわかる経営スタイルだと思われる。

父の教えはやっぱり偉大なんだよね。

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