大山詣に行きましょう!(キャラと歴史散歩)
【プロローグ~参兵衛の受難】
ああ、明日が待ち遠しいや。やっと大山へ旅立てる!
三軒茶屋ってところでな、「信楽(石橋楼)」「角屋」「田中屋」って茶屋あるが、この辺に泊まってゆっくり過ごす。うめえ飯、いい女。貯めてた金を使いまくるぜ!
この辺の太子堂村には聖徳太子が祭っているな。俺も拝めば偉くなりそうだ!
二子の渡しで多摩川を渡るな!船旅、おつなもんだぜ!
その先は知んねぇや、相模国だね、どんなもんが見れるのだろな。大山登り、江の島まで絶対行くぜ! 鶴岡八幡宮のある鎌倉まで行ければいいな。
おいら、興奮のあまり早く寝てしまい、朝方に目が覚める。
すると、何やら声が響く。
「おっはようござい、まぁああああああ~~~す!!」
「!?、、、、?????」
「私は、神様です。」
「へ? あ…? 何ですと?」
「神様どぅぅうううううううえええええ~~~す!!」
「え?」 「残念ながら今、あなたは死にました!!!」
「え? どぅええ?」 「死んだのです!!」「え? え?」
「受け入れなさい!」 「え、突然何なんです?」 「昨日食べた食事が毒物です!」「は?」 「神様を否定なさるのですか??」
「え?」 「神に祈りに行くのに、否定するのかあああぃいいい!!」
「あ、あの、本当に神様なのですか?」 「疑うぅんかいい!??」
「いや、神様にしては、何だか神様らしくない」「軽いってのかい??」
いや、重さ? 「わしは、太陽の神様なんじゃい! だから陽気じゃないといかんのじゃぁああいいい!! どうじゃ、テンションあげあげ、バリマックスじゃろが!!」
…こいつは何を言っているのだ? やば、言っている意味のほとんどがわからない。これが神の言葉ってやつなのか。
「冷静に言う。お前は死んだのだ」 「え? は? はあ…?」
「取り返しがつかない。」「はぁ。」「しかし、チャンスをあげよう。」
「…ふえ?」
「お前のこれからの大山詣でに、チャンスをやる。大山詣で、楽しんできなさい」「ふ、え? … え、それができればあっしは、何よりで!」
「その代わり、一人の女の子を連れていくこと。」
「ふ?」「その子を連れて行かなければ、お前に大山詣は終わりじゃ。お前は死ぬ。
まあ聞け、この子は、これから練馬村を救う子じゃ。この子は練馬を日照りの害から救い、練馬大根を救い、さらに言えば、たくわんを救い、ビタミン成分を救い、結局は江戸の脚気から江戸の市民を救い、いたるところにおる、たくわんと大根好きを救うのじゃ!」
「はあ?」
「さらに、褒美として、邪眼を授けよう。
片目をつぶれば、この少女が生きている300年後くらいの世界を見れるだろう。どうじゃ、この邪眼。かっはー中2病全開じゃのぉおお!邪眼!邪眼!!さらに、オッドアイじゃ、目の色を片目変えられるぞ!」
「はい? すいません、ほとんど言っている意味が。」
「あーはいはい。褒美として、片目つぶれば、数年先の景色が見れるってことでーすー。けっ。」
「え、ええ?」「旅がさらに、楽しめまーすーよー。」
「あ、それ、楽しそう!」「はい、何色にしますか~。オススメは、右目は黒だから、左目は青、赤、緑もいいね!!!!!」
「緑って、犬じゃありめぇし。黒に近い色、灰色とか、茶色とか。
…茶色でいいです。」「かっはー、茶色だとな! 年とればみんな目は茶色に濁るじゃろがい!!」 …おいらは、もうどうでもいい。
「それとな、苗字を授けよう。」「あっしは、武家ではございませぬぜ!?」
「大山に行くから、大山の苗字じゃ。そして、参兵衛。そうじゃな、【大山参(まいる)】で決定じゃな。」「おお、なかなか。武家っぽい、粋ですな!」「ただし、参は【マイル】じゃ。どうじゃ、英語で旅っぽいじゃろ!」
「英語ってなん、スか?」「イギリス語じゃ、えげれぇえす!」
「は?」「まあ、僕が言ったことは、将来わかるようになると思うよ。君が勉強熱心なら。あ、けど、今すぐ大山参と名乗っても、今の人々は怪しむしかないから、これまで通り「参兵衛」で通しなさい。大山マイルは、4代先の転生のときの名にしよう。それまで待ちなさい。」「転生?」
「生まれ変わりってことじゃ!頼んだぞ、赤坂門にて彼女は来る!」
「あの、最初に【太陽の神様】と仰った。あっしが今から行く大山神社の阿夫利様も雨ごいの神様だ。ひょっとして、お前様は大山様なのですか?」
「…。 う。 あーぅ。
違うにきまっているだろ! 神様なんて多種多様なのじゃ! 雨ごいの神様もいれば、太陽の神様もいる。それは無理強いってもんじゃ!
