テニス上達メモ082.書評第3段『レシピを見ないで作れるようになりましょう』
▶豊潤な世界の「5分の1」しか感じられない
現代人は、情報収集を目に頼りすぎているきらいがあるそうです。
確かに目はとても機能的。
晴眼者が視覚を遮られると、日常生活はあっという間に支障をきたしてしまいます。
とはいえバランス。
情報収集が目に偏りすぎると、ほかの感覚器官がないがしろにされてしまいかねません。
五感で味わう豊潤な世界が、5分の1に限られてしまうといったら、言いすぎでしょうか?
▶インパクトの瞬間は見えない
目以外の感覚。
たとえばインパクトの瞬間は、目では見えません。
どんなに目を凝らしても、ゆっくり振っても、ボレーでもストロークでもサーブでも、目の前で行なうラケットリフティングであっても、見えないものは見えません。
「ロジャー・フェデラーはインパクトに顔を残してその瞬間を見ている!」などとささやかれますが、やはり見えていないものは見えていません。
また顔を残すフォームを意識したら、それはこちらで述べた部分矯正ですから、スイング全体としてのバランス、連動、調和を乱すのです。
▶「口パク映像」を見て何が分かるか?
インパクトに顔を残してしまったら、飛んで行くボールを追視できなくなって、集中力が途切れる原因になります。
フェデラーも、確かにインパクトに顔を残しているように、連続写真の1コマを切り取って見ればそのように映りますけれども、次の瞬間にはもちろん目でボールを追っています。
これは、インパクトの瞬間だけ切り取ってみれば、あたかも「手首をしっかり固めているように見える問題」と同じです。
静止画の一部を切り取って拡大流用して見れば、確かにそのように固めているように映る。
それはそうです。
「止まっている」のですから。
だけど(だから)、それは騙しなのです。
静止画には、スピードもリズムもタイミングもありません。
動画でもスーパースロー映像をありがたがる人もいますけれども、騙されます。
私はよく、こう例えます。
音を消した口パクの音楽映像を見て、その本質の何が分かるのか?
▶インパクトは、感じる、聞くことができる
目に頼りすぎるという話。
だけどインパクトは、その当たりを「感じる」ことができるし、「聞ける」。
人間の目は、1000分の4秒を見ることができなくても、その瞬間はいとも簡単に、感じ取れるし、聞き取れます。
先のフェデラーよろしく、「インパクトの瞬間を見ましょう」というアドバイスは多いのに、「その瞬間を感じましょう」「聞きましょう」というアドバイスには、あまりお目にかかれませんし、聞こえてきません。
ときには打球感を感じ、インパクト音を聞く感覚に集中する。
そういう感覚を研ぎ澄ませる練習が、体でプレーするテニスに通じます。
思考ではなく感覚、頭ではなく体でできるようになるテニス。
今までのフォームを意識しながら打っていたのとは、別次元のテニスです。
▶打ち方が不要なのと同様、作り方も不要
打ち方というのは、料理でいうところの「レシピ(作り方)」にあたると言えるでしょう。
それに真っ向から立ち向かうのが、『レシピを見ないで作れるようになりましょう』(有元葉子著・SBクリエイティブ刊)
テニスに打ち方の知識が不要なのと同様に、料理にレシピは不要と説く。
その心は?
▶自分の感覚を使って
料理というと「味」へ、真っ先に意識が行きがちかもしれませんけれども、「食感」がまず大事と伝えるのが有元葉子先生です。
アマゾンの紹介ページにも書かれています。
「レシピを見ずに自分の感覚を使って料理をすれば、簡単だし、ずっとおいしい。」というのは、まさしくテニスにも通じるのではないでしょうか。
「自分の感覚を使ってプレーすれば、簡単だし、ずっと上手い。」とそっくりそのまま言い換えられます。
▶「ギャートルズ肉」が美味しそうな理由
味の「味覚」もそうだけど、それにも増して食感の「体感覚」もプライオリティを高めるという提案。
『はじめ人間ギャートルズ』に出てくるマンモスの「ギャートルズ肉」も、食感がイメージされるから、美味しそうに映ります。
『千と千尋の神隠し』に出てくるシーラカンスの胃袋とささやかれた「ぷるんぷるん」も、そして『カリオストロの城』に出てくる次元大介とルパン三世が奪い合った「ミートボールパスタ」も、テレビでは「味」は伝わらないけれど、「食感」がイメージされるから、世界観を共有できます。
▶水路で流されそうになるカリオストロのルパン
そういえば私は13歳当時、『カリオストロの城』のセリフを全部覚えて、ニュアンスや声色を含め空で再現できたのを友人(川口君ことグッチ)が「天才」と称えてくれました。
しかしそれは天才でもなんでもなくて、今顧みると何度も何度も繰り返して視聴した「KTK(高速回転)法」による学習効果だったのです。
「『記憶したがる脳』になる」。
それによって、ウォンなる通貨単位があることも始めて知れました。
今でも、ルパンが水路で流されそうになり、必死の平泳ぎによる滝登りのシーンを思い返すだけで、つい微笑ましくなります。
こちらのページでは、主観的にすごく面白い(敬意を表してくだらない)と思えた考察がなされていますので、よろしかったらどうぞ!
