本雑綱目 44 夏坂健 美食・大食家びっくり事典
これは乱数メーカーを用いて手元にある約5000冊の本から1冊を選んで読んでみる、ついでに小説に使えるかとか考えてみようという雑な企画です。
今回は夏坂健著『美食・大食家びっくり事典』です。
講談社でISBN-13は978-4062003964。
NDC分類では技術. 工学>食品. 料理。
1.読前印象
美食家というとフランスだとサヴァラン、アジアだと魯山人という印象はあるものの、なんとなくろくでもないイメージになるのは何故だろう。表紙は西欧っぽいのでフランスとかメインなのかなと少し思う。びっくり事典というところから、過去の人間の愉快な食事事情、だろうか.
2.目次と前書きチェック
目次は『1章 絶命するまで啖いつづけた男たち』、『2章 美食に命を賭けたこの人たちの食卓』、『3章 思いもよらぬ美味は天才が作る』、『4章 ご存知ですか!? 人間の美味しい食べ方』、『5章 精力家のメニュー拝見』、『6章 「性食同源」という歴史的証言のおかしさ』、『7章 大芸術家たちのユニークな美食・大食ぶり』、『8章 菜食主義者は食のために殺さず』、『9章 鍋の中で象まで踊る中国料理の満腹絶倒』、『10章 食卓を楽しくするマナーは古代から伝わった』、『11章 十三日の金曜日に十三人で食事をすると』、『12章 びっくり『料理書』のオドロキ物語』です。
目次の字数が多い……。1つの小見出しは1~3頁ほどなので、小ネタ集というところか。わりと幅広く様々な国のエピソードを拾っている印象。そしてコメディ方面。とはいえ1つずつちまちま読むより、『4章 ご存知ですか!? 人間の美味しい食べ方』、『9章 鍋の中で象まで踊る中国料理の満腹絶倒』、『12章 びっくり『料理書』のオドロキ物語』と章ごとに読んでみようと思う。
3.中身
『4章 ご存知ですか!? 人間の美味しい食べ方』について。
タイトルの組みが見づらい。何故こんなに不規則なフォントなのか。
わりと最初からこの本が気に食わないのだがその理由は明確で、内容が浅い所と、古典籍を引用して現代の価値観で論じているところだ。例えば孔子は送られてきた子路の塩漬け肉を泣いて食べたと書いてあるけどこれは都市伝説で、子路は塩漬けの刑になったものの孔子のもとには肉が送られて来たわけではなくて、孔子は自宅の塩漬け肉を捨てたという話で少なくとも現在認識されている事実とは全然違う。他にも人食は中国では高貴な者の珍味追求目的で西洋では非常食だったと書いているけれど、古代中国では人肉がやすい肉として市場に売られていたし、飢えた親や主君に身内の肉を捧げるのは寧ろ美談だった。そんな観点で見てみると、詳しくない西洋の食人事情について興味深いなとは思うものの信用性が甚だ低く思われる。そもそも◯◯人の肉が塩辛いというのは塩漬け度合いの問題でしかないような。日本人は食人を悲壮感たっぷりに書くけれど西洋人はカラッと楽しげに書くというが、それも書いたジャンルの差じゃないかなあ。
『9章 鍋の中で象まで踊る中国料理の満腹絶倒』について。
袁枚が胡散臭くて雲林が信頼できるというのがよくわからないが、この章の半分以上が雲林の食遍歴で構成されている。内容は雲呑の語源とか象の鼻とか面白おかしい感じだが、薄い。
『12章 びっくり『料理書』のオドロキ物語』について。
外国には料理本収集家が結構いる、という話。この項目の実に奇妙なところは、料理本の話なのにその売れ行きや著者等のばかりの記載でその内容についてほとんど触れられていないところだ。料理本というよりは料理本史という感じか。
章題が料理書だから別に構わないんだけどさ。
フランスの料理本については詳しくないので、その点はそれなりに面白かった。
全体的に、食にまつわる物事を面白おかしく紹介するという体の本で、VOWとか不思議大全といったサブカル的な本だと思う。著者が様々な事象を論ってる感じがする点はあまり頂けないのだが、本の目的が『面白おかしい』だと、そういう方向性もありな気はする。他文化の許容度が低そうというか昭和のオッサンみたいだというか、ともあれ他文化を尊重するような記載はほとんどなかった。比較的古い本だから仕方がないのかもしれない。
小説に使えるかと言うと、書いてあることにいまいち信用性がないため、正直な所これを資料にして書くと警察がくるだけの未来しか見えない(が、この本は薄いので、追加で調べる過程で間違いに気づけるかもしれない)。
4.結び
信用性がないとか割とボコボコに書いたけれど、こういう胡乱な本は基本的には嫌いじゃないんだ。ただこれに基づいて話題を作ると後で恥をかきそうなというか。
次回は赤坂憲雄著『異人論序説』です。
ではまた明日! 多分!
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