見出し画像

質問144:それは既に上達した人に対する言葉ではないか?

上達には「フォームのことは考えないで、タイミングとラケット芯に当てることだけを考えて打つ」ことが必要とのこと。
しかし、既に上達した人に対する言葉ではないですか? 上達するには、フォームの各要素を教わり(コーチの教え方は、後追いで、個人差は当然あるでしょう)何度もその要素を意識しながら練習・練習試合を繰り返し、体に覚えこませることにより、結果として、冒頭の境地に達すると思います。
剣道でも、形を意識しながら血のにじむ鍛錬をして、無意識に体が理想的に動く境地に達するのです。
冒頭の境地が ただ一つの事(9,800円で)で習得できるとは信じられません。教材の目次ぐらいは示すべきと思いますが如何ですか?

回答


▶脳と体はそういうふうにできていない

 
私もかつては、フォームを意識して繰り返し練習していれば、いずれ意識しなくても、そのフォームを無意識でできるようになると、思っていました。
 
また、マスコミを通じてそういう情報を日本全国に広くお伝えしてきた事実も認めます。
 
テニスの実用書・教則本・レッスン書籍について書いた数の多さだけで言えば、私が今も日本一ではないかと思います(※注1)。
 
でもそれは、最大の過ちであったと認めます。
 
脳と体は、そういうふうにはできていないようです。

▶運動能力が獲得される成長の原点

 
それは、赤ちゃんの発育発達過程を振り返れば分かります。
 
私たちが赤ちゃんのころ、ハイハイからつかまり立ちして、歩けるようになった過程では、足の踏み出し方や体重移動の仕方を、意識して練習したから、今、無意識で歩けるのでしょうか?
 
違いますよね。
 
見よう見まねから入ったとしても、そこには「バランスを取ろう」「足をこんなふうに踏み込もう」という意識はありませんでした。
 
あくまでも「感覚的な世界」です
 
これが、人間が運動能力を獲得していく成長の原点だと、私は思っています。
 

▶「形」を意識すると「間」が感じられなくなる


剣道は、「形」を覚えるのに血のにじむ鍛錬がなされているというのは認めます。
 
だけど私から言わせてもらえば、動作に慣れるまでの時間は必要だとしても「形」そのものは、長くて1年もあれば身につけられるのではないかと想像します。
 
極論すれば、面打ちのスイングの仕方、それは振り上げて振り下ろすだけです。
 
「形」はシンプル。
 
もちろん、動きの速さや細かな操作は熟達する必要があるでしょうけれども、それも意識すると、逆に遅くなり雑になるはずです(関連記事「『意識する』と、ギクシャクする」)
 
問題となるのはそれ以上に、「ワキを締めよう」「つま先に体重を乗せよう」等を意識すると、「間(ま)=タイミング」が感じられなくなる
 
相手の剣先がスッスと消えて見えなくなり、打ち込まれます。

▶テニスはオープンスキル系の競技


特にこのような対戦型(オープンスキル系)競技においては、ワキの締め方や体重の乗せ方等といった体の内側ではなく、外側に意識を向け続ける外向性の集中が、重要ではないでしょうか?
 
もし剣道で勝てずに伸び悩んでいる人がいるとしたら、私なら「形」ではなく、意識を徹底的に「外側」へ向けさせます。
 
「形」は、競技の動作に慣れるに従い、自然と変化するもの。
 
つまりフォームは作るのではなく、元大リーガー・イチローの言うとおり、成長の発育発達過程において自然と現われるのです。
 
その発育発達過程が追いついていないのに、理想的なフォームを初心者に指導しても、できないものはできません。

▶知識・情報が誤った動きの原因


仮に人の体にとって合理的ではないフォームになるとすれば、「こうあるべき」とする指導や常識の押し付けがあったと疑われないでしょうか?
 
テニスで言えばプレーヤーが間違った動きをするとすれば、「打点は前」だとか、「トップスピンは下から上にラケットを振り上げてスイングする」だとかの、あとから入った知識や情報に振り回されるから、不自然なフォームになる
 
あるいは上手い人のプレーを見て、「こうすれば上手くいくんだ」と勘違いする自身の思い込みがあった
 
それを正すための知識や情報は、上達するためには必要でしょう
 
とはいえ感じるままに動けば、人も自然界の動物ですから、へんなフォームにはなりません。
 
負傷しているなどであれば話は別ですが、へんなフォームで走るチーターや、不合理な動きの泳ぎ方をする魚は見かけません。
 

▶体は本能的に動く


「なぜできないんだ!」といって叱りつける指導者は多いですが、それは指導力不足が原因で自らいら立ち、子どものことを思って叱っているのではなく、感情的に怒っているケースが散見されます。
 
