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【「編集者」と「子供の学び」:現代社会に必要な掛け算の生き方とは ❘ TEDxHitotsubashiU2024 インタビュー企画】

私たちTEDxHitotsubashiUは2018年の設立以来「一橋大学内で新しい視点と出会う機会を提供すること」を理念として活動してきました。

来場者の皆様や一橋大学の学生に弊団体のイベントを通して、一橋大学が位置する国立という街の魅力にも出会ってほしいという想いから、今回国立市のお店や、国立市で活動されている方々に、今年度のイベントのテーマとなる”+roads(クロスローズ)”を主題にインタビューを行いました。

本企画を通して、国立というまちの魅力を再発見すると共に、今年度のテーマの核となる”人生における様々な選択”について再考する機会をお届けできたら幸いです。


インタビュアー

清水:Speakerチーム所属、社会学部2年生

福井:Eventチーム所属、社会学部3年生

池田:Speakerチーム所属、社会学部4年生



今回インタビューをお引き受けいただいたのは、国立市谷保のダイヤ街商店街にある「小鳥書房」の店主である落合加依子さん。

落合さんは22歳で名古屋から上京し、出版社に勤務しながらシェアハウスを運営されたり、独立後は小鳥書房を始めるなど、様々な取り組みに携わってきました。

その中で小鳥書房は「たったひとりが心から喜んでくれる本づくり」がしたいという願いから2015年に設立されました。本インタビューでは、落合さんと共に、小鳥書房の店舗の2階で「まちライブラリー」を開かれている一橋大学名誉教授の林大樹さんにもお話をお伺いしました。

【今までの人生を振り返って】

清水:今までの人生を振り返ってみて、最も大きな選択は何ですか。

落合加依子様(以降、落合):「最も大きな」って難しいですね。名古屋から上京した時も、移動という意味では大きな決断だったと思います。

他にも、出版社に勤めながら、子供と大人が共に学べるシェアハウス「コトナハウス」を作ったことや、出版社から独立して小鳥書房を作ったことも仕事の面では大きな選択でした。3年前に離婚したことも人生の大きな転換だったので、一つ選ぶとなると難しいですね。

私は22歳のときに編集プロダクションに勤めていて、1年9か月務めた後に出版会社に転職をしました。安定した生活を送ることはできていましたが、自分の生きる軸として「子供の学び」がとても大切だったので、仕事内容と自分がしたいことが離れてしまっていることが気になっていました。

そのため、26歳の時に仕事とは別のところで「子供と大人が学びあう」をテーマとしたコトナハウスを立ち上げました。

清水:20代半ばという年齢でそのような選択をすることは難しくなかったですか?

落合:難しくはなかったです。会社は副業禁止でしたが、シェアハウスを作る決断を話したときは会社中の人が応援してくれました。

また、国立で出会った人たちにシェアハウスの構想を話したときに、背中を押してくれる人がたくさんいたことも支えになりました。「そんな面白いこと考えてるなら国立でやってよ」と言ってくれたんです。だからこそ、この街に恩返ししたいという気持ちでやりました。

始めるところのハードルはあまりなかったですね。場所を用意してくれたのも地元の方で、そのように応援してくれる人がいたから実現できたと思っています。

清水:もし今の道を選んでいなかったとしたら、どのような人生を歩まれていたと思いますか?

落合:私はもともと学校教育じゃないところでこどもの感性を言葉で育むことをしたかったため、その手段として、童話作家になろうと思っていました。編集プロダクションに就職したのも、「自分はいずれ童話作家になるから裏側を知っておこう」と思ったからです。

なので、もし編集者になっていなかったら、お話を描き続けて、賞に応募して、受賞を目指して、という一般的な作家の道を歩み、夢を追う少女のまま大人になっていたのではないかなと思っています。

清水:今も童話作家になりたいというお気持ちはありますか。

今も文章を書いたり、本を出したりしていますが、童話ではなくて日記文学です。童話を書きたい気持ちは全くありません。それよりは、本を出したいという人の夢をかなえられる裏方としての自分の在り方がすごくしっくり来ています。

