「100万回生きたねこ」と「100万分の1回のねこ」
佐野洋子さんの「100万回生きたねこ」という絵本があります。
この絵本に捧げる「100万分の1回のねこ」という短編集を書店で見つけたとき、心がふるえました。なんという素晴らしい企画!あの100万回のうちの、大事な1回1回を描いてくれるなんて!
13人の作家さんが短編を寄せていて、それぞれに「100万回生きたねこ」をテーマに、思う存分書かれています。
各短編の冒頭には、作家さんの一言メッセージが書かれています。
これもとても素敵なのです!
その作家さんの個性や短編内容を表しているようでした。
例えば、江國香織さん。
「ここにはほんとうのことがかいてあり、ほんとうのことをかいたりしてもいいのだと、私は衝撃を受けました。ほんとうのことをこわがるようではニセモノだ、と、私は自分を叱咤しました」
そうして始まる江國さんのお話は、゙ほんとうのこどに満ち溢れています。
透明で、シンプルな文章が、心を切なく優しく揺り動かします。
帯にも入っている、谷川俊太郎さんの一言メッセージ。
「「100万回生きたねこ」は、佐野洋子の見果てぬ夢であった。それはこれからも、誰もの見果てぬ夢であり続ける。」
とりをかざる谷川さんのお話は、流石に圧巻のスケール。いちいち圧倒され、かと思えば頬を緩ませられ、そして目頭を熱くさせられました。
もう一つ好きなのは、くどうなおこさんの詩の作品。
詩ですから、3ページの、一番短い作品です。それなのに、まるで夢うつつのなか、陽炎のように言葉から景色がたちのぼり、一番情景を浮かび上がらせる作品です。
やはり詩ですから、最も正解や決まった解釈のない、自由で本質に迫れるものなのだろうと、読む人の心にある真実を映し出すのだろうと思います。
ここにご紹介した3人の他に、岩瀬成子さん、井上荒野さん、角田光代さん、町田康さん、今江祥智さん、唯野未歩子さん、山田詠美さん、綿矢りささん、川上弘美さん、広瀬弦さんの作品が寄せられています。
この本を読むと、感じます。
一瞬こそが永遠で、たった1回きりが、100万回を超えるのだと。
いつかこの世界にさよならを告げるときには、そんな記憶をかみしめながら、穏やかに旅立ちたい。
人生80年とすれば、全部で3万日弱。
今日で何千日目でしょうか。何万日目でしょうか。
たった1度の、3万分の1回の、今日が終わります。
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