幻視譚

——まぼろしをみるものがたり——世界を織りなす幾層もの幻想をみつめ、夢の現、現の夢を描…

幻視譚

——まぼろしをみるものがたり——世界を織りなす幾層もの幻想をみつめ、夢の現、現の夢を描き出す。 西山珠生と加藤葉月による。

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  • [目撃]

    2024/5/4-

  • [傷-風化]

    幻視譚 [傷-風化]2024/5/30-6/2 スタジオ空洞

  • 第二回公演『かぎろい』

    幻視譚 第二回公演『かぎろい』 2023/3/17(Fri.)-19(Sun.) 王子小劇場

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きろく

げきじょうがあるまち、ちゅうかりょうりやさんがあるまち。えんげきも、ちゅうかりょうりもすきなはずだけど、いけぶくろをすきになったことは、ない。どこまであるいても、おなじたいるや、はしらが、えーえんとつづいているえき。えきをぬけても、まちはしたしげで、からふるなかおをみせながら、やさしくきっぱりとわたしをこばむ。そんなまちをずーっとずっときたへとぬけて、わたしはすこししずかなばしょにあなをみつけた。そこにくびをつっこん で、あたまをしたに、つまさきをうえにして、ちかへちかへと、

    • [素描:洞(うろ)]テクスト

      踊り手:加藤葉月 語り手・音:西山珠生 (水滴) *ゆびさき。爪の縁。指先を震わせる。ひかり。ほこり。がらんどうの。箱。耳鳴り。頭蓋の中を細く振動する。逆さまの壁。高い。ほこりの中を、梯子が。揺れている。 *パイプ。水音。水音。昨日より、すこし存在感のある左脚。瞼、引き攣れた。反響する。反響する、反響する、はんきょうする、はんきょうする。梯子が揺れている。藍に近い、あお。コード、ちぎれた、パイプ、ひしゃげた、水、すこし濁った、油の匂い、のする。コンクリートの塊、無骨にく

      ¥500
      • s summm——

        【第1楽章】 はじめに*塊*があった。 発生する。振動が伝わり、連動してうごめく。(細胞の鼓動。小刻みの。) 細胞分裂と分離あるいは浮遊する呼吸。 ダンサーの身体が漂う。壁に張り付く。静謐。 【第2楽章】 心臓の鼓動と血液の循環。(とてもゆるやかな3拍子の。) 原始生命体のごときそれは各器官に分化していく。 口。目。指。唇。腕。髪。 漂う。 滑る。走る。(大地を踏む。) 衝突する。 はじけ飛んだ物体がめぐりすれ違いまた衝突する。融合する。分裂する。 繰り返す。繰り返す。(

        • [A Scene]脚本公開

          幻視譚[傷-風化] 2024/5/30(Thu.)-6/2(Sun.) スタジオ空洞(東京都豊島) [A Scene] 作:西山珠生 出演:植咲直・加藤葉月 夜の電車は、どこかうすぼんやりと幻影じみた世界へと続いている。 蝶々が飛んでいる。 地下が滑っていく。 透明な街がみえる。 のろいじみた離れがたさ。電車が走っていく。 …… Shall I stay, would it be a sin If I can’t help falling in love with yo

          ¥500

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        • [目撃]
          4本
        • [傷-風化]
          9本
        • 第二回公演『かぎろい』
          9本

        記事

          〈日記〉2024/5/18-25

          5/18 青木識至 新宿の某所で友人の結婚式に参列した 祝辞を述べる参加者の振る舞いには 異なる時間の速度と積み重ねが垣間見える 個別的な生をかたちづくる時間の複数性、運命的な巡り合い あるいは式典における出来事の同期について考える 0518 にたろ うるさいアラームで、3人同時に目が覚めた。身支度を整え、人を寝床に呼んで祭りの準備をする。 5/19 青木識至 昨晩の余韻に浸っていたら正午を過ぎてしまう 昼の予定を変更して、原稿の消化に回す 夕方に六本木でパフォーマンスを

          〈日記〉2024/5/18-25

          〈日記〉2024/5/12-5/17

          0512 にたろ 今日は4の倍数の日だから早起きする。6時にアラームが鳴った。スマホは復活したが、多分設定が更新されたせいでアラームの音が変わっている。前のより不快感がない。 朝の話し合いを終え、もう一度布団に入る。カネコを筆頭に、みんな身支度をし出した。奥の部屋では大勢で電話をしている声。ハキハキしていて、しっかり者の声だ。あんまりこの家では見ないタイプだ。10時半にはもう一度アラームが鳴ったが消して、結局11時過ぎまで寝ていた。起きたら誰もいなかった。 5/12 井

          〈日記〉2024/5/12-5/17

          もじもじするもじ

          ほんのちょっと前まで、僕はもじを書く人と一つ屋根の下にいた。初めは結構よく喋っていたと思う。寝食を共にしているわけだし、仲良くなるのは自然なことだ。 それが、どうしたというのだろう。ある時期を境に、プツリと会話の糸が切れた。 思春期に入った僕が、話しづらい雰囲気を作っていたことは間違いないと思う。でも、彼女の沈黙は僕にだけ向けられたものではない。他人と空間を共有していても、彼女は自分の中に引きこもるようになってしまったのだ。発話というものが、ほとんど消えた。 声から

          もじもじするもじ

          おおしごと/おままごと

          砂場には表情がある。もし今度、誰もいない公園を訪れる機会があったら、ぜひ砂場に直行してほしい。手が砂を掻いた痕。足が砂を踏んだ痕。雨粒が直撃した痕。鉄のスコップが掘削した痕。質の違う傷跡が連続し、一つの波を形成している。一日放置されるだけで波は和らぎ、傷跡は大人しくなる。砂場の傷はぐねぐね動いていて、そこに毎日通う僕を飽きさせない。 これは子供たちに教えてもらったことだが、この公園の砂場の周りには、蟻の巣がたくさんあるらしい。僕もいくつか発見した。でも中身は覗けない。僕たち

