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本屋のルネサンス
column vol.1148
私は読書をこよなく愛する人間なので、本屋に入ると1〜2時間ぐらい入り浸ってしまいます。
たくさんの本に囲まれて、何を読んだら良いかを夢想する。
まさに至福の時間……、オアシスです。
…一方…、そんな日常のオアシスが危機に直面しています。
出版科学研究所によると、1998年に約2万2000軒あった書店は毎年3〜5%のペースで減少し、2022年には約1万1500軒にまで半減。
さらに今年、出版文化産業振興財団の調査により、全国の自治体の約4分1に当たる456の市町村に書店がないという実態も明らかになりました…(汗)
最近では本の街、東京・阿佐ヶ谷でも書店の数は減っているようです。
〈NHK NEWS WEB / 2023年11月17日〉
一方、そうした逆風の中、本の魅力の伝道師として活躍している人たちも増えています。
いわゆる独立系書店が人気になっているのです。
「独立系」とは、大資本の傘下になく個性的な店舗を運営する形態。
その代表選手の一人が、東京・下北沢で「本屋B&B」を営む内沼晋太郎さんです。
〈JBpress / 2023年11月13日〉
〈JBpress / 2023年11月15日〉
下北沢といえば、芝居の街。
そんなこともあってか文化度の高い人たちから愛されています。
「面積が狭くても広い世界を見せたい」
内沼さんは店主でありながら「ブックコーディネーター」という肩書きを名乗っているのですが、それだけ「選書」に並々ならぬこだわりを持っていらっしゃいます。
普通の本屋は取次大手の自動配本を利用していることが多い。
一方、B&Bでは一冊一冊、内沼さんがこだわり抜いて仕入れているそうです。
その想いをこのように語っております。
面積が狭くても広い世界を見せたい。
自動配本を利用してしまうと、他の本屋と同じような本が揃ってしまう…
そうなると店舗面積の大きな方が、品揃えを豊富にできるわけで、さまざまな本を置くという意味で有利になります。
独立系の本屋は当然、店舗面積が限られていますが、選書にこだわれば「この本屋に来ると、他の本屋にはない新しい出会いがある」とお客さんに思ってもらうことができる。
そこに価値があるわけです。
私の中で独立系書店の存在は、「本屋は寄るところから、『行く場所』に変わった」という概念を与えてくれました。
単に本を買うだけならネットで充分。
視野を広げるために本屋に寄る。
でも、この時点では正直どこのお店でも良いわけです。
一方、B&Bのようなお店は「新しい世界との出会い」という期待感が強い。
私は妻と街歩きするのが好きなのですが、行き先を選ぶにあたっての目的地となるのが、グルメや美術館などになるわけですが、その中に独立系書店は入ります。
つまり目的地、行く場所になっている。
特に自分の頭の中がステレオタイプ化していると感じる時は、積極的に訪れるようにしています。
売り上げは「掛け算」でつくる
…とはいえ、独立系書店が生き残ることは簡単ではありません。
そこで、内沼さんはJBpressの記事の中で、2つの秘策を紹介しています。
そのうちの1つが「掛け算」です。
これは、本の販売の他、さまざまな商売を組み合わせるということ。
収益の多角化を図るわけです。
相次ぐ書店閉店の背景の一つには、新刊書店のビジネスモデルの難しさがあります。
本の問屋に当たる取次から返品可能な委託販売という形で仕入れる場合、本の売価のうち書店に残る粗利は20%前半であることが多く
そこから家賃や光熱費、人件費を払わないといけないので、なかなか厳しいものがあります…
ですから、多くの書店がこだわりの選書ができる専門性の高いスタッフを揃えるのではなく、自動配本を利用してアルバイトでも回せる店舗にし、ローコストオペレーションにシフトしているワケです。
一方、B&Bは本(Book)とビール(Beer)のお店。
美味しいビールが楽しめることも魅力の1つなのです。
また、平日は毎晩、週末は昼夜2回、有料イベント(1500円)を行っているのですが、こちらも人気のコンテンツです。
こうして、さまざまなコンテンツを組み合わせて収益を得る。
皆さんもよくカフェや雑貨を取り入れる店舗はよく見かけると思います。
一方、これらの店舗はコモディティ化しており、今後は特徴を出すためにも
これまで自分自身がやってきたこと、得意なことと掛け算をする形でもいいし、本業に本屋を取り込むという形でもいい
と、内沼さんはアドバイスしています。
実際、広島県庄原市にある書店「ウィー東城店」は書店に化粧品売り場や美容室、コインランドリーまで併設し、地域の人々が集まる場所になっているとのこと。
今後、「本×○○○」という掛け算の中に、よりユニークな組み合わせが生まれてくるでしょう。
「ダウンサイジング」志向がカギ
それからもう1つが「ダウンサイジング」です。
書店経営で2 大コストは家賃と人件費。
ここをどう抑えていくのかがカギとなります。
B&Bでは、このような工夫をしているそうです。
自分と家族だけで運営して人件費がかからないようにする、その代わり営業時間を短くして持続可能な体制にする。家賃は持ち家なら自宅の一角を本屋に改造する。物件を借りるなら一等地を避け、わざわざ来てもらえるような店にする。
加えて、先ほどの「本業に取り込む」という形である今の仕事をやめずに副業や週末起業として始めることもオススメしています。
クリエイターの人は、本業と本屋の両輪を仕事にしやすい職業だと思いますので、こうした形もあるのかもしれません。
他にも、内沼さんは『これからの本屋読本』など本屋を開きたい人のために本を執筆し、講座を開き、X(旧Twitte)で相談に乗っています。
(Xのアカウントは@numabooks)
また、さまざまな地域のブックイベントに参加されており、今月22日に愛知県名古屋市熱田区にある「TOUTEN BOOKSTORE」にて3年ぶりにトークイベントを行うとのこと。
〈読売新聞 / 2023年11月15日〉
本が好きな人、本屋を営む人たちの希望の星となっています。
そんな内沼さんを通して、本屋のみならず、「シュリンクする業界にいる…」と悩んでいる方々にも、「努力次第で光を見出せる」という勇気が広がるのではないかと考え、本日記事にさせていただきました。
一方で、その努力は「その業界が好きだから」という熱量があってこそでしょうから、やはり「働くことに対するパーパス」が求められていると改めて感じています。
「パーパス」と「試行錯誤」、そして「諦めない気持ち」。
そんなことを学べた本日の事例記事でした。