いいか、神様も世間体、立場ってのがある。ワシみたいにアホな言葉遣いが、偉大なる大山の神様であるわけなかろう! もう、勘違いしないでね!」
ん~。 起きたら日は上ってた。未明に立つつもりだったのに。しかし生きててよかったか。
無視したら、おいら死ぬのか。言われるままに、赤坂門のとこまで言った。
【赤坂から青山まで向かいましょう】
オイラは、両国橋の水垢離を済ませ、赤坂門に駆け付けた。
ここに神様の言った女がいるらしい。女と言ってもあいまいなのだが。人間の半分が女じゃねぇか。見つからなかったら死ぬのだろうな。まあ、あのとき覚悟してきたのだから、見つからなくてもオイラは旅で死ねたら何よりだ。
何だ、この女。こいつか。こいつだろうな。いや、たまたま変な奴がいるのか。多分、こいつか。
ぼそっと、つぶやく。「大山詣りだが…」
女、破廉恥な服装だな。着物は短すぎやがって。羽織か裃かをつけてやがり、何だこいつは。
「あー! あなた、大山マイルね!! そうでしょ!?」
なんだか、昨日の神様のようなしゃべりかただぜ。…この名を知っているということは、あの神様を知っているのだろう。
「ねぇ、聞いて! 練馬が危ないの!! このころのききんが相次ぎ、雨なんて降ってもくれない! 練馬大根、全滅だわ…!!練馬大根がないと、たくわんもできない、江戸中の野菜が全滅し、みんな飢えて死ぬの。
せめて、雨を降らせるために、雨降り山で有名な阿夫利さまを祭る、大山阿夫利神社に祈らなければいけないわ! うち、この時代の人じゃないから、この大山通りの行き方がわからないの。何としてでも、行くわよ!
