『ラ・ラ・ランド(映画)』~この映画には“魔法”がある。エマ・ストーンが生み出すリアリティの魔法
視聴環境:Amazon prime video
※ネタバレします。
【内容】
俳優志望のミヤと、ジャズピアニストのセブの恋愛物語。
【感想】
『ラ・ラ・ランド』は、以前一度だけ観たことがあった映画で、久しぶりに観直しました。その中で改めて「魔法が起きている映画だなあ」と感じました。
恋愛ものとしては定番のパターン――初めは嫌い合っている二人が次第に惹かれ合い、結ばれていく――ですが、この作品はそこへの持っていき方が秀逸です。楽曲の美しさ、役者の魅力、そして何気ない演技にも絵になる魔力が宿っています。ただ単に美しいだけではなく、人を惹きつける「何か」がしっかり定着しているのだと実感しました。
映画というものが、人種や性別、時代を超えてダイレクトに心に訴えかける「生きたメディア」なのだと改めて思います。こうした「魔法」を求めて、何度も映画を観てしまうのだと自覚しました。単に綺麗な男女が映っているだけでは、このような魔法は起きませんし、いくら素晴らしい映画に出演した役者が再共演したとしても、映画が違えば同じ魔法は生まれません。
定番のストーリー展開の中で、冒頭でミアがセブに惹かれる理由には少し引っかかりました。「なぜここで惹かれるのだろう?」とピンとこない部分があったのも事実です。
しかし、ミア役のエマ・ストーンの演技を観ているうちに、彼女の魅力と技量の深さに気付かされました。映画的なきっちりとした演技と、ミュージカルシーンでの素朴な表情、さらにはドキュメンタリーを観ているかのようなリアルさが巧みに交錯しています。その多層的な演技が、映画全体の「リアリティライン」を柔軟に調整しているのだと思います。
通常の演技パートとミュージカルパートの切り替わりが気になりやすいミュージカル映画ですが、この作品ではまったく気になりませんでした。それは、エマ・ストーンが演技のリアリティを巧みにコントロールしているからだと感じました。特に、よりリアルなシーンでは、そばかすを隠さず、ライティングも必要最低限にすることで、市井の人間らしさを際立たせています。一方で、幻想的なシーンでは、最高に美しく見える化粧やライティングを駆使しています。このような演出の使い分けが、観る者を引き込む要因となっているのだと感じました。
エマ・ストーンがその後、自らプロデュースした優れた作品を複数手がけていることを考えると、彼女はただの俳優ではなく、優れた演出家やプロデューサーとしての才能も併せ持っていると感じました。
この映画は、細心の注意を払って作り上げられた作品です。細部の積み重ねによって観客に魔法をかけた、まさに映画という芸術の真髄を体現した作品だと思いました。
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