山のおばぁに教わった冬のご馳走
「つめっこにすんべぇ」
「あったまるし、うんめぇよぉ」
会社の新しい事業のために引っ越した山での暮らしがまだ馴染まない頃、山のおばぁがそういってつめっこの作り方を教えてくれた。
人参だの大根だの冬の山の暮らしでも手近にある野菜やキノコを油で炒めて汁に仕立て、小麦粉を水で練ったものを煮立った汁にいれる。
ぐらぐら、グツグツ
つめっこが浮かんで来たらも少し炊いてできあがり。
「つめっこはちっちぃほうがうんめぇんだ」
おばぁは嬉しそうに美味しさの秘訣も教えてくれた。練ったものをつまみとるからつめっこ、というようなこともきいた気がするものの記憶が定かではない。
練るのは茶碗でもどんぶりでも適当な器でいい。小麦粉を入れて水を入れてスプーンやなんかで混ぜるだけ。
耳たぶ位の固さ、何となくで大丈夫。
水、足りなかったからもう少し足して
今度は水の入れすぎだぁ、粉を足そう
そんな調子で出来上がったものを団子に丸めるでもなくちょちょいっと煮立てた鍋の汁に投入していく。
作るのはたいていクリタケやナラブサのような美味しい出汁がよくでるキノコが手に入ったとき。
しかしながら私はお米炊き忘れたとか疲れたからもうごはん作るのやだぁなんて時に作るのが多かった。
せっかくの田舎暮らしだから何でも手作りしようと張り切りすぎていた。そうして小麦粉はあれどパンも麺もない。米はあれどパックのごはんなんてもちろんない。といったやりたい気持ちと出来ることのバランスの悪さに我が身を呪いたくなるような事態に陥る。
疲れたから簡単にスーパーの弁当かお惣菜でと言うには近くの店は遠く、もうご飯食べなくてもいいかとさえ思う。そんなときでも「あ!つめっこにしよ」って思うともうひとふんばり頑張って作る気が不思議とおきたのだ。
どんぶりの中の小麦粉をぐるぐる回しているうちに何だか楽しくなってくる。
一杯で栄養もとれて何より温まる。
今思えば都会から引っ越してきた者への慣れないであろう山の暮らしを心配して教えてくれたものかもしれない。
つめっこを食べるたびにうんめぇよぉと言ったおばぁの嬉しそうな笑顔を思い出す。