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錦秋十月大歌舞伎『婦系図』『源氏物語』*歌舞伎座は小紋と紬の花盛り。色無地も飾り紋で

夜の部は悲恋の二本立て。立役は大変、不利である。どんなに美しくとも、観客に恨まれかねない。

一幕目は泉鏡花作の新派『婦系図』。イヤフォンガイドの解説によると、泉鏡花の実体験を原点に書かれた話だそうで、小説はドロドロの展開になるのだけれど、舞台化するにあたって『湯島境内』の場に結末を置き換えた。

ストーリーの変更を泉鏡花が快諾した理由は明治の、「身分」や醜聞に縛られた結婚の馬鹿馬鹿しさというテーマが消えていなかったからだ。

差別にあらがう主人公は魅力が伝わり安いが、『婦系図』は世の理不尽に巻き込まれ、耐え抜く強さを人間の魅力ととらえているわけだ。それだけに

芸者に産ませた娘を引き取り、良家に嫁がせる気でいるドイツ語学者・酒井(彌十郎丈)が、早瀬の、元芸者・お蔦(玉三郎丈)との結婚を壊そうとする様も、酒井への恩から、お蔦を捨てる早瀬主税(ちから・仁左衛門丈)も、別れを受け入れてしまうお蔦自身でさえも愚かしく、まともなのは酒井の娘を産んだ芸妓の小芳(萬壽丈)だけだワヨと思った。

上演後、お蔦の悲しみ、いじらしさがボディボローのように効いてきた。

私が好きだったエピソードは、弁天様に酒井の健康をお願いしていたことと、「障子紙を買わなけりゃ良かった」「刷毛まで、買っちゃって」と悔やむくだりだ。

それから、手切れ金の包みを軽く拝んで、帯にしまうところ。

それから、桜の木の下で「あぁた(あなた)私、ここよ」と言うところ。それから、それから……。

幕開けの『本郷薬師縁日』の場では縁日にやって来た芸者たちの役で女優さんが出ているんだけど、舞台全体の人の動きが揺れるようで美しかった。中盤には歌舞伎でやる語りの芸「物語」がある。言うなれば、泣かせる苦労話。主税がスリで暮らしていた十代に出会い、拾ってくれて学者にしてくれた酒井への恩を、助けたスリを相手に語るのだ。学歴を積み上げて学者になったわけでなく、師の元で学ぶ明治時代。朝ドラを見ていて良かった。

お蔦の着物も八掛の新橋色とか、お太鼓の崩し方とか本当に素晴らしくて、じっくり見たいので、是非、Eテレで放送して欲しい。

続く、二幕目は『源氏物語』の新作『六条御息所の巻』。玉三郎丈の監修となっている。

舞台上に几帳が林のように立っていて、玉三郎丈の六条御息所は花道ではなく几帳の間を縫うように、ゆるゆると登場。

染五郎丈が光源氏、葵の上を時蔵丈が勤め、来月の特別公演、年末の顔見せを控え、私の2024年を締め括るようなキャスティングだ。

テレビでお能版を見た時に六条御息所はサイコパスとまでは言わないけど、超人だった。でも、今回の六条御息所は共感できるひとりの女性で、どうすればあんな結末にならずに済んだのか、真剣に考えてしまい

改心した光源氏が葵の上の子を抱いて、共に生きると誓う結末にはびっくりしたけど、六条御息所からしてみれば、辛い思いをした甲斐があったと前向きに受け止めることにした。

染五郎丈の声質は、白鴎丈の方に似ていて同世代よりも老けてる。37才の時蔵丈にもマッチ。恰幅の良い衣裳で、威厳あり。

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