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哲学対話で向き合う「知の探索」の実践

輸送機器メーカーのヤマハ発動機株式会社で技術開発統括部に所属する寺田さん・江口さんは、同じ部署に所属するプロジェクトリーダー10名とともに「哲学対話(※1)」を実施されました。

※1:哲学対話とは、哲学者がファシリテートしながらテーマについて複数人で自由に対話し、ひとりひとりの前提や文脈を分かち合い、物事に対する見方/考え方をアップデートしていく対話手法。

左から技術開発統括部 PJ推進部 江口 宗光さん、寺田 圭佑さん

プロジェクト間で化学反応を起こしたかった

ーー改めて、当初の組織の状況や感じていた課題感について、お聞かせください。 

寺田さん:私たちが所属するPJ推進部は、所属する全員が技術や商品の開発を推進するプロジェクトリーダー(以下、PL)の集団です。一人ひとりが各々のプロジェクトを推進しているため当時は話す機会があまりなく、他部署と比べて横通しの会話が少ない状況でした。

江口さん:担当プロジェクトの異なるPLが集まっているので、話す必要はないと考えることもできます。ただ、部署編成の狙いには、プロジェクトごとに単独で動くのではなくプロジェクト間で化学反応を起こしてほしいという背景もあったので、より大きなことをしていくためにPL同士での関係性を深める必要があると考えていました。

「知の探索」の結果としてのチームビルド

ーーPL同士の関係性向上を目的に置いた際に、哲学対話が活用できそうだと思った理由もぜひ教えてください。

寺田さん:ご提案時に、単なるチームビルドではなく「遊び」をテーマに対話で探求する結果として関係性が変わるということをお話いただきました。業務の一部として「知の探索」活動を推進していたので相性も良く、その結果としてチームビルドができるのはとても良いと思いました。

江口さん:1つのテーマについてみんなが考えを話す機会は意外と無いですよね。哲学対話は普段の仕事における思考方法よりも上位概念で物事を捉えられる良い機会だと思い実施したいと考えていました。あとは単純に、哲学クラウドの人たちやお話が面白いということをチームのみんなに知ってもらいたかったという背景もあります(笑)。

江口さん:最初に哲学クラウドの上館さんや湯浅さんとお話したときに、話の引き出し方がすごく上手だと感じました。単純に1言ったら1聞くのではなく、問いかけを通した本人に気づかせるようなコミュニケーションが印象的でした。彼らのコンテンツ設計や哲学対話を通して、チームに良いシナジーをもたらしてくれるのではないかと思っていました。

核心をつく「問い」を立てる体験に期待

ーー理系のご出身が多い皆さんとは異なる専門性をもつ哲学者がファシリテーターに入る哲学対話に対してどんな期待をお持ちでしたか?

寺田さん:哲学者は問うプロだと聞いていたので、哲学対話のなかで「問う」体験をすることにとても期待していました。
PLには適切な問いを立てる力がとても求められます。たとえばプロジェクトで問題が起きた時にすぐに対策をどうするかを考えがちですが、そうではなく、その原因は何か、どんな調査をすべきなのかなど、イシューを立てて推進しないといけない。

寺田さん:良い問いを立ててプロジェクトをリードするには、核心をつくセンスのある問いが重要なんです。みんな問いを立ててはいても、この核心をつく問いを出せる人がもっと増えてほしいと思っていました。

江口さん:私は問いを立てる際にわかりやすいところのみを考えるのではなく、より上位概念にあることまで考えるべきだと思っていました。PLはみんな、自分が持っているテーマをなぜやるべきかは常に考えていますが、自分で理解するだけでなくメンバーに説明したり上位役職者への説明も求められます。そういった意味合いで、質の良い問いを立てたり考えられることは大事だと思っていました。

ヤマハの遊び=バイクではなく想定外に話が膨んだ

ーー当日は「これからの時代に求められる遊びとは?」をテーマに哲学者がファシリテーションし哲学対話を実施しました。参加されて、どのように感じましたか?

