#7.親鳥の鍋。
親鳥の鍋を食べたことはあるだろうか。若鳥と違い、身に非常に歯ごたえがあって、火を通した皮はコリコリとする。比べて脂は少なく、何より旨味が非常に強い。鴨肉の野趣溢れる風味も好きだが、私は鍋にするならば親鳥が一番美味しいと思っている。
だがこの肉の非常に残念なことは、東京ではなかなか見つからないということだ。上京してきた有象無象というものは、柔らかいものや、油と塩の組み合わせを信仰しすぎではないか、などと愚痴を言いたくなる。それは言い過ぎにしても、分かりやすいものが好まれて、趣のあるものが扱われないのは、東京の残念なところではないか。
そんな親鳥の鍋の作り方である。
まず、非常に歯応えのある肉であるから、噛み切れるとは考えないこと。そのため一口サイズに切る。鍋といえばまずは出汁であるが、昆布出汁をひいて、酒、味醂を少量加えて煮立たせる。そこに市販の和風出汁を加える。商品は好みでいいが、個人的なおすすめは「創味 京の和風だし」。「根昆布出汁」もいい。私は両方混ぜてしまう。食べるときに柚子胡椒を使うので、心持ち薄めが良い。まぁ鍋の出汁は完全な好みの世界なのでとやかく言うまい。
だが、鍋の第二の主役である白菜については、最適解が決まっている。くれぐれもざく切りにしてはいけない。まず根元を取り除き、葉をバラして、丁寧に洗って水気を切る。ここからが大切で、白い芯と、葉の部分を切り分けた後、芯の部分を斜めに、そぎ切りにせねばならない。切り口は斜めであるほど良い。切断面の面積が大きいほど、白菜の芯の甘味と旨味が鍋に溶け出し、煮込まれた白菜はトロりとした甘味と、シャキッとしつつもほろりとほぐれる繊維質を残した、とても歯触りの良い状態になる。葉の部分は適当で良い。大切なのは、芯の旨みをいかに鍋の中に広げるかである。
同じ理由で、長葱も白い部分はそぎ切りで、切断面は広いほどよい。そして長葱と白菜の白い部分、つまりそぎ切りにした部位だけを、先にまとめて出汁のなかに投入しておく。同じタイミングで豆腐を入れても良い。鍋の中には白い食べ物だけが入っている状態になる。
キノコは霜降り平茸か、しめじ、あるいは舞茸が良い。この鍋にエノキは合わない。あとは白菜と長葱が煮立った鍋で適宜、肉なり野菜などを自分のペースで投入する。野菜の切り方さえ間違えなければ、食べる順序は自由で良い。
親鳥の素晴らしさがここで光る。この調理法は白菜や長葱の旨み甘みが強烈な分、それと殴り合える強い旨みと歯応えをもつ、親鳥の肉こそが至高だと思っている。顎が疲れるくらいの弾力と、親鳥の皮のコリコリ感、トロトロになった野菜、そして合間にキノコの歯切れの良さによる、食感のコントラストが堪能できる。肉には逐一、柚子胡椒をつけながら食べると、ビールが進む。酒については、脂の旨味が強く存在感がある分、口内がさっぱりする炭酸系ならなんでも良い。
若鶏や鴨肉ほど脂が出ず、野菜の旨みが強い出汁は、〆を蕎麦、饂飩、雑炊と選ばない。とはいえ鶏肉なので、蕎麦が一番間違いないのは事実だ。
文字通り、噛み締めることになる、鶏の真の力と、白菜のポテンシャルを堪能できる。猛暑が続く今だからこそスタミナをつけるために、試してみてはいかがだろうか。親鳥が安く手に入るのならば。