アイデンティティを再構築した話
昨日のわたしの自己紹介の記事を書いてみて、やはり退職前と比べて同じ人体から出てくる考え方とは思えないほど大きく変わったことを実感しました。「普通」のわたしとか、「以前」のわたしとかと表現されることはよくあることかと思います。ただ全く違う人間になったのではなく自分という人間と向き合わざるを得ない状況を経験すると、人は自己の形が変わるのかもしれません。自分自身で書いておきながら全く違う人間になるというのは不可能だなと思いました。ごめんなさいね。
今この段落を書き始めるときに文字数が222のゾロ目だったことに密かに喜んでいます。なぜこの一文を入れたかと言うと、退職と病気を経験する前はきっと喜びの程度が今とは違うからです。っていうのはおそらくの話。ちょっとゾロ目だったことをみなさまに言いたかっただけかもしれないです。
でもそういうことなのです。鬱もパニックもジストニアも、自分の体が思うように動かなくなった、と感じることが多かったのです。だから些細なこともわたしすげぇって前より思うようになったのは事実です。
タイトルにアイデンティティを再構築した話、と大げさに書きましたが、それはわたしと夫さんの会話に出てきた言葉です。退職時、一番精神状態が安定せずしんどいと感じていたとき、泣きながら「わたしがどんどんわたしじゃなくなっちゃう」と夫さんに訴えたことがあります。夫さんは運転中でした。私たち夫婦はなぜか大事な話を車の中ですることが多いのですが、そのときはただわたしが叫んだタイミングが運転中だったというだけなのです。運転中に結婚を考えている彼女からこの言葉を叫ばれたとき夫さんが事故を起こさなかったことはすごいことだと思います。
とにかく、普段いいこと言いたいときに限っていいことが言えない夫さんは、わたしのその言葉を聞いて「にけさんは消えたりしないよ。ただ、自分が崩壊していく感覚になるのは、それぐらい一旦崩さないと新しいにけさんのアイデンティティが作れないからなんだと思うよ。」と、人生の中でもリピートしていいくらいのタイミングでわたしの命綱になるようなこの言葉を発したのです。
この言葉は今に至るまでもかなりの頻度でわたしを支えてきた言葉になります。わたしは言葉フェチなので(職業病でもあるかもしれません)、どうしてその人がその時その言葉を選んでわたしに伝えてきたのかというのをよくよく考える人なのです。あのタイミングで、いつもはいいことをちっとも言えない夫さんがあの言葉を発したという事実は、まぎれもなく夫さんが本当にそう思って言った、嘘じゃない言葉だったのです。今もなおわたしを支え続けている言葉の一つです。
人は人生の分岐点や壁にぶつかるたびにどんどん考え方や人生と向き合う姿勢が変わっていきますよね。退職を選んだ当時、わたしはおそらくどこかの惑星に隕石がぶつかっているくらい「自己」が崩れ落ちていくのを感じていたのです。ちょっと修正、とかじゃなく、全とっかえするくらい、完全にもとのいい子でなんでも頑張っちゃう八方美人性とか、人の顔色をうかがって恐る恐る生きていく性格とかそいういうものを叩き割っていました。というか叩き割られました。
それって結構苦しいことなので、そういう状況に陥らなければわたしはわざわざ自分という惑星を叩き割ることはなかったと思います。保険でカバーがきくような崩れ方ではなく、もう今まで「これが自分」と感じていた要素がおがくずみたいにバラバラに落ちているのを拾い集めるくらいしかできない崩れ方をしたのです。
つまり今この記事を書いているわたしは、このバラバラなおがくずの必要な部分だけをパズルのピースみたいにちょうどいいところにはめ直して、足りない部分を新しい経験や価値観で補ってアロンアルファの一番強くてすぐ乾くやつで補強したわたしになったのです。
そう、おがくずがあるから、完全に新しい人間ではないのです。わたしが大事にしたい自分の要素は大事にはめ直したので。そして崩れ落ちたおがくずも、綺麗サッパリ捨て去ったわけではないのです。わたしの足元にまだあります。以前のわたしのあのピースだけここにつけ直したいな、と思ったらそうできるような状態にあるのです。
「ここを超えた先にもっとすごいにけさんが現れるから、心配しなくて大丈夫。絶対パワーアップしたすごいのが出てくるから」アイデンティティを再構築するうえでその言葉をひとえに信じ続けて、今のわたしがあるので、だいぶヒビは入りましたし定期的にメンテナンスは必要ですが、なかなかわたしはわたしを気に入っています。悪くないです。
もしどこかで同じように感じている人がいるならば、「大丈夫、自分じゃなくなっても全部消えたりしないよ。新しいバージョンアップには時折、人より大きく自己を壊して再構築する必要があるだけだから。」と伝えたいです。抽象的ですがこれがわたしのアイデンティティを再構築した話、なのでした。