まちづくりにおいても、「この街の人たちのために何ができるか」を考えることの方が向いているということに、編集者になってみて気づきました。

清水:これまで様々な選択をされてきたと思いますが、決断をするときに大切にしている、自分の中の基準はありますか。

落合:結構人によって違うと思うのですが、私はやる前にあまり考えたりしないタイプです。やりたいと思った時にすぐ体が動いて、動きながらやる意味を考えます。立ち止まって人の意見を聞いたりすることもあるんですけど、やろうと思ったらすぐやる、ということを大切にしています。なので、選択をする上では「自分の心が動くかどうか」が基準になっていると思います。

ただ、周りの大事な人に反対されたら一回立ち止まるようにはしています。説得できていないということは、きっと自分のビジョンにはまだ穴があるということだと思うからです。

池田:落合さんの中では、「他人を支えたい」というお気持ちが大切なのでしょうか。

落合:心が動く瞬間は、「誰かのために」と思ったときだと思います。

小鳥書房も、たった一人のために本を作るというのを目的にしていますし、この場所に建てたのも商店街のおじいちゃんが本屋を作るならダイヤ街につくって欲しいって言ってくれたからなんです。

【小鳥書房の魅力】

清水:ここからは、小鳥書房の魅力について聞いていきたいと思います。小鳥書房は本屋、まちライブラリー、出版社と、様々な側面を持っていますが、なぜそのような形態にされたのでしょうか?

落合:最初からそのような形態を考えていたわけではないです。

元々は出版社として小鳥書房を立ち上げたのですが、谷保の駅前にあった「KENブックス」という本屋がなくなったことをきっかけに、本屋を始めました。谷保に住んでいて、足腰が悪く、国立駅の書店まで行けない方たちに、本と出会う機会を提供したいと思ったことが大きな理由でした。

また、当初2階は本屋の収益を上げるためにギャラリーにしていましたが、一橋の教授だった林さんが、街の人が自由に訪れることのできる「まちライブラリー」を開くための物件を探しているということを知り、林さんに貸すことが決まりました。

安定した収入が得られるというメリットもありましたが、林さんの夢を応援したいという気持ちから、2階をお貸しすることになりました。

偶然の出会いからこのような形になったと思っています。

清水:今のお仕事のやりがいは何ですか?

落合:現在はコトナハウスの運営には携わっていませんが、大手出版社や行政から依頼を受けて編集のお仕事をしたり、カメラマンとして仕事をすることもあります。

その中でも、やはり本屋の店主という立場があるからこそ、このまちの中に自分の立ち位置や役割が生まれますし、それが自分という存在を形作っているなと思います。

なので、一番儲からない仕事ではありますが、やりがいでいうと「本屋の店主」という仕事が一番大きいですね。

清水:お話を伺っていると、落合さんにとって本はとても大きな存在だったように感じます。

落合:2歳で文字が読めるようになり、3歳から自分でお話を書き始めていたくらいに、昔から本は好きでした。

今は人よりも飛びぬけて読書家であるという訳ではないのですが、本に助けられて生きてきたという自負はあります。自分にとって、本は人とのコミュニケーションツールの一つでしたね。

清水:今まで関わってきた本の中で印象に残っているものはありますか。

落合:自分が作った本の中で一番印象に残っているのが、小鳥書房として初めて商業出版した「ちゃんとたべとる?」です。

非行に走る少年たちに40年以上ご飯を食べさせ続けてきた”ばっちゃん”という女性に密着して、彼女の言葉を書き続けたものになっています。

自分が小鳥書房を立ち上げるにあたって、「自分が生涯をかけて、この人の言葉を100年先まで残したい」と思える人を探していました。

この本は私が取材してまとめているのですが、最初に出会えたのが、この”ばっちゃん”でした。自分の中でとても大切な本です。

【進路に悩む大学生へ】

福井:大学生の中には、自分が好きなことを仕事にするか悩んでいる人も多いのではないかと思います。落合さんは出版のお仕事とコトナハウスの運営を掛け持ちしていらっしゃいましたが、二つを両立することはやはり大変でしたか?

