見出し画像

『ありえない仕事術(著:上出亮平)〜“ビジネス書”の顔をした物語——読後に残るモヤモヤの正体

※ネタバレします。

【内容】
「ハイパーハードボイルドグルメリポート」などの番組を作っているテレビディレクターによる仕事術ぽく作ったモキュメンタリー本。


【感想】
この本の「仕掛け」を知らずに読み始めたのですが、途中からフィクション色が強くなっていきました。著者が取材相手であるALS患者と接する中で、その患者から自殺の手助けを依頼される展開が描かれていきますが、実名で著者が登場するビジネス書風の体裁にしているに頼りすぎていて、物語としての弱さや、もう一工夫が欲しいと感じました。
著者が挑んでいるテーマに対して、筆力や考えがまだ追いついていない印象を受け、アイデアが生煮えのまま作品にしてしまったのではないかとも感じます。この内容では、読者がネガティブに受け取ることも想定済みで、「批判するのは挑戦していないつまらない人だ」と暗に圧をかけられているような違和感もあります。同じテーマを、優れた小説家があえてモキュメンタリー風に書いたなら、もっと面白くなるのではないかと思いました。
この著者の関わっている幾つかの仕事観て、単純にどういうこと考えてもの作ってるのかを素朴に興味があったので読んだので、単純に裏切られた感じがあったせいで、印象が悪くなったという点もあるかも知れないですが…
また、この作品に感じるモヤモヤした後味も拭えません。面白い試みをしている人の話を聞いていたはずが、途中から人の生死を扱うセンシティブな話へと変わり、それが創作とわかることで、経験談かと思った話が途端に薄っぺらく思える後味の悪さが残ります。テレビの一企画としてなら許容範囲でも、作品として発表するには完成度が低いと感じました。さらに、注目を集めるための「炎上商法」的な姿勢も見え隠れし、それも嫌な気持ちにさせられた一因だと感じました。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集