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よみがえった韓国の伝統歌「公無渡河歌」Lee Sang-eun (Lee-Tzsche)


韓国の女性歌手 Lee-TzscheことLee Sang-eun(李 尙恩・이상은)の1995年のアルバム 「Gongmudohaga」(공무도하가 )(公無渡河歌) はとてもいい。

もともと韓国で人気アイドル歌手であった彼女は


その座を捨て、アメリカ、日本へと渡り、日本と韓国を行き来しながら活動を続け、このアルバムでは、どんな調べで歌われたか忘れらた韓国の伝統歌 "公無渡河歌"の詞に新たなメロディをつけて歌っています。(姜信子「日韓音楽ノート」*より)

このアルバムが出された前後、伝統的なものを現代の音楽の中でどう表現するかが、多くの音楽家にとって改めて課題に上がっていたように思えます。

社会主義圏の崩壊、

World Musicの隆盛

MaliSalif Keita「Amen」1991年


Finland のVärttinä (アルバム「Oi Dai」1991年)


新たな音楽・録音技術の発展が刺激となったのかもしれません。

Fugees (アルバム「The Score」1996年)


Ísland 
Björk (アルバム「Debut」1993年)


Robbie Robertson
 の「Contact from the Underworld of Redboy」(1998年)


Ireland
 の The Cranberries (アルバム「No Need to Argue」1994年)も


その流れの中にあったように感じます。


東アジアだと奄美大島の民謡の名手・元ちとせの「ハイヌミカゼ」(2002年) 


アイヌ
トンコリ奏者 OKI の「NO-ONE'S LAND」
(2002年)


津軽三味線奏者・上妻 宏光の「AGATSUMA」(2001年)」


「Comig Home」(1992年)で


北京出身である事を前面に押し出して[同時に中島みゆき、後にはアルバム「胡思亂想」 (1994年)で

The Cranberries の曲をカバーした]
香港・台湾で人気を博した王菲(王靖雯)・Faye Wong がとても印象的ですが
最近よく聴くのが、Lee-Tzscheのこのアルバムです。上にあげた"公無渡河歌"以外も名曲揃いです。アレンジも斬新でかっこいい。本当に素晴らしい。

Lee-Tzsche は英語でも積極的に歌い、英語の曲を中心とした選曲の「Asian Prescription」(1999年)を出しています。韓国の伝統を掘り起こし、創作をしながら、広くアジアを意識しています。

「Asian Prescription」のライナーノーツにはLee-Tzscheのこんな言葉が載っています。

 音楽は魂の食べ物となるもの、魂の空気となって息ができるようにしてくれるもの。それならば、音楽が漢方薬となって魂を元気にしてはくれないものかな。私たちは、そんなことを考えました。
 東洋の漢方は、病んでいる部分だけを治そうとする西洋の医療と違って、体と自然から採ってきた薬材との間の陰陽の気の流れのようなものをとても大切に考え、体全体の状態を良くしようとします。そこには人間も自然の一部だと考える哲学があります。これは、言うまでもなく、私たちアジアの人間にはおなじみの考え方ですが。
 このアルバムは、タイトルにもあるとおり、必要な薬材の名前を並べた「Prescription ー 処方箋 ー」にすぎません。いわば、設計図や地図のようなものです。この処方のなかには、以前のアルバムから採ってきたものもあります。たとえば、アルバム「公無渡河歌」からの数曲。これには鹿茸(ろくじょう:鹿の若角)の効能があります。また別のアルバムからはハーブとして絶対に必要だった「チョスンタル ー 三日月」、「A Path」のようなものも。

「Asian Prescription」Lee-Tzsche with Penguins 1999.3.25. 東芝EMI株式会社
Asian PerscriptionLee-Tzsche
1999.3.25. 東芝EMI株式会社


とてもユーモラスで、岡倉天心の「茶の本」を思わせます。
こんなふうに音楽をたらえると、先に上げたRobbie Robertson の「Contact from the Underworld of Redboy」なども、もしかしたら薬として聴く(効く?)ものなのかもしれないと思えてきます。

彼女のこのような試みは岡倉天心とともに夏目漱石の事を、僕に思い起こさせます。

岡倉天心は日本の伝統的美術・工芸家の育成に力を注ぎながら、東洋・日本について英語で本を書きました。

夏目漱石は、若き正岡子規(俳人)との交流から自身も俳句を詠み、イギリスに留学して英文学の影響を受けつつ、日本語で小説を書きながら、死ぬ寸前まで漢詩を書き続けました。


現在は韓国で活動を続けるLee Sang-eun (Lee-Tzsche)は長年に渡って、素晴らしい音楽を作り続けています。「Gongmudohaga」以降の彼女のアルバムでつまらないと思ったことは一度もありません。本当に素晴らしい歌手です。



Lee Sang-eun (Lee Tzsche) Live 映像



姜信子『日韓音楽ノート』1998.1.20.第一刷発行 
岩波書店


(この記事は以前 Instagram (philosophysflattail)に上げたものを手直ししたものです。)

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