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月の恋人

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30歳を迎え、錯乱した「ぼく」がたどる不思議な物語。この小説は、地球で始まり、月を経由して、地球で終わる。とてもシンプルだ。ただ、喋り出すはずのないものが喋り出し、老人が過去を懐…
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記事一覧

終章 記憶

38 土手沿いを風が吹いていた。風はあたたかみを帯びている。長い冬が去り、春が来ようとして…

6章 月面の蜜月

「時はぼくを変えていく。だけどぼくは時をさかのぼることはできない」(「チェンジス」デイビ…

5章 邂逅

「ぼくの人生があまりにも奇妙な時期を迎えているときに、きみはぼくに出会った」(映画『ファ…

3章 大学生

「智に働けば角が立つ。情に棹させば流される。意地を通せば窮屈だ。兎角に人の世は住みにくい…

4章 奇妙な相棒

「レエモンがピストルを私に渡すと、陽のひかりがきらりとすべった。それでも、われわれは。一…

2章 音楽が鳴る間は踊り続けろ

「踊るんだよ」「音楽の鳴っている間はとにかく踊り続けるんだ。おいらの言っていることはわか…

1章 ぼくの心はどこにある?

「その亀は逆さまのまま横たわっていた。その腹は灼熱の太陽で焼け、砂に足を打ちつけて、自分でひっくり返ろうとしている。でも、できない。あなたの助けなしではね。でも、あなたは助けないんだ」(映画「ブレードランナー」。ヴォイト・カンプ・テストのシーン)  1 さて、ぼくは会社からの帰り道にいたのさ。 インターネット革命で効率性をぐんと向上させながら、さらに労働時間を増やしつつある、愚かしき人間にとってささやかな楽しみである、余暇の時間だった。ぼくはアイフォンで椎名林檎の「病床パ

プロローグ:この小説を書くに当たって

帰り道はいつだって早く感じる。辟易とする会社が待っているから、行きは気がすぐれなくなるこ…