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アクアフィットネスのメリットは?

こんにちは、医療法人が運営するフィットネス施設である42条施設(メディカルフィットネス)の開設準備を行っている桜井です。
つい先日、当施設でプールを施工するというお話をさせていただきました。


そこではプール施工に伴う課題や悩みなどをあげさせてもらいましたが、もちろん水中で運動を実施するメリットも多くあります。
今回は基本的な水の物理的性質を挙げながら、アクアフィットネスにおけるメリットをまとめてみます。



アクアフィットネスとは?


 日本国内では、沐浴や湯治のような水治療が伝統的に行われています。
このほかに、水中運動水泳も健康を改善させる方法として考えられています。
これらを包括してアクアフィットネスという概念が提案されています。


アクアフィットネス時の身体への影響


静水圧による影響

 水の中では水圧が加わり、水圧の程度は水深によって異なります。
例えば腰までの浸水では下肢だけが水圧負荷の影響を受け、みぞおち(剣状突起)までであれば下肢と胸部、みぞおち以上の胸部浸水時では心臓と肺も含めた中心静脈系に影響が及ぶことになります。
水深が深くなるほど水圧が高くなり、1mあたり0.1気圧相当の水圧が加わります

 下肢へ水圧が加わると下肢からの血液の環流が助けられることになり、心臓に戻ってくる血液量(静脈還流量)が多くなります。
これによって水中運動時の心拍数は陸上での運動よりも少なくなります。
心疾患などで心拍数を高めずに運動を実施したい方にとっても安全に運動を行えるというメリットになります。

 胸部が浸水すると右心房に戻ってきた中心静脈の血圧も高くなるため、中心循環や呼吸機能にも影響が及びます。
また、中心静脈圧の上昇に伴う心肺受容器反射が起こり、心房性ナトリウム利尿ペプチドの分泌が促進され、利尿作用が亢進します
プールに入ると体が冷えたり、膀胱が圧迫されることによってトイレが近くなるものだと思っていましたが、そうではなくて、水圧による心肺受容器反射の影響だったんですね(笑)

熱伝導率・比熱による影響


 体温より低い温度の水に入れば当然冷たく感じ、体温が奪われていくのを感じます。
身体の冷える割合は、同じ温度の陸上(空気)よりはるかに早いです。
冷たく感じるのは水中で皮膚表面を通して身体の中から水中へ熱が流出して、皮膚表面付近の温度が低下するからです。

 水は空気に比べて熱伝導率が25倍以上も高いため熱を伝えやすく、同じ体積の空気と比べて同じ熱量を受け取っても温度の上昇が少ない(比熱が空気よりも1,000倍以上も高い)ため、身体を取り巻く水の温度が上昇しにくく、体温との温度差が縮まらないため、より多くの熱が身体の外へ流出します。

 身体の外へ熱が流出すると、今度は身体の中で熱を損失を生み出す体温調節のための反応が起こります。皮膚血管収縮や代謝の活性化、ふるえなどです。
その際、体内でエネルギーを消費することになるので、カロリー消費によるダイエットの効果が見込めることになります。
ちなみに一般的に血管収縮は血圧上昇を引き起こしますが、同じ強度の水中運動時の収縮期血圧は陸上運動と比較して低い傾向があります
よって、陸上運動と比較してエネルギー消費量を多くしながら安全に運動を行うことができます。
具体的な設定温度として、

・競泳用プール   :26~27℃
・一般用屋内プール :30℃前後
・リハビリテーション:
   パーキンソン病;32.2~33.3℃
   関節炎    ;28.3~32.2℃

地神裕史ら:スイミングのメタボとロコモに対する効果.
臨床スポーツ医学38:58-64.2021

とされています。


浮力による影響


 水中では浮力が働くため、重力の影響を軽減させた状態での運動が可能になります。
例えば、腰までの水深で運動する場合は見かけ上の体重は約半分になり、首まで浸水して運動する場合は体重の約10%まで軽減されます
この作用を利用して、下肢関節への負荷を軽減させた状態での運動が可能になるため、荷重時痛の伴う方も痛みが伴いにくい状態で運動が実施できます
なので、陸上でのウォーキングと比較して、水中歩行では