落合:かなり忙しかったです。朝4時に会社を出て、谷保に帰ってきて、お風呂だけ入って、朝また会社に戻る、という生活をしていたこともありました。でもそれも楽しくて、好きなことをできるということが一番のパワーになるんですよ。

1日の1/3を仕事に充てるとすると、人生の1/3を仕事に費やしているということになりますよね。それならば、私は「楽しくない仕事やってどうすんだ」と思います。

小鳥書房では年間50人ほど全国からインターンの方が来てくださるのですが、中には1回社会人になってみたものの出版業界を諦めきれずにインターンに来る方もいます。

自分の軸さえぶれなければ、最終的には絶対に目標に届くことができると思いますが、一度違う職についてしまうと、どうしても時間はかかってしまいます。やりたいことにできるだけ近いことを最初からやった方がいいんじゃないかなというのが私の考え方です。

少し補足すると、これからは掛け算の生き方がこれから大事になってくると思っています。一個のことをやっていればいい時代はもう終わっていて、大事になってくるのは経験値と人柄であり、その経験値の部分をどのように積み重ねていくかという、個人の力が必要だと思います。

例えば、「企業の会社員です」よりも、「会社員をやりながらカメラマンやってます」というような掛け算でオリジナリティが築かれていくと思っていて、何と何を組み合わせた生き方を自分の軸にしていくかが大切になってくるのかなと。

そこを今から積み重ねた人と、積み重ねずに過ごしてきた人とでは、10年後の生き方の幅の広がりがかなり変わってくると思います。私の場合は「子供の学び」「編集者」という軸が自分の中にあったので、今迷わずに生きていくことができています。

福井:確かに国立で出会った人たちの中には一言で何をやっているのか言い表せない、けど面白いことをやっている大人が多い気がしています。それが掛け算の生き方なのかもしれません。

落合:私は生き方の幅を広げるには人と話すか、本を読むかどちらかしかないと思っています。小鳥書房に来るインターンの方にも、実務作業として何をするかというよりは、誰と出会ってどのような会話をしたか、という部分を大事にしてもらっています。

例えば、会社員一択だった方が人と話すことで「こんな生き方もあるんだ」ということを知ったりだとか、その方が生き方の幅も広がりますし、その部分を楽しんでもらっていると思います。

福井:小鳥書房は本屋であると同時に人と出会い、つながることのできる場所でもあるんですね。私も掛け算で自分を作っていきたいと思えるようなお話を伺うことができました。



【小鳥書房インタビュー番外編:社会とつながる「居場所」】

今回は小鳥書房店主の落合さんに加え、小鳥書房の2階でまちライブラリーを開かれている林大樹さんにもお話を伺いました。林さんは一橋大学の名誉教授であり、現在も一橋大学にて「まちづくり」の授業を開講されています。

清水:今までの人生を振り返ってみて、印象に残っている選択はありますか。

林大樹様(以降、林):何十年も前のことにはなりますが、受験する大学を選ぶという決断は大きかったですね。

最初は弁護士になろうと思っていましたが、浪人中に学者になりたいと思うようになりました。当時は自分にどのような可能性があるのかわからなかったので、色々なことを学びつつ、自分が進む道を選べる社会学部を志望しました。

社会学部って最初はよくわからなかったけれど、そこが良かったんです。大学で勉強しながら、自分がしたいことや、学者になるのであれば自分が向いている学問を社会学部なら見つけられると思いました。そしてその決断が今に至っているのだから、やはり大きな選択だったと思います。

また、ボート部に入ったという決断も自分の中では大きかったです。中学生、高校生の時にも部活には入っていたんですけどあまり強くはなかったです。

それと比べると、一橋大学のボート部というのは全日本レベルで、伝統のある部活でした。浪人時代に体が衰えた感覚もあったので、あえて強い部活に入ろうと思ってボート部に入部しました。

卒業後も母校に残ることができたので、長い付き合いになりましたね。

福井:過去のTEDxHitotsubashiUでは、一橋大学ボート部出身でオリンピックに出場された中野紘志さんにご登壇いただいたことがあります。

また、林さんは一橋大学で「まちづくり」という講義を開講されていますが、まちづくり関連でいうと、Pro-Kというまちづくりサークルとも繋がりがある菱沼勇介さんにも過去に登壇いただきました。

