自作の詩20選 (詩作について)
詩作について
最近、詩を書く気が起きない。それで頻繁に書いていた頃の詩を見直して選んでみました。
抽象的な詩はだいたい何か具体的な出来事がきっかけとしてあります。その事への違和感などを合理的に説明できない場合に、それに付随するさまざまな事を思いつくまま書き、そこから具体的な言葉を削ぎ、無駄を省き、ある言葉は類語に変え、時には肯定と否定を翻しました。
そうして出来上がった詩は、たいてい自分に向かって返ってくるものになりました。おおかたの事は自身の中にもあるからなのだろうと思います。きっかけの出来事自体はどれも忘れてしまった。ただその芯のような作品だけが掘り起こされて残っています。
最も気に入っているのは「水の音」で、これ以上のものを書ける気がしない。シンプルで、抽象的にも具体的にもとれるように思います。
この詩のあと、ユーモラスな「憂い」「弔い」「散髪考」が続いた。この3作も気に入っています。
この4作で終わっても良かったのかもしれないが、書かずにはいられない気持ちが起きて来て続けました。
まずいものも多いが、それでもその時の自分には必要だったのだと感じます。
もう今は書く気がまったくしないのですが、20代の頃に詩ばかり書いていて、その後ぷつりと20年以上も書かなかったのが、「うん。」を皮切りに突然再開したのだから、また書く時が来るのかもしれない。
(2017〜2020年に書いた詩から選びました)
深緑
紅くぬれた
水溜りに写る
鈍い光
逃げ出した
熱りと焦り
いつも
違うつもりで
大差のない
僅かなちりの
変異の範囲内
浅瀬の艀の上
積荷の足元で
そっと舐めた
麗しくない
みにくい味は
どこにいても
ここにある
深緑色の内臓
平凡な皮の下に
2020.9.4
井戸
進歩の枠を
跨ぐ足元の
おぼつかなさ
ざっくりとした
シンセドラムで
物質は踊る
掘り進めば
表層に達し
遠点は
土嚢に眠る
筋張った草の感触
まだ待ってくれるか
♠️のエースは
2020.4.20
抗い
橋の上で聞く
外のざわめき
内のざわめき
気を付けながら
そっと啜ってみる
こぼれる密めき
不可解な夢より
平凡が怖い
呑み込んだものが
にじり寄るから
関心はなく
無関心も失せ
ぎこちなく進む
僕の上水道から
下水道の端まで
いつか非力なまま
囲まれて
それでも
従いはしません
生きている
からだひとつで
2020.3.28
センチメント
あざむいたのか
あざむかれたのか
時はたち
明るみに出て
温もりは壊れてしまった
眠りこけよう
しばらくの間
力を待とう
分からぬことをいとおしく
分かることをこそばゆく思う
そんな気分だから
2018.10.27.
街
降り積もった塵が
風雨と共に去っても
どうしようもなく
残る臭気がある
重くはなく軽くもない
深くはなく浅くもない
ただ息詰まる音がする
掻き消されることのない
避けようのない淋しさ
地面を踏みしめると
沈黙が伝わる
留まることなく続く
静かな交流の時
2018.10.12
そっと
ひずむ言葉の陰
ほつれる
あらい麻布を撫で
それとなく嗅いだ
含まれるような
砕かれるような
そんな心地がする
2018.9.29
寛ぐ
冷ややかな優しさに
端々までも和らぐ
あえて隠すことも
語ることもない
溜池のような穏やかさ
どこにもあり
どこにもない
誰にもあり
誰にもない
辿り着いて思い出す
前に訪れた事を
2018.9.15.
一会
今日に突き刺る
繕いなくばらまかれた
感触を探る
もう会えないとしても
また会おう
互いに不審者として
不平等で
公平な土壌で
2018.9.6.