テニスも同じです。
 
飛んで来るボールを大きな網の目のついたラケットで打ち返すだけの競技。
 
叱りつけたからといって、できるようになるものではなく、ボールに集中するから打てるようになります
 
フォアハンドの振り方といっても、(引き方や振り方に個性や合理性は見出せるにせよ)本当に、「振るだけ」です。
 
いえ、実際には振る意識も必要ありません。
 
少なくとも打つイメージがあり、ボールに集中していれば、体は本能的にボールを打ち返すからです。
 

▶意識すると、反射的に動けない


剣道でも、相手の剣先に集中してそれが見えていて、打ち込まれそうになったならば、体を意識して動かそうとしなくても、「反射的にかわす」のではないでしょうか。
 
だけど「形」を意識すると、その本能的・反射的な働きが鈍くなるというのが問題なのです。
 
武士道に由来するならば、真剣や木刀同士の命を懸けた切りつけ合いで、体の動かし方を何か意識したりするでしょうか?
 

▶指導法もどんどん進化すべき


ただ、フォーム(形)を意識して上手くいく、皆が上手くなる指導があるというのであれば、それはそれで素晴らしいことだと思います。
 
指導法もどんどん進化すべき。
 
剣道を、「競技」ではなく「道」であると捉えるならば、つまり相手との勝負ではなく、自己研鑽とするならば、「形」を追求して己を鍛錬するという在り方の可能性もまったく否定しません。
 
とはいえテニスゼロを訪れる方々は競技志向なので、「形」を重視する従来の常識的なやり方では、なかなか上手くいかなかった
 
それこそ、時間もお金もかけて、血のにじむような努力や鍛錬をしてきた方々です。

▶人は「セルフイメージ」どおりの人になる

 
そういうプレーヤーたちに何か違うアプローチの仕方(「禅の教え」や『インナーテニス』など)がないかと模索して提案してみたら、ほとんどの人が、そんな努力も要せず上手くいったのです。
 
逆に努力感を覚えるならば、「努力しなければ上手くなれない下手な自分」のセルフイメージを強化しかねません。
 
「下手な自分」のマイナスイメージがベースにある限り、いくらプラスを掛け合わせても、出てくる答えはマイナス(関連記事「マイナスにプラスを掛け合わせてもマイナス」)。

「こんなに努力してもやっぱり私はだめだ」というセルフイメージになります。
 
そして人は、自分がイメージするどおりの人にしかなれないのです。
 

▶涼しい顔してチャッチャと上達する人たち


プロになって活躍するようなプレーヤーが、血のにじむ努力によってその上手さ・強さ・地位を獲得したのは認めます。
 
とはいえ一般プレーヤーに目を向ければ、すぐ上手くなる人と言えば特に努力することなく、誤解を恐れずに言えばコーチの話など話半分
 
涼しい顔して、自分の感覚でチャッチャと上達してしまう人がいるのも事実です。
 
逆に必死に努力している人ほど、苦しんでいる印象です。

▶「目次」について

 
目次の件、ご指摘ありがとうございます。
 
今すぐにとはいかなくとも、できるかどうかは分かりませんが、今後検討させていただきたいと思います(note移管後、目次掲載が可能となりました)。

▶注1・私が日本一の根拠


テニス関連の書籍を出していた版元(テニス雑誌でいえば5社など)が全盛期だったころに私がトップ2社で書いて、その後、テニス実用書(いわゆる技術モノ)の需要は恐らく衰退し、書店からもなくなりつつあるからです。
 
テニスの実用書を手掛ける出版社がもう(少)ないのですから、本自体が今は出回らないのです。
 
今ではテニスの実用書・教則本・レッスン書籍は、町の本屋さんではなくて、ブックオフのような古本市場のほうが多いくらいだと思います。

何の自慢にもなりませんが、私もそのころは生きるのに必死で努力していたのだと思います。

即効テニス上達のコツ TENNIS ZERO
(テニスゼロ)
https://note.com/tenniszero

無料メール相談、お問合せ、ご意見、お悩み等は
こちらまで
tenniszero.note@gmail.com

スポーツ教育にはびこる「フォーム指導」のあり方を是正し、「イメージ」と「集中力」を以ってドラマチックな上達を図る情報提供。従来のウェブ版を改め、最新の研究成果を大幅に加筆した「note版アップデートエディション」です 。https://twitter.com/tenniszero