▶情報が多いほど、大変ではなく、ラクになる
ちなみにセリフ(言葉)だけを覚えようとすると、なかなか覚えられなかったかもしれません。
ニュアンスや声色、リズム感を含めて何度も何度も繰り返し視聴したから、記憶のフックが数多く強まり、覚えようと意識しなくても、「覚えてしまった」のだと思います。
人の名前でも、名前だけの情報しかなかったら、なかなか覚えられません。
無味乾燥とした歴史の年号だけだと、覚えられないのと同じです。
名前も、言ってみれば無味乾燥とした記号のようなもの。
だからたとえば初めて「川口さん」という方とお会いしたら、「あのグッチと同じだ!」などと関連づければ、忘れにくいと思います。
意に反して、趣味や出身地など、関連づける情報が多いほど、大変ではなくて、脳はラクに記憶したがるようです。
▶『風の谷のナウシカ』でストック効果に気づく
また『風の谷のナウシカ』などはまさにそうだったのですけれども、初めて見たときにはよく分からなかった。
だけど何度も何度も繰り返し視聴する大量回転を通じて、分かり出しました。
一度目より二度目、二度目より三度目と、見れば見るほど飽きるどころか、新鮮味が増していきました。
初見は情報の「ストック」がないから、分からないのです。
ですが繰り返しているうちにストックが溜まるから、ストック同士が化学反応を起こして結びつきます。
ですからたとえそのときは理解できなくても、「立ち止まるな」「いざ進め」と、「KTK」は背中を押すのです。
1回見て「よく分からなかった」で済ませてしまっていたら、『ナウシカ』の思い出は、私の人生になかったでしょう。
▶ボスの関西弁が雰囲気を和らげる
あるいは書評第2弾で取り上げた『きみのお金は誰のため』(田内学著・東洋経済新報社刊)。
Audibleで何度も聞いているとお伝えしていますが、ナレーションを務める斉藤範子さんの声やリズム感、間(ま)、イントネーションが、主観的に心地よく感じます。
お堅いはずの、お金や仕事、格差、社会などの話なのに、ボスの関西弁が雰囲気をふわっと和らげます。
七海さんに色気を覚え、優斗くんからは青年らしい素直と葛藤がにじみます。
▶カリッ、サクッ、パリッ
改めまして『レシピを見ないで作れるようになりましょう』。
私もこの本で「野菜の素揚げ」にチャレンジし、できるようになって、毎日のようにいただいています。
揚げ物というと、「男飯」としては作るのにハードルが高そうだけれど、油に投入すればカリッ、サクッ、パリッで、塩をパラっと振るだけで、何でもイケます。
それはやはり「味」もそうだけれど、有元先生が伝えるとおり、その「食感」が何より「美味しい」のだと思います。
あと、揚げたてのアツアツも、「味」というより「触感(温感覚)」が、旨さを引き立てます。
▶本質4箇条
最後にもう少し穿ちます。
アマゾンの立ち読みでも確認できる、有元先生による「心がけるといい」料理に関する4箇条。
1.思いきってやってみる(まず、やってみる)
2.“目指すところ”をイメージする(『テニス・ベースメソッド』)
3.味付け以前に、食感にこだわる(この『テニス上達メモ』)
4.味見をする(回転の味見)
びっくりするくらいテニス上達の参考に、オーバーラップする内容ではありませんか。
能力を引き出す本質は、料理もテニスも勉強も、普遍なのだと思い知る。
図らずも書評第3弾となった、『レシピを見ずに料理を作れるようになりましょう』でした。
▶追伸・「繰り返し」の奇跡。加藤諦三先生に敬意。小加藤諦三先生の冒涜?
本文中に出てきた「KTK」をご紹介している第1弾はこちら。
『インナーゲームシリーズ』から、加藤諦三先生で学んだのちに、小加藤諦三先生まで考察が及びます。
お時間許すようでしたら、お目通しいただけますと嬉しいです。
即効テニス上達のコツ TENNIS ZERO
(テニスゼロ)
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