黄昏
素朴な石に刻まれた
文明の匂い
侘しい厚化粧
沈黙に包まれて
聞こえる足音
すりへらし、へらして
皆、窒息しそう
僕もその一人
ビルの中の
滑らかな石
がらんとした人混み
寂しい古城を思い出す
2018.8.23
方々へ
薄情な懐かしさ
パサつく臭いや
どよめく車内の心地がする
ざらつく舌触り
酸味の中に
ほのかな甘みがある
とてもいい
虫がざわめく
方々へ
向かう足音がする
2018.8.12.
憂い
昨日まで
新鮮だった靴下
タンスの中で
穴の空いた仲間を横目に
実にしっかりとしていた
なのに
新しく5組ほどが入り
擦り切れ者をのかしたら
今は古びて見える
決して見劣りするのじゃない
ただ清新さは消えてしまった
友を見送った
憂いのせいだろうか
2018.8.9.
弔い
バナナの皮よ
あんなにしっかりと
柔らかい実を包んでいた
今はだらしなく
手足を投げ出し
あとは捨てられて
ゴミ箱の中で
茶色くなるのを待つのみ
いま悟った
お前を踏んで転ぶ
古典的ギャグも
弔いの1つなのだと
2018.8.5.
散髪考
しゃきしゃきと
細胞の連なりを切り
体との繋がりを絶って
落ちたものは
さっさと掃いて捨て
細かいものは洗い流される
何のおくやみの言葉もない
しらじらしい
細胞にも生命が宿るなんて
2018.7.30.
水の音
おぼつかない
花火が上がり
谷間に響く
ひと呼吸して
走り、立ち止まる
煙の匂いと
雑踏が混ざる
目を閉じて
聴こえてくる
水の音
ざわめきの終わり
2018.7.22.
きっと
思い込み
まわり道して
立ち止まる
言葉にならない
絡まるばかりで
明かされると
自然と影になる
控えめに寄ってみる
潜むものに
ふれないように
霞んだ向こう
そう辛くはない
きっとうまくやれる
秘密を恐れなければ
2018.6.20.
本当の事
会わなければ分からない
そのいやらしさ
かわいらしさとか
魅力的な瞳や笑顔は
幾多の残酷さを通って来た
そこから残る力
驚くべき事
見間違えようもない
本当の事
惹かれる事は恐ろしい
驚いて距離を置く
そしてじっくりと噛みしめる
息を整え
近づくか遠ざかるかを決める
間違えてはいけない
本当の事を
2018.5.10.
息づかい
誠も嘘も晒されて
明るみに出されたとしても
ただ息づかいだけが
伝わってしまう
語る言葉がない時には
輝かしい光は
ものを見えなくする
そっと寄り添って
耳を澄ませる
その温もりまで
聞こえて来るように
2018.3.20.
ゆったりと
日が暮れる
眠りにつく前に
吐き出そう
隠す事など
何もないはず
夢を見ずに
終わるかもしれない
暗闇が訪れる前に
ゆったりと速度を上げて
ほとばしる
恥じる事も誇る事もない
あるがままの姿を
2018.3.18.
そう
揺さぶられながら
日常を送る
時に挑みながら
時に縮こまりながら
特別な事などない
日々を暮らす人々
まるで嘘のように
事実に揉まれて
僕は僕、君は君
出会ったり、別れたり
そう
どこにでもいる
日々を暮らす人
2017.11.1.(同年3月にしたためたもの)
うん。
はじめる
なぜ?
わからない
とにかくはじまるんだ
よぼよぼとさまよい歩く
社会人のなりをして
放浪を続ける
夏が来て秋がきて冬が来て春が来て
季節が巡るように、僕も巡る
残酷な事だ、美しくなんかない
死体は朽ちていく
それを横目で眺めながら、季節は巡る
大地に根を張るなんて
出来やしない
みんな動物なんだもの
僕らは歩く、歩く
歌おうか
踊ろうか
命を粗末にしないように
命をけちけちしないように
動物らしくおろおろしながら
土を蹴って、さまよう
避けようのない事
どうしようもない事なんだ
....うん。
2021年にも少しだけ詩を書きました。↓
作風が変わった気もします。
2017〜2020年の詩・短歌・俳句
エッセイ
自己紹介の代わりに