(9)条・項・号とclause、section、paragraphその他:個人的な悩みどころ
こんにちは。テクノ・プロ・ジャパンの法務翻訳担当です。今回も「条・項・号」などについての話を続けます。前回はその基本的な使い方と、同じような場面で使われる英語表現をご紹介しました。そのうえで、訳す場合には、(たとえば、英日翻訳の原文が)SectionであれArticleであれ、具体的な状況に応じた語を充てていけば良いというお話をしました。今回は、私の個人的に悩んでいる点についての話をしてみたいと思います。
正統な表現と参照しやすさの対立
たとえば以下の表現、具体的には「SECTION 5.1」をどのように訳したものでしょうか。
考えうる(&実務でよく見る)選択肢は大きく分けて2種類あります。まず、「第5条第1項」と訳すパターン。もう1つは、「第5.1項」と訳すパターンです。前者は、日本語の法令文の表現に則った形ですので、日本語の正統な表現と言えそうです。しかし、実務的には、後者の方がやや優勢だという印象を受けます(ただし、この印象に関しては具体的なデータを取ったわけではありませんので、あくまで個人的なものになります。ご注意ください)。
かつての私は、迷いなく前者でした。「具体的な状況に応じて対応する表現を充てる」という観点から、「日本語だったらどう表現するか」を考えると、それしかないと考えていたからです。
しかし、よくよく考えてみると、「5.1」という表記そのものを流用することにも利点があります。特に、上で引用した契約書のように、各条文に「5.1」「5.2」のような(「項」の番号の前に「条」の番号を残す)番号の振り方をしている場合には、「第5条第1項」と書かれるよりも「第5.1項」の方が、対応する条項が一目でわかりやすい気もします。また、「Notwithstanding the provisions set forth in Section 2.1.1」(引用:Autodesk LICENSE AND SERVICES AGREEMENT Section 10.2.1)のように、「項」の下にさらに小さな区分けが出てきたときにも、問題なく対応できます。Section 2.2.1は「第2条第2項第1号」のような書き方もできるかもしれませんが、箇条書きではないので厳密に「号」ではありません。かといって「第2条第2.1項」も妙です。あるいは、「第2条第2項の1」式の表現なら良いかもしれません。こちらは純粋な日本語文書でも時折見ます(※)。しかし、いずれにしても、「2.1.1」という数字をそのまま流用した表現を超えるわかりやすさになるかどうかは疑問が残ります。
(※)通常は「~第○○号の1」のように、号よりもさらに小さいものに使っている印象です。が、たとえば、『食品衛生法施行規則及び食品、添加物等の規格基準の一部改正について』に、「規則第5条第1項のイ~ハ、ホ及びヘ」という表現が見つかりますので、ないわけではありません。もっとも、「食品衛生法施行規則」の「第5条第1項」に「イ」などの項目が見当たりませんでしたが…。
というわけで、この「第2.1.1項」の形式は、(特に見出しに同じ数字が用いられているのであれば)読む側にとって便利な側面があります。また、訳す側にとっても、数字をそのまま流用できるという点で楽です。
未解決の問題:もっともっと複雑になったらどうしよう
しかし、「Section x.y.z」は「第x.y.z項」の形一択でいいかとなると、なかなか悩ましいところもあります。以下の条文をご覧ください。
具体的には、上の「Section 3(a)(1)(A)(i)」をどうするかという話です。問題のSection 3(a)(1)(A)(i)がこちらです。
ご覧のとおり、(i)は箇条書きです。つまり「項」ではなくて「号」なのですね。すると、「第3(a)(1)(A)(i)号」とやれればいいのですが、ここまでになるとさすがに少し抵抗を感じます。かといって「第3(a)(1)(A)項第(i)号」にするくらいなら、いっそ「条」も挟みたい。また、そもそも「号」は(i)~(v)だけと言えるか。訳し方しだいではありますが、(A)も「号」たりえるかもしれません。悩ましい。どうしたものでしょう!
こればかりは、状況に応じて適宜、と言わざるを得ないかもしれません。考えうる選択肢としては、ざっと以下のとおりです。
「第3(a)(1)(A)(i)号」:「Section x.y.z」を「第y.z項」式で訳していて、それとの統一を図るのであれば、こうなります。「抵抗を感じます」とは書きましたが、少量なら許容範囲かもしれません。
「第3(a)(1)(A)項第(i)号」または「第3条第(a)(1)項第(A)(i)号」:他の条項番号を日本語の慣行に則って(=「第x条第y項」式で)処理している場合には、こうなりそうです。前者と後者のどちらにするかは、(A)の条文の訳し方次第です。
「第3条第(a)(1)項第(A)号の(i)」「第3(a)(1)項の(A)(i)」など:区切りの良いところまでをまとめて、あとは「の」の後ろに配置する方式です。
ちなみに、公式の訳は「第3条(a)(1)(A)(i)」でした。私のいう「考えうる選択肢」を折衷した感じの訳で、絶対的な正解ではありませんが、妥当な落とし所のひとつだと思っています。