シン映画日記『ソフト/クワイエット』
ヒューマントラストシネマ渋谷でブラムハウス・プロダクションズ製作作品『ソフト/クワイエット』を見てきた。
『ゲット・アウト』や『ハッピー・デス・デイ』など異色のホラー、スリラーを世に送り出すブラムハウス・プロダクションズ製作の新たなるスリラー映画。これが見事に『ゲット・アウト』や『ブラック・クランズマン』等の人種差別絡みのスリラーをヒッチコック的なクライム・サスペンスに落とし込んだ泥沼クライム・サスペンスである!
郊外で幼稚園の先生として勤めるエミリーは園児らのママ友や近所の食料品店のオーナーらに声をかけ「アーリア人団結をめざす娘たち」という会を結成する。その初会合の二次会の会場に移動する途中でエミリーらはキムが経営すり食料品店に立ち寄り、そこでアジア人の姉妹とトラブルを引き起こす。
アメリカにある白人至上主義のおぞましい文化をスリラーに落とし込んだ映画と言えば上記のブラムハウス・プロダクションズ作品以外にも『アンテベラム』などもあり、それぞれ違ったアプローチを見せるが、本作は言ってしまえば『ロープ』や『ハリーの災難』の系譜のクライム・サスペンスを応用している。
クライム・サスペンスとなるのは中盤からだが、それまでは若奥様や綺麗な幼稚園の先生によるご近所さんたちによる白人至上主義の同好会結成の様子をドキュメンタリータッチで描いている。その悪意の元で作られたコミュニティにラース・フォン・トリアー監督作品の『イディオッツ』の詐欺集団に似ており、また集団心理による人間の負の部分を引き出した展開には『ドッグヴィル』にも通じるものが感じられる。
しかしながら、監督・脚本・製作を手掛けたベス・デ・アラウージョは別にこうしたクライム・サスペンスのオマージュをやっているわけではなく、近所のクズな若奥様と幼稚園の先生らが引き起こした惨劇と人が誰もが持ちうる悪意を描いている。白人至上主義とかKKKというといかにもアメリカのみの傾向に思えるが、日本でもヘイトスピーチというのがあるし、ヨーロッパにはネオナチ等もいる。もっとミクロな視点で考えれば学校や会社でのコミュニティで起こるいじめの心理はこれに近いものと思えるし、中世ヨーロッパの魔女狩りから現代のSNSで起こるネットリンチなど人が潜在的に持ちえる心理をサディスティックに描き、悲劇を作り上げた。
『ゲット・アウト』や『ブラック・クランズマン』、『アンテベラム』に勝るとも劣らない人種差別スリラーで、これらのどれにも当てはまらない新鮮さがある。ポリコレでまみれた現代アメリカの映画界隈だからこそ、このクライム・サスペンスは鈍色に怪しく輝く。