📘ニール・スティーヴンスン『スノウ・クラッシュ』を読む[01]
今回取り上げたいのは、ニール・スティーヴンスン『スノウ・クラッシュ』。「メタ・ヴァース」という概念を、世界で初めて提出して見せたSF小説である。
日本語訳でも新装版が出された。今更これを取り上げるのか、という感もある。しかし、本作の面白さは「メタ・ヴァース」だけではない。まだ語り尽されていない魅力は多々ある。今日はそれらを紹介していきたい。
(1) 作品舞台の設定から
この小説を一言で表せば、”サイバーパンク欲張りセット”と呼ぶのがふさわしいだろう。資本主義が経済のみならず、政治すらも征服した世界。現実世界とは異なった場所としてのメタヴァース。アメリカナイズドされた剣豪小説。フィリップ・K・ディックの遺伝子を受け継いだかのような混沌。この小説にはそれらがある。
(1-1) 企業国家が支配している現実世界
現実世界のアメリカ国土は企業国家群によって支配・統治されている。『攻殻機動隊』の日本と似たような世界観かもしれない。どちらも国民国家としての政府は無力化している。あるいは実質的にそういった機能を失って、企業に国家運営を任せてしまっている。
(1-2) 仮想世界・メタヴァース
現実世界は企業にうまく喰い尽されている一方、オンライン上ではメタヴァースという仮想世界が築かれていた。大分平和な『ソード・アート・オンライン(SAO)』の世界だと捉えていただければ、十分伝わることだろう。主人公であるヒロ(正式にはヒロ・プロタゴニスト)も、メタヴァース内で「世界最高の剣士」という称号を取得している。ある種、剣豪小説みたいに読めるのも、本作の魅力である。
(1-3) スノウ・クラッシュ
スノウ・クラッシュとは、コンピュータ・ウイルスのことである。感染するとメタヴァース内のアバターが制御不能になってしまう。また、現実世界の使用者も、画面のホワイト・ノイズを見ただけで、意識不明の病院送りにされてしまう。ブルースクリーンの比にならない程、恐ろしい。
※不謹慎かもしれないが、この設定はポリゴンショックを連想させる。ちなみに、原作は1992年刊行であり、ポリゴンショックは1997年に起きたので、着想を受けたということはあり得ない。