けど、一人で行く自信がないの。助けてくれない…?」
泣きながら、女はオイラの手をとり胸元に顔を寄せた。破廉恥だろう。
しかし、何だろう。すごくいい匂いがするのだ。
「オイラはマイルでいい。てめえ、名前は何という?」
「豊島照子。江戸城を完成させた将軍・家康公の前に、戦乱の世のときに江戸城をはじめて作った太田道灌。彼に滅ぼされた、豊島氏の姫君の転生、豊島照姫の転生よ。」
どこぞの姫君か。ん? ほろんだ姫の幽霊なのか? 言ってる意味がよくわからんから、そういうことにしておこう。
「さあ、レッツ参拝!」
こいつも【神語】をしゃべりやがるのか。やれやれ、意味がわからねぇぜ…
「ここが赤坂目附ね! 我が庭の練馬「石神井公園」から西武池袋線で池袋まで。丸の内線に乗り換えればいけるらしいけど、行ったことないんだけど! 駅降りて目の前に石垣あとがあるって聞いたわ。ちょっと、その邪眼ってヤツで見てみてよ!」
「はぁ!? 何だと? わけわからん話から突然話しかけんじゃねぇや!」
「もらったんでしょ、300年後、私たちの世界が見える目を!」
「あ、はあ。あなたも神様の使いで?」「いいから!」
オイラは左目を閉じ、茶色くなったらしい右目でまわりを見た。
「何でぇ、この世界。四角ぃなぁ!!」「そうなの?」
「この車輪がついている、デカいハコは何でぃ? そこらじゅうにあんのだが!?」
「あ~、クルマ? 自動車? なんつーか、人が作った馬? 荷物を運んだり、人が乗って操っていくよ。」
「神の世界は恐ろしいな。」「300年後のお江戸だよ。ちなみにウチも江戸っ子だもん。ンフー」
「さあ、改めて、レッツ参拝!!」
しばし歩くと、また女はわけのわからないことをしゃべる。そのたびに、オイラは肝を冷やす。正直、吐き気がするぜ。
「ねえ、何もないのね。コンビニも、ファッションビルも、タワービルも。まあ、そりゃそうか、江戸だからね。」
「……………」
「あなた、大山講じゃないの?なんで集団でなく、一人でお詣りするの?」
「……………」
「ねえってば!」
「うっせえな!ガタガタガタガタ!!さっきからわけのわからんことばかり言いやがって! おめえは神の使いの、どこぞの偉い巫女様かわからねぇがな! オイラはこの旅をずっと楽しみにしてたんだ!! 正直、今、この旅が台無しになりそうで、もうあんとき死んどけばよかったって思ってるくらいだ!」
「…ごめ。」
やべぇ、泣かしちまったか。
「…オイラ、どうも講に入ることとか、人といるのが苦手でな。人付き合いってか、ご近所ってか。ひとりで鳶の仕事ができ、ひとりで飯を食い、たまにこうやって旅に出れりゃ、それで良いってもんなんだ。」
「ぼっち?」
「ああ??」
「ひとりぼっち? 孤独? 浮いている存在? 人になじめない? やっかいもの?」
「ああ、もう! 何だっていいや!!」
「ウチもそうだよ。変わってるって言われるけど。それでいいじゃん。わかるものはわかればいいし、わからなかったらわからないでいいし。せっかくなんで旅を楽しもうよ。でさ、それアンタがつくったの?」
「ちっちぇえだろ! もっとデケエの持ってきたかったがな! オイラはこんなもんだ!」
「いや、デケエし。けっこうデケエし!
…気持ちをこめれば、何だっていいと思うよ。ウチ、あたしもヤカマシイ人間だけど、話半分流していいから!」
「さあ、またまた! レッツ参拝!!
この辺、なんで何もないの?」
「ってまあ、この辺はだいたい、お武家さんの屋敷がならんでるからなぁ。」
「江戸武家屋敷、藩邸、大名屋敷、各地のお殿様たちがいるところ?」
「右手が紀伊の殿様、徳川様の屋敷だな。」
「紀伊って和歌山、ああ、徳川の親藩ね! 吉宗公も紀伊の殿様だったね。」「よく知ってるな。」「日本史はまかせて!」
「奥の左手側には徳川様重臣の青山様の屋敷だな。」「知ってる、だから青山通り!」「…マア、ソウイウコトダ。」
「アレが紀伊藩邸! ねえ、右目で見てごらん! 広い緑の公園のようでしょ。これね、のちに赤坂御用地といって、天皇陛下の跡継ぎの皇太子さまなど皇族の住む場所になるんだよ!」
「…マア、ソウイウコトダ。って、ええ? 天皇様がいるのは、京都に決まってるだろ!」「あ~まず、そこからね。」
「そろそろ青山様の屋敷だぜ。右目で見たら、いくつもの城に変わってて、よりすげえ屋敷になってるな!」
「右側が明治神宮の外苑よね。のち明治天皇を祭った明治神宮の近く。神宮野球場や、2021年のオリンピックが開かれた国立競技場もあるよ!」
「マア、ソウイウコトカ。」
さらに道を進んだころだ。そろそろ渋谷村に入るころか。
「右目で左右を見てごらん!」
「国際連合大学よ!日本だけでなく、アメリカとかイギリスとか、世界を支配する組織!左側にキリスト教の青山大学!