林:「まちづくり」という授業を私を含む何人かの教員で始めたのですが、その授業内では班に分かれてグループワークをしました。

そのうちのいくつかの班は活動の延長線上でサークルになったのですが、その中で、今も続いていて規模が大きいのが、一橋のまちづくりサークル「Pro-K」です。

Pro-Kを作ったのは学生ですが、多くの地元の人の応援があって続いているんですよね。私も大学教員という立場でずっと応援し続けてきました。

池田:授業が出発点になってサークルができたというのは驚きでした。

林:現場生成型教育ですよね。学生が主体になってプロジェクトをしていくという考え方です。

授業の班というのは半年、あるいは1年ほどで終わります。また、授業時間は1週間のなかで2-3時間くらいありません。学生団体として登録することで授業外でも活動できるという理由から、Pro-Kのようにサークル化するという動きが生まれました。

福井:話は変わりますが、どのような経緯で小鳥書房の2階でまちライブラリーをひらくことになったのでしょうか。

林:落合さんとはコミュニティづくりという観点からは目指しているところが似ていたのでいつの間にか繋がっていました。

一橋大学を退職した後、研究室に長年積まれた大量の本の行き場に困っていたのですが、本をただ手放すのではなく、本を通したまちの居場所をつくりたいと考えていました。

それらの本を誰もが自由に読める「まちライブラリー」という空間を作りたく、そのためのスペースを探しているという相談を落合さんにしたところ、小鳥書房の2階を使わせていただくことになりました。

福井:利用者はどの層が一番多いですか?

林:学生がたくさん来ます。もともと学生が来ることを念頭に置いていましたし、まちづくりという観点からいうと、一橋大学の学生だけに限らず、他大学からも興味のある学生が来てくれたりします。

ただ、コロナ禍真っ只中の2020年9月に開いたので、そもそも一橋大生が国立に来なくはなっていた時期には、地域の方が来ることも多く、小さなお子さんの利用もありました。

ライブラリーでは、基本的に本の貸し出しを行っていて、子供はここで読んでいったりもします。鬼滅の刃などの漫画も揃っていますしね。

清水:ライブラリーは現在土曜日のみ空いていますが、今後変わる可能性はありますか? 

林:当初は小鳥書房さんの営業日に合わせて水曜日から土曜日まで開いていました。ただ、収益事業ではないので維持費を払うのが大変になった時期があったんです。そのため、2年前くらいに別の職業につき、そのタイミングで土曜日のみ開くようになりました。

ただ、その仕事をもうやめようとも思っているので、4月ごろからは営業日を増やそうと思っています。週に一回来るだけではやはりできることは限られてしまうんです。

読書会とか、まちづくりゲームとか哲学カフェとか、もっといろいろ開催したいと思っています。

清水:最後に、まちライブラリーは林さんにとってどのような場所ですか?

林:まちの居場所づくりのための空間ですが、ここは私の居場所でもあります。

私にとって、ずっと大学の個人研究室が一番の居場所でした。研究室は個室ではありますが、閉じこもることもできれば、他に人が入ってこれる空間にもできる。いわば社会との接点があるわけです。

一橋をやめた後にも、社会との接点を持つ形で国立に自分の居場所がほしいと思い、長い間場所を求めてさまよっていました。

ビジネス的には利益を生むものではありませんが、まちライブラリーというコンセプトを理解してくれる人が多い国立でできる機会がもらえるのなら早くやらないといけないと思い、ここでまちライブラリーを開くことを決断しました。

とても大切な場所です。

Interview:清水美波 / 池田勇来 / 福井郁花
Text:清水美波


2024年2月11日(日)に開催されるTEDxHitotsubahiUでは、魅力的なスピーカーのトークの他にも、本企画をはじめとした地域の魅力をお伝えできるような企画を多数ご用意しております。

開催概要▼
日時:2024年2月11日(日)13:45開演​
参加費:無料
対象:一橋生に限らず、どなたでも参加できます!
概要:カンファレンス(スピーチ)と交流会の2部構成
会場:一橋大学兼松講堂

詳細・参加申し込みはこちら▼


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