寺田さん:率直に、こんなに幅広い意見が出るんだと驚きました。

江口さん:「遊び」については普段から考えていましたが、自分では思いつかなかった意見がたくさん出ましたし、すべて印象的でした。

寺田さん:個人的には、対話の中で江口さんが皿洗いでさえも「遊び」だと言っていたのが面白かったです。

江口さん:僕はそうしないと生きていけないんですよね(笑)。自分からすると物事全てが遊びです。ある型を基準にそこの中で、そこから外れて遊ぶ人、関係なくやること全てが遊びになる人などさまざまでしたね。

 寺田さん:ヤマハのメンバーで「遊び」について話すと、休日にバイクに乗るなど、非日常的な話になるかと思っていましたが、全く想定外に話が膨らみとても面白かったです。

当日の哲学対話の様子

江口さん:哲学対話するとすごく仲が良くなると聞いたことがあったのですが、実際にそうだったなと思います。哲学対話の中では腹を割って話せるんです。

江口さん:会社だと上下関係があったり業務に関する話をしたりするので少なからず利害が発生します。一方で哲学対話の中では利害関係が無いですし、仕事に直接は関係しない「遊び」というテーマ設定だったからこそ、みんなが意見を素直に出して本音で深く対話できていました。遊びについて対話で深めた結果としてチームビルドができたなと思います。

問いが自然にアップデートされていたことに気づき驚いた

ーー哲学対話では哲学者がファシリテーションに入り、問いを投げかけて対話を深化させる役割を担いました。哲学者がファシリテーションに入ることによる変化はありましたか?

寺田さん:哲学者である堀越先生がうまく対話の方向性をつくってくれたと思います。話が深まる方向に導きながら、全メンバーが文脈に関係なく自由に発言できる場づくりもしてくれていたのが印象的です。普段とは違う問いかけをしてくれたので、新鮮な対話ができました。

江口さん:実は、対話に参加していた時はうまくファシリテートしてくれていることに気づいていませんでした。後日に実施したフォローセッションで哲学対話の内容の整理を聞いた時に初めて、問いが自然にアップデートされていたことに気づき驚きました。対話中は素直に楽しかったので、自然に対話のストーリーを形作ってくれていたことが驚きで、この人すごいなと純粋に思いました。

「遊びの4分類」は僕らの仕事全般で活かせる学び

ーー哲学対話の後日にフォローセッションを実施し、哲学の専門家が対話内容を分析し発展させた「哲学分析レポート」をお届けしました。「哲学分析レポート」はいかがでしたか?

寺田さん:普段は主張が対立すると妥協点を探しがちですよね。一方で哲学分析レポートでは、対話内容をただ整理するだけでなくテーゼ(主張)、アンチテーゼ(主張の対立)、アウフヘーベン(主張の昇華)の形で2つの考えから昇華させてまとめてくれたのが独特で面白かったです。
あとは「遊び」について発展的に考えるために哲学思想を紐付けてまとめてくれたことも印象的でした。対話内容からさらに「遊び」についての違う視点を得られて、今後の仕事のアイデアにつながると思いました。

哲学的分析パートの一部で紹介したロジェ・カイヨワの「遊びの4分類」

江口さん:4象限にまとめること自体は僕らも仕事の中でやっていますが、今回の対話内容をこんなふうにまとめられたのは面白かったです。対話内容を昇華させて紐づけてくれた「遊びの4分類」は、本当に僕らの普段の仕事全般で活かせる学びだと思いました。
アゴン(競争)、ミミクリー(模擬)、イリンクス(めまい)、アレア(運)の4つは僕らの商材であれば全て入っていないといけないものだと思いましたし、この4つがあると価値ある魅力的なものになると思ったので腹落ちできました。

江口さん:普段の仕事においても何か足りないなという時があるんです。その何かを考えるツールとして使えると思いました。哲学対話の場自体はもちろん、この哲学分析レポートとフォローセッションの時間が僕にとって大きな価値がありました。 

寺田さん:実はフォローセッションが終わった後にもみんなでこの4象限について話して盛り上がったんです。自分のPJTにある要素や無い要素について話す中で、アレア(運)はあまりないよねという話になり、最終的に、一度みんなで運要素のある遊びを体験しに行ってみようという話になりました。

ものづくりには「もの」だけでなく「人間」の探求が欠かせない

ーーありがとうございます。最後に、少し大きな話ではありますが、これからの時代や社会に「哲学」や「哲学対話」がどう活きるか、お考えをお聞かせください。 

寺田さん:センスのある問いやイシューを立てる力は、AIが台頭したとしても人間がリードしないといけないところです。哲学や哲学対話を通して問いを立てる力は本質的ですし、これからも求められると思います。

江口さん:そもそも全ての学問の源流は哲学ですよね。エンジニアとしての数十年、数字や物理現象をどう証明するか、何が良いものかというリクエストに対しての答を考え続けてきました。そこをさらに深掘りしてみると、結局のところ自分たちがつくったものを提供する先は人間なので、物理現象やものについての深掘りだけではなく、根本である人間について探求することは欠かせないと感じていました。
哲学は人間そのものについて考えるために役立ち、これからの時代に必要とされる多くのことの基盤となるものだと思います。


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