
小説の滑稽さと切なさと②
先日、tomato_soup_Library さんの記事を紹介しつつ、ユーモラスな小説について書きましたが↓
tomato_soup_Libraryさんがさっそく、それをまた記事にして下さいました。感謝。
今回の note 上での交流は本当に愉快でした。
それでせっかくなので、前回の記事では触れなかった僕の好きなユーモラスな小説をもう少し紹介したいと思います。
① 「おお、大砲」司馬遼太郎
僕は司馬遼太郎の英雄譚的な小説がどちらかというと苦手で、歴史小説であれば、山本周五郎の方が好きなのですが、この小品で司馬遼太郎が描く幕末には、全くヒーローは出て来ず、時代の流れに巻き込まれる人々の悲哀がユーモラスに描かれています。なんともいい。
② 「牛」莫言
「牛」はノーベル賞作家・中国の莫言が文化大革命という激動の時代に暮らす人々を描いた作品です。
当たり前ではありますが、政治運動が吹き荒れた時代でも、人々はそればかりで生きていた訳ではない。
その嵐のような時代を生きる人々の逞しい生活を莫言は実にユーモラスに描いています。
岩波現代文庫で一緒に収められている同時代を描いた「築路」も名作です。
③ 「やし酒飲み」エイモス・チュッツオーラ
わたしは、十になった子供の頃から、やし酒飲みだった。わたしの生活は、やし酒を飲むこと以外にはすることのない毎日でした。
という冒頭で既に笑ってしまいます。
そんな大酒飲みの男が死んだやし酒造りの名人を呼び戻すために奇想天外な旅に出ます。
その神話を元にしていると思われる不思議な世界は、その源を知らなくても、十分楽しめるし、また恐ろしくもあります。
ナイジェリアの作家 エイモス・チュッツオーラ 1952年作。
滑稽で楽しいが、独特のリアリティがあり、沁みてくる小説である事は、前回紹介した作品群と同様です。全く内容は異なるけれども、どれも名作だと思います。
もちろん、ユーモラスなところのある作品だけが、名作という訳ではありません。
前の記事では、少しユーモラスな部分のある黒島伝治がシベリア出兵を描いた「渦巻ける烏の群」を紹介しましたが、日露戦争を描いた田山花袋の「一兵卒」などはユーモラスなところはなく、悲惨な事実が淡々と描れている逸品です。
田山花袋に於いては、少し滑稽味もある代表作「蒲団」よりも「一兵卒」の方が優れていると、僕は思います。
*引用文献
「やし酒のみ」エイモス・チュッツオーラ 土屋哲訳
岩波書店 2012.10.16. 第1刷発行、底本:「やし酒のみ」晶文社(1998年、晶文社クラッシック版)(晶文社初版は1970年)
原作: 「The Palm-Wine Drinkard - And His dead Palm-Wine Tapster In The Dead's Town」1952年

自己紹介の代わりに