本当に起こり得るリアルな恐怖を目撃する映画「シビル・ウォー アメリカ最後の日」は極限化した政治分断の果てを生々しく描いた傑作!
まさに今、一番見るべき映画だ。
この映画は鑑賞するのではなく
現場の最前線に放り出されて
リアルな恐怖を目撃し続ける映画だ。
いったん見始めたらあなたはきっと
最後まで目を逸らすことはできない。
【映画概要】
「エクス・マキナ」のアレックス・ガーランドが監督・脚本を手がけ、内戦の勃発により戦場と化した近未来のアメリカを舞台に、最前線を取材するジャーナリストたちを主人公に圧倒的没入感で描いたアクションスリラー。
出演は「パワー・オブ・ザ・ドッグ」のキルステン・ダンスト、テレビドラマ「ナルコス」のワグネル・モウラ、「DUNE デューン 砂の惑星」のスティーブン・マッキンリー・ヘンダーソン、「プリシラ」のケイリー・スピーニー。
【映画レビュー】
『ミッドサマー』や『ヘレディタリー/継承』など近年話題作を連発するA24製作の大ヒット戦争スリラー映画『シビル・ウォー アメリカ最後の日』を目撃した。
10月に公開してたった2か月でAmazon Primeで配信されてすぐに鑑賞できたのはありがたい。
いや、映画を鑑賞したというより、まさに現場を目撃したような緊迫感だった。
見終えてレビューを書きながらも、手汗と動悸が収まらない。
Voicyでも話しました。是非お聴きください♪
連邦政府から19の州が離脱したアメリカでは、テキサス州とカリフォルニア州の同盟からなる「西部勢力」と政府軍の間で内戦が勃発し、各地で激しい武力衝突が繰り広げられていた。
それが実際起こり得るのではと思うほど、最初から最後まですべての場面がリアルに描かれていた。
就任3期目に突入した権威主義的な大統領は、勝利が近いことをテレビ演説で力強く訴えるが、ワシントンD.C.の陥落は目前に迫っていた。
そんな最中、女性報道カメラマンのリー・スミスをはじめとする4人のジャーナリストは、大統領に単独インタビューを行うべく、ニューヨークからワシントンD.C.を目指して危険な旅をする。
彼らは戦場と化した道を進むなかで、内戦の恐怖と狂気を目の当たりにしていくのだがずっとハラハラドキドキが止まらない。
この映画で報道カメラマンのリー・スミス役を演じたのが、『スパイダーマン』シリーズや『パワー・オブ・ザ・ドッグ』のキルスティン・ダンストだ。
彼女は撮影前にプロのカメラマンの仕事現場に同行し、常にカメラを持ち歩いてシャッターを切るなど入念な役づくりを重ねたというが、極限の状況に挑みながらもどこか冷めた眼差しが印象的で本当に素晴らしかった。
この主人公のリーとともに前線に向かうのは、まず、経験と知恵を併せ持つベテラン・ジャーナリストのサミー。身動きも鈍い太ったおじいちゃんだ。
そしてもう1人は歴戦のジャーナリスト・ジョエル。彼は前線に向かうことに全身からアドレナリンが放出していることを隠さず、少し狂気めいているが仲間を思いやる情に厚い部分もあり、実にいい味を出している。
そんな彼らは時に銃を構える反政府軍と共に行動して、常に生きるか死ぬかの瀬戸際に立ち続ける。
反政府軍がターゲットを狙撃するために潜伏する息を殺すような瞬間でさえ、彼らは行動を共にする。
そして、何といってもこの作品で一番のキーパーソンは、主人公のリーを尊敬している戦場カメラマン志望の若き女性ジェシーだ。ジェシーを演じたケイリー・スピーニーという若き女優が迫真の演技を魅せてくれる。
眼前で繰り広げられるあまりの恐怖に慄き、彼女が過呼吸になる場面も彼女のエモーションが強烈に伝わってくる。
ジェシーは人生で一番の恐怖を感じた瞬間に、命が躍動するのを感じたと語る。最前線の危険をカメラに収めることは、極限の恐怖であると同時にカメラマンにとっての最大の興奮でもあるのか。彼女は目覚めてのめり込んでいく。
この彼女たち報道カメラマンの視点から現場を眺める感覚がとてもスリリングだ。
人が人を殺し合う場面、人の命が終える瞬間、目の当たりしたくない瞬間だが、彼女たちは恐怖と睨み合うように、命の危険にさらされながら、目を逸らさずシャッターを切る。その瞬間に撮られた写真もインサートされるのも現場感に満ちたリアリティを増していた。
この映画は恐怖ばかりではない、時に美しいとも思えるような映像美を何度も魅せてくれる。
銃に狙われながらうつ伏せにしている時に目の前で咲く青い花。生と死の狭間の瞬間の美が印象的だった。
このモチーフは戦争映画の古典とも言われる「西部戦線異状なし」を思い起こさせる。
また音響の威力もこの映画の大きな要素だ。
耳をつんざくような銃声や爆撃音が身体の芯を揺さぶるような体感がずっと続くのだ。
そのように一歩先もわからないよう緊迫感に包まれて私は見ていたが、とりわけ強烈な恐怖心を覚えたのが、途中に出てくる赤眼鏡の男だ。
作品の中盤で彼ら4人は同じくジャーナリストの2人と合流し6人になるが、その道中に赤いサングラスをかけた武装兵が立ち塞がる。
この男はアメリカ人以外は認めない極右思想主義者で、有色人種たちを捕らえては片っ端から殺処分している。積み重なった遺体はユダヤ人虐殺を思い起こさせるほどで思わず目を背けた。
死体の山を背に、機関銃を携えて静かに立つ赤眼鏡男。
リーやジョエルたちは、話せばわかるはずと考えて、彼らとの交渉を試みるが、赤眼鏡は「こいつはお前の連れか?」と一人を差して「そうです」とジョエルが答えた瞬間、男は突如一人を射殺する。思わず息が止まった。
ジョエルは、我々はみな同じアメリカ人だと説こうとするが、そこで赤眼鏡が無表情で聞くのが「お前はどの種類のアメリカ人だ」の言葉だ。背筋が凍りつく。
息が詰まるようなこの場面では、ジェシー・プレモンスが極右武装兵を怪演しているが、彼はリー役の主演キルスティン・ダンストの実際の夫でもある。いったいこの撮影現場の後、夫婦でどんな話をしたのだろうか。
『シビル・ウォー』はジャーナリストの視点で物語が進むが、彼女たちの政治的な立場を明らかにしていない。起きたことをありのままに伝えようとするジャーナリストたちは、二極化のどちらの側にも立っていない。
この映画は極限化した政治分断の果てのディストピアがどれほど過酷なのかということに主眼を置いている。
そして、クライマックスはホワイトハウスへの突入だ。
この銃撃戦はもう息つく暇もない。
そして彼らが最後に見たものは何か。
彼らが辿る運命はどうなるのか。
それは是非、映画を見てほしい。
とにかくこの映画を、いや、この恐るべき現場を
いち早く目撃して欲しい。
思えば韓国の戒厳令の映像が飛び込んできたのは数日前だ。ある軍人は市民の女性に銃口を向けていた。
この映画は決して絵空事ではない。国際社会を取り巻く現実と地続きであることにも改めて戦慄するのだ。
今の時代をリアルに貫く「今見るべき」傑作であることは間違いない。