① 浮力の影響で重力(体重)による下肢や腰部の関節や筋に働く負担が軽減される
② 下向きに働く重量ではなく、水平に働く水の抵抗が負荷となっている

 
 また、地上では重力の影響で抗重力筋や姿勢保持筋は常に活動(緊張)していますが、浮力によってこれらの筋群をリラックスさせることができます。
慢性腰痛など、慢性的に脊柱起立筋などの緊張が高くなっている方にとって、リラクセーションによる疼痛軽減効果も見込めそうです。
加えて、水温や水圧による温熱効果、血行循環の促進、自律神経機能の賦活なども同時に得られ、リラクセーション効果を高めることによって、柔軟性の改善や筋性の制限因子である可動域制限の改善も期待できます。

 また、水中で浮力を利用して浮遊しているときは陸上で仰向きに寝ているときよりも副交感神経の活動が活性化されるとされています。
リラックスできる=筋緊張が軽減するため、例えば脳血管疾患による片麻痺の方に対して、ヌードルなどを用いながら仰向けの状態になってもらって筋緊張亢進状態を軽減させ、緊張状態をリセットした状態で歩行練習などを行うことで正常な運動パターンを再学習させるというアプローチも可能になります。

比重(水の抵抗)による影響


 水の密度は空気の約800倍であり、粘性は約60倍
なので、水中動作あるいは移動の際には水平方向の大きな抵抗を受けます。
一般に水の抵抗は速度の2乗に比例して大きくなり、身体の大きさ、移動方向に対する身体の向きを含む水中姿勢によっても変化するため、身体を動かすスピードや姿勢(向き)、水の流れによって運動時の負荷を調整することができます。
スタジオプログラムのように集団で同じ運動を行うときでも、体力に自信のある方だと早く動かしてもらったり、抵抗を増やしてもらいながら運動してもらうなど、個人の体力やコンディショニングを合わせて行う運動処方やリハビリテーションに有効です。



また、水の抵抗によって動きがゆるやかになるため、膝関節や腰部に瞬間的に大きな負担がかかることを防ぐこともできます。
万が一つまずいたり滑ったりしたときにも、身体が水の抵抗を受けるので転倒の心配もなくなります(もちろん溺れないようにリスク管理する必要はあり)。

まとめ アクアフィットネスのメリット

アクアフィットネスにおいては

・水圧によって過度な心拍数の上昇を抑えることが可能になるため、心疾患などのように心拍数の上昇の制限がある方にとっても運動が行える

・浮力によって体重負荷を軽減させた状態で運動が可能になるため、変形性関節症のように荷重ストレスによって痛みが伴う方や、肥満によって陸上での長時間の運動が困難な方でも安全に運動が可能になりやすい

・水温に伴う体温調整反応を利用することで、陸上運動と比較してエネルギー消費量を高めながら安全に運動を行うことができる

・浮力に伴うリラクセーション効果によって疼痛軽減や柔軟性・可動域改善、動作の再学習の効果が見込める

・水の抵抗を利用して個々の体力やコンディションに合わせて負荷を調節して運動を行うことができる

現在国内ではこれらのメリットを活かして様々な水中運動が行われています。

01. ベビースイミング
02. 妊婦水泳
03. 喘息時水泳
04. 脳性麻痺と水泳
05. 自閉症・精神遅滞児水泳
06. 一般的身体障害者水泳
07. 循環器疾患と水泳
08. 呼吸器疾患と水泳
09. 骨関節疾患と水泳
10. 腰痛水泳
11. 更年期障害と水泳
12. 肥満と水泳(スリム&スイミング)
13. 糖尿病と水泳
14. 転倒防止水泳
15. シルバースイミング・デイケアスイミング

わが国で行われている水中運動と対象疾患など
野村武男:水泳が健康・身体作りに良いわけ.毎日ライフ26:75-77,1995


これらの様々な取り組み参考にして当施設ならではのプログラムが提供できるように励んでいきます。
最後までお読みいただき、本当にありがとうございました!






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桜井 徹也(理学療法士・健康運動指導士)
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