【書評】 大企業からスタートアップへ、優秀な人材を「引き剥がす」
経済セミナー2023年2・3月 通巻730号【特集】成長のカギはスタートアップにあり?
Forward
経済セミナーの巻頭対談「起業を誘う環境を創る」を書評する。少し変則的だが、Twitterで宣伝されているのを目にしてつい手に取ってしまった。
対談に登場するのはシニフィアンの朝倉さんと、関西学院大学の加藤さんだ。
Key Takeaways
ゲームがスタートアップを産んだ
日本のスタートアップの歴史をリサーチしたわけではないため、以下の論考は単なる感覚的な仮説にすぎないことをご承知いただきたい。
そのうえで、モバイルゲームの隆盛について振り返ってみたい。対談の中で印象的だった朝倉さんのクオートは以下の通りだ。
おそらくDeNAやミクシィを指しているのだと思うが、確かにあの時代、大企業の優秀な人材が大挙してスタートアップ(当時の用語でいえば「ベンチャー」)に流れ込んだ。
「居ても立ってもいられない」がスタートアップを強くする
先日たまたま読んでいた記事で、野村証券をへてDeNAに入社したあと、起業してそれなりの成功を収めている起業家の存在を知った。大阪にあるゲーム会社、ジーゼの鈴木代表だ。
「居ても立ってもいられない」。これが起業家に欠かせない感情なのではないか。この事例は大企業⇨スタートアップではなくスタートアップ⇨起業における「居ても立ってもいられない」感情だが、いずれにせよこれがスタートアップのドライバーになるのは間違いなさそうだ。
「居ても立ってもいられない」業界をつくろう
DeNAやミクシィを盛り上げたような、大企業の優秀な人材がこぞって「居ても立ってもいられない」感情を掻き立てられる業界をみんなで創ることが大切なのではないか。
「みんな」とは誰か。私個人的には政府、あるいは日本を代表するVCだと考えている。VCであればグロービス・キャピタル・パートナーズかグローバル・ブレインあたりだろうか。声高に「この業界を創る」と宣言して、投資マネーを集中させて「イケてる」業界を人工的に作ってしまうのだ。
短絡的に「AI」や「ブロックチェーン」などを選択してはいけない。それらはあくまで技術であり、インフラだからだ。
例えば「サステナブルで新しい食べ物をつくる」はどうだろうか。大豆ミートが卑近な例だが、食文化が豊かな日本にはアドバンテージがあると考えている。
…と偉そうに論じている自分も大企業に所属する若手だ。新卒で入社し、はや3年。「居ても立ってもいられない」と感じた瞬間は、まだ訪れていない。
Afterward
スタートアップについて語るとき、あまりに議論が散乱してしまう。まずもってスタートアップの定義が確立していないし、どのステージのスタートアップを論じるかによってもトピックスは大きく変わる。加えてスタートアップを語る目的もさまざまだ。起業を増やしたいのか、雇用を創出したいのか、はたまたGDPを上げたいのか。
この対談に登場するのはシニフィアンの朝倉さんと、関西学院大学の加藤さん。ファシリテーターは「スタートアップを取り巻く動向」を問うてしまったがために、やはり議論は拡散した。
問うべきはおそらく「スタートアップの増加は経済発展に繋がるか」や「政府がスタートアップの重点分野を絞ることで、日本のGDPの増大するか」などであろう。私自身、無意識にゴールを経済発展やGDP増大にしてしまっている点は反省すべきだが…
See you next time…