はあ、国際的な町・青山が、ここにあるわ!」
「ふぇ!ここはいずれ、異人どもに支配されるのか?」
「まあともかく、この町を抜ければ宮益坂だ。大山道最初の茶屋やら居酒屋が集まったところ。ここで饅頭やら甘酒でも飲めるぜ。
あ? 銭がねえ? 何でえ、オイラのオゴリかえ?
嘘だろ、神様に頼んで銭もらえねえのか?
今日の夜に頼んでみる? 本当か? 練馬を救うなら必要だから?
本当だろうな! オイラも自分用のナケナシの銭しかねえぜ!!
まあ、甘酒くらいならオゴッてやらぁな。
ダイエット中だから良い? 甘酒は歩く点滴??
相変わらずわけのわからないことをほざいてやがるぜ…」
【渋谷村へ行きましょう!】
「はい、宮益坂下りますー。んで右目ー。はいドーン!スゲエ、デケエ、でしょ!これが今の渋谷!」
宮益坂を下り、そして道玄坂に入る谷間、ここに渋谷駅ができたとか、女はわけのわからぬことをほざく。
「宮益坂にはヒカリエができてね、ガード手前にハチ公像! それを超えるとスクランブル交差点に109! 超える前に右手に行くと、宮下公園に原宿!! ああ、もう!若者の町だわ!!渋谷も昔は豊島!! 帰ったら絶対渋谷行ってあげよう! 我が練馬、石神井公園駅から副都心線で一直線!!」(顔真っ赤!!)
「はっはっは! もうわけがわらねぇから、何でもありだぜ!!
これから道玄坂の宿場町、荒木山の神泉、温泉に。色っぺえ花街もあるに違ぇねぇ!こんなわけのわからねえ景色なんて、もうどうでもいいぜ!」
「ぶー… 花街って、ヤラシイ町でしょ!! はあ、男って最悪!!」
「うっせえ、花魁にも下女にもないような、足丸出しの下品な服着やがって!おめえなんか、女じゃねえや!」
「はあ!? この花のJKファッション、女子高生の制服様にひれ伏さないの?せいぜい腰巻に巻かれて浮かれていればいいわ!!」
「うっせえ! てめえ! 甘酒代と団子代返しやがれ!!」
「うう、やだ!!」(以下、何と言われてもガン無視の照子でした)
放送事故です。このあと、二人は三軒茶屋までただただ無言で歩きます。
参兵衛こと大山マイルくんは三軒茶屋かどっかに宿をとり、飲み食いし、遊んで眠り呆けたとか。何と2日間。実は金持ち?
照子ちゃんは別行動で、何とか路銀を調達しようと、近くの池尻稲荷や上目黒氷川神社などに参拝中。「あんな破廉恥男、〇ねばいいんだわ! 大山の神様、どうかお金をください! そして、練馬を助けて…」
マイルくんが生きるかどうかは、大山の神様次第でしょう。
この旅がどうなるか、筆者が大山道をすべて踏破するかどうかは、またこれから次第で。
以下、池尻大橋から三軒茶屋までの景色をお楽しみください。
【エピローグ~渋谷を抜けると、首都高の高架下を延々と歩き、池尻大橋、三軒茶屋へ(雑にぶっこんじゃったかな?)】
やがて三軒茶屋へ!
角屋あとは見つからなかった。位置は三軒茶屋駅のすぐ近くの交差点。ともに新旧の大山道だが、分岐点の三ヶ所に位置しており、「三軒茶屋」の由来となった。
またいつか会える日を!
今度はちゃんと、ていねいに描かれるからね!
ラフじゃなく、ペン入れていねいに、色もつけて!