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【詩】僕の二人称は死者

 養老孟司氏は〈死〉について次のように語っています。

「死は常に二人称として存在するんです。一人称の死というのは自分の死ですが、自分の死は見ることができませんから、存在しないのと同じです。その体験を語れる人はいません。
 三人称の死は、自分とは関係のない人の死です。そういう三人称の死は、死体を「もの」として扱うことができます。死が自分に影響を与えるのは二人称の死だけです。」 (小堀鷗一郎・養老孟司「死を受け入れること 生と死をめぐる対話」(祥伝社))


  僕の二人称は死者

今朝 陽を受けてはにかむように
庭に梅の花が綻んでいるのに気がつく
花の中でもとりわけ君が好きな花

毎年 君は庭に降り立ち
木のもとに寄り
腕の先にスマートフォンを掲げ
枝ごとに一輪一輪の
色と輪郭が鮮やかなその花を
必ず写真にとっていた

僕の二人称は死者
最も大切な二人称は死者

僕に世界は二つある
君のいた世界と君のいない世界

あの日を境に世界は全く別のものになった
君が突然消えてしまったあの日を境に

君がこの世界にいないことに
ただ空を仰ぎ
君のいないこの世界に僕がいることに
言葉を失う

君のいない世界にも
君のいた世界と同じように
梅は開く
花は赤く空は青い
もうすぐ白梅も咲くだろう

風はまだとても冷たい
週末は雪が降るかもしれぬと言う







#詩 #現代詩 #自由詩 #私の作品紹介 #梅 #養老孟司

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