          おおしごと/おままごと

          呼吸する傷

          痛みの見えない傷を描く西山珠生 ステートメントに代えて 数日前、科博に出かけた。 常設展だけのチケットをポケットに、記憶をなぞりながら展示の間をあるいた。 相変わらずマングローブの根元にハゼがいる。ラフレシアが毒々しい。見慣れた植生の模型にきらきらしたトンボが止まっている。 時間を封じ込めたモノたちは20年前と同じように生き生きとしている。20年の間にすこし色あせてほこりをかぶって古びてみえる。 スケッチ、剥製、レプリカ、プラスティネーション。世界の流動をせき止めて、固

          呼吸する傷

          〈日記〉2024/5/4-5/11

          5/4 井潟瑞希 みめい。りゆうもなくこうこつとした。わたしはわたしを、あんしんあんどさせることにせいこうしたようだった。とても、めずらしいこと。すくらんぶるえっぐもせいこうした。これは、いつものこと。うれしくってにどねをしたが、すきなうたにまるをつけなければならないのをおもいだしたので、めをさました。ひとのいえで、うたをよみ、ひとのいえで、にくをたべる。まねかれて、にくをたべるので、きかざる。まぶたにいろをたす。くちびるにいろをたす。きずをかくす。ひとのいえで、ひとのにく

          〈日記〉2024/5/4-5/11

          傷穴について

          傷、風化 ぱっくりと開いた傷口から、皮下の世界が覗く。つなぎ目のない表面(のようにみえるもの)に覆われ一個の生命として自立していた「それ」の、無数の虫たちによって織りなされた姿に私たちは直面する。普段は見ようとすらしないが、一枚めくると在る、生まれるものを露わにする。 傷からは息が漏れ出し、体液が流れ、痛みを与え膿んでいく。あるいはなにもないかのようにのぞき穴然として口を開けたままでいる。ときに傷はふさがり、ときにそこから綻びる。傷と風化というテーマは、生の営みを彷彿させ

          傷穴について

          傷を纏う、歩く

          はじめに、ひとつの[イメージ]があった。 無数の虫たちが歩いている。 彼らはひと足ずつ、一定の速度をもって進む。近寄れば、彼らは互いにぶつかり押し合って、ときに逆行し、あるいは倒れて踏みつぶされていく。 わたしが座っている地べたも虫たちが形作っている。芝草も、椅子も、土肌も、カーペットも、合皮のクッションも、虫たちが歩いている。 おおきな交差点に人が流れ出す。ことばになり切らぬノイズが飛び交い、わたしは歩きはじめる。堰を切ったように渦巻く虫たちのなかに入ってゆく。 わたしの

          傷を纏う、歩く

          [傷–風化]・導入文

          僕は少しだけ、彼女のことを知っている。その一端を、あなたと共有しようと思う。 彼女は迷う人だ。彼女には見たい景色があって、何ならもうそれが見えているのだけれど、肝心の現場にはなかなか辿り着けない。 饒舌な彼女の体からは、 言葉がこんこんと湧いてくる。 寡黙な彼女の体には、 実は無数の言葉がつっかえている。 将棋の駒のように慎重に言葉を指すこともあれば、 その辺に言葉を放り投げる適当さもある。 そして、 饒舌な彼女は、大抵絵筆を握っている。 少し前から、彼女は蟻の絵を描き

          [傷–風化]・導入文

          『かぎろい』編集後記(児玉萌)

          こんにちは。 『かぎろい』の配信映像を編集させてもらいました、こだまです。 関係者の皆々様、公演を楽しまれた皆様も、見逃した…という皆様も、大変お待たせいたしました。 ごめんなさい。 まずはこの場を借りてお詫びを。 その上で。 私は個人的に、幻視譚がみせてくれる〈まぼろし〉が好きです。 うごめく人間を、私などが預かり知らぬ世界の様を、しろくゆるく描き出す、そんな団体だなぁと思っています。 編集作業をしながら、劇場空間で観るのとはまた違った『かぎろい』を体験をさせてもらいま

          『かぎろい』編集後記(児玉萌)

          まぼろしをみるものがたり 後編(西山珠生)

          前編と銘打って、夜明けの幻を綴った。ここでは、私たちがその幻を舞台上に立ち上げるまでの記憶をメインに思い返してみようと思う。 幻視と幻聴、信仰 ②信仰するひと  「珠生さんはこれがすごく宗教的だってことを自覚したほうがいい」何かの折に言われた。あるいは「学生がこういう話を、しかも王子でやるってのは、今の若い人が社会をこう見てるんだなっていう視点でも見られると思うし」そんなことも。……え、そう?いや、分かってるけど、、そうか、そういうもんか。なんて思った。  この劇を書くに

          まぼろしをみるものがたり 後編(西山珠生)

          まぼろしをみるものがたり 前編(西山珠生)

           『かぎろい』にあとがきを添えてみようと考えた。  と、いうことは、まず私がなにか書かねばならない。さて。  終演後の燃えさしをぼんやり突きつつ書いては消し、書いては消しを繰り返した。『かぎろい』を語る言葉を私はなかなか見出せなかった。そこには私をとらえて離さぬものたちが漂っており、簡単に捕まってはくれないのだった。  そんなわけで、ひとまず初めに戻ってみようと思う。つまり彼らが名を与えられたとき、この世界が色づいたときに立ち返ることにする。 かぎろいもしくは曙光かぎろひ

          まぼろしをみるものがたり 前編(西山珠生)