吉原炎上
今回紹介するのは明治の吉原遊廓を描いた映画『吉原炎上』です。
「男が通う極楽道、女が売られる地獄道」
『吉原炎上』ナレーションより
この作品は画家・斎藤真一が養祖母が吉原の花魁として過ごした半生と1911年(明治43年)4月に発生した吉原火災に基づいて執筆した絵画付き小説を原作に1987年、五社英雄監督、東映京都撮影所で制作・上映され、主演の名取裕子をはじめ二宮さよ子、藤真利子、西川峰子(現・仁支川峰子)、かたせ梨乃ら有名女優が吉原遊女を演じて話題になり、特に当時の資料を基づいて琵琶湖湖畔で組み立てられた明治時代の吉原遊廓のセットは豪華さを誇り、最終場面で炎上するシーンは圧巻です。
明治末期、借金を肩に岡山から吉原遊廓に売られた内田久野(名取裕子)は妓楼・中米楼に身を置き、「若汐」という源氏名をもらい遊女になり、やがて「紫」の名跡を継ぎ吉原一の花魁に成長・出世する物語です。
久野(紫)をめぐる人々の物語も描かれています。遊廓内の喜怒哀楽を五社英雄独特のエロティシズムと岸田今日子のナレーション、そして出演する俳優の演技が日本の映画史に名を残しました。
原作は明治20年代(1888年〜1897年)の吉原で主人公のモデルとなった内田久野はこの時期、花魁(娼妓)として過ごしていました。映画に登場する大火が発生したのは彼女が落籍された後の出来事で当時、久野は夫と共に日本の植民地になったばかりの朝鮮・京城(現・ソウル特別市)に滞在していました。
それをあえて明治40年代(1908年〜1912年)に置き換え、より深みをもたせたということでしょう。
物語は四季を用いて分けられ、登場人物にそれぞれ役割を与え遊廓の生活、習慣、模様を鮮明に描いています。
「春」の章は二宮さよ子演じるお職の九重(ここのえ)で久野の姉女郎として吉原遊女の心得を体で教える場面と、年下のなじみ客と破局し年季明けで吉原を去り、すれ違いに売られてきた少女たちが大門をくぐる場面は印象を与えます。九重のように年季まで務めて退籍する遊女はごく僅かで大半は病で他界します。
「夏」の章のヒロインは吉里(藤真利子)で自分が尽くしてきた客の男(益岡徹)に振られ自暴自棄になり群衆の前で自害する場面は「商品」として客に惚れてはならない掟を破った遊女の悲哀を伝えます。
特に後世に語り継ぐ名場面の一つが「秋」の章のヒロイン、小花(西川峰子 現・仁支川峰子)で出自を偽り多くの客を取り続け病に冒された遊女を演じました。
※ 2024. 3. 8、文章を一部削除し修正
※ 2024. 4. 7、加筆
※ お詫び
今回の記事は「大吉原展」騒動を絡め作成したことお詫び申し上げます。思慮に欠けたことを反省し修正しました。