人と比べず、私は私らしく在りたい。
情報発信の時代。
世の中は様々な情報で溢れ返っている。
自己の主張が上手い人が表現者となり、
自己の主張が苦手な私は、時代に取り残されそうで不安になる事がある。
「自己肯定感」
SNSを見てもそんな言葉をよく目にするようになった。
多分私はそれが低い方だと思う。
SNSに疲れて少し気が滅入ると、デジタルデトックスと言う名で本屋によく通うようになった。
著名人や専門家達の出した「自己肯定感」や「承認欲求」をテーマに掲げた啓発本がズラリと本棚を埋め尽くしている。
「こんな本を読んでメンタルが強くなったら苦労しないよ。」
心の中でぶつぶつとボヤきながらパッと目に入った一冊の本を手に取る。中をパラパラめくり本棚に戻した。
「あの人みたいになれたらなー。」
それがいつしか口癖のようになっていた。
私にはSNSでフォローしている《憧れのあの人》がいる。
いつも載せているヘアスタイルとファッションがとてつもなく可愛いんだ。
「自分もあんな風になれたら、、、。」
憧れを通り越して自分と比較してただ落ち込んでしんどくなっているのは分かってる。
「けど見てしまうんだよね、、、。」
ふと鏡を見た。
ボサボサに伸びきった髪。
真っ黒に伸びたプリンのヘアカラー。
《憧れのあの人》には似ても似つかないほどの自分がそこに写っていた。
「髪でも切ろうかな。」
急に思い立っておもむろに美容室を探し始めた。
ハッシュタグは「#三宮美容室」
「可愛くなれる場所より、
ちゃんと可愛くしてくれる美容師さんにしてほしいな。
リアルな私を見て、背伸び出来ない自分をヘアで創造してくれる人。」
さっきまで凹んでいた自分を置き去りに夢中でインスタをめくる。
「憧れのあの人のようになりたい。
けど、私は私らしく在りたい。」
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神戸元町駅から徒歩5分。
トアロードにある何の変哲もないビル。
美容室かどうかも分からないシンプルな看板だけが唯一の目印。
むしろ入り口は狭くて分かりにくいくらいだ。
少し急で薄暗い階段を3階まで上がり、重い扉を開ける。
モルタル調の無機質な空間が私を出迎えてくれた。
「ウルフスタイルにして欲しい。」
それがヘアスタイルの要望。
何日もかけてありとあらゆるスタイルに保存ボタンを押しまくったので膨大な量のウルフスタイルがボックスを埋め尽くしていた。
昔のウルフと違って、今のスタイルは《ネオウルフ》と呼び名を変えていた。
「へー、ネオウルフって言うのか。」
美容師さんとのカウンセリングは楽しかった。
分からない事や口下手なわたしの言葉を一つ一つ丁寧にすくっては説明してくれた。
髪のことなんか何も知らない自分にとって全てが新鮮だったのだ。
「スタイリングが苦手な人でも家で再現出来ますよ。」
その言葉を信じ、保存していた膨大な数のスタイル写真の中からイメージを擦り合わせた一つのデザインが決定した。
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今のウルフ系のスタイルは、《くびれミディ》《レイヤーボブ》などいろいろな形があって、
《ネオウルフ》は《くびれミディ》の1つらしい。
「ウルフって何か昔流行ってたスタイルよね。」
そんな疑問を抱えながらも《憧れのあの人》のしていたウルフが可愛かったから夢中で、必死になって探してたんだと思う。
カットが終了した。
カット後のスタイルは襟足が肩に当たって綺麗に外ハネし、
絶壁が気になる後頭部は、短くしたトップの毛が上手くカバーしてくれている。
ボリュームが出て頭の形が全く気にならない。
鏡には、会った事もない《憧れのあの人》ではなく、リアルに変化した《自分の姿》が映っていた。
「可愛いやん。」
心の中で鏡の中の女性に声をかける。
「やろ?」
鏡の中の女性が心の中の自分に返事をする。
ちょっとだけ自分に自信が持てた気がした。
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美容室。
そこは変わっていく過程を楽しめる場所。
SNSの中には存在しない場所。
行った人にしか分からない場所。
言葉では表現出来ないリアルな場所。
《憧れのあの人》ではなく、《鏡の前の自分》を1番好きになれる場所。
終わった後に可愛くなった自分を写真に撮ってアプリで共有してくれるらしい。
「またここに来たいなー。」
何度も鏡の前の女性に笑顔を見せては満たされていく気持ちを素直に感じていた。
「自己肯定感って何だっけ?」
気がつけば数時間前まで離れなかったそのワードの意識は離れ、《憧れのあの人》のフォローを外していた。
見たことない人に憧れる時間があれば、今会える友達にこの髪を見せたい。
そんな気持ちで友達のいるスタバに足は動いていた。
歩きながらさっきまでいた美容室のホームページを開く。
そこに書かれていたフレーズでさらに気持ちが高揚する。
「ようこそ、次世代の美容室。TELAへ。」
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お店のPRにGoogleに記載した文です。
美容室へ行く楽しみに変わればいいなって思います、、、。