立川がじら

落語家。

立川がじら

落語家。

最近の記事

小説・落語『死神』①

 その男、絶望につき。すべてを失っていた。絶望とは希望の絶えたことであり、望はもう何方にも進むことなく道は塞がった。八方塞がりとはこのことであるが、八方に限らず絶たれた線は魔城に潜む蜘蛛の巣のように延びていき、見事な円となった。かれの糸は何処にも繋がることなく、とらわれた男は、完結した。  もともと望まずして生まれた命である。生まれる前に望むことは出来ないのだから仕様がない。生まれてしまったからには、これを絶つのである。つまるところ、これは金だった。金がないのは首がないのと同

    • 9/25 ラジオに出演しました。

      9月25日放送されましたNHKラジオ第一「NEXT名人寄席」に出演いたしました。 なぜ出演のオファーを頂いたのかもよくわからないのですが、関係の方に深く感謝申し上げます。 新作落語をやりましたが、演目を決めるにあたりディレクターさんとやり取りし、候補を10本近く出して検討して頂き、結果『世界の終わり』という題でやっている噺を申し上げることになりました。 『世界の終わり』はちょっと特殊な構造を用いていて、全く面白みを感じない人もいるだろうとも思います。ひとつの限界の例です。

      • パソコン変えたよ

        ずっと使っていたノートパソコンのバッテリーが蓄電不能になってしまい、常にアダプタにつないでいないと動かないようになってしまった。動作も遅く何かと不便なので、これは買い替え時とみて遂に新しいのを買うことにしました。 初めてパソコンに触った時からOSといえばウィンドウズで、アート的なことを一切しない自分にはマックOSは縁遠いものと思ってましたが、去年出たM1チップ(よくわからない)が物凄く良くしかも廉価だということを聞いて、これは検討してみて良いかと俄然興味が出てきました。

        • 8/12 三十七回忌 御巣鷹の尾根のこと

          2021年の8月12日は、1985年日航機123便の墜落事故から丸三十六年という年月を経た日付であり、そこでお亡くなりになった方々をお弔いする法要としては、三十七回忌にあたります。 通常、故人の法要は三十三回忌が“弔い上げ”とされていて、そこでもって法要に区切りをつけることが一般的らしいです。なのでその四年後にあっては、ご親族のみによるごく形式的なものになるということを伺っています。 この、悲劇でしかない出来事にあえて言及させて頂く理由があるとすれば、僕が現場となった地であ

        小説・落語『死神』①

          8/11 圓朝忌 落語と怪談

          八月十一日は圓朝忌にあたります。 わたしのいる業界の大人物であります、三遊亭圓朝師匠のご命日です。“大圓朝”と称される、近代落語にとっての最重要人物であります。 圓朝師匠の功績については、皆さまよく調べて頂きたいのでありますが、ある程度完成したストーリーを個人で扱う業種に属している以上、その偉大さと仕事量には、つねに畏敬の念が絶えない存在です。 悲しいかなわたしたちは、記録媒体に残されている限りでしか先人の業績に接するしかできません。伝聞や伝説については、伝えられたエクリチ

          8/11 圓朝忌 落語と怪談

          8/10 オリンピック終わってた

          オリンピックが終わっていたけど、この期間はテレビを見ておらず情報を得るのがもっぱらTwitterだったために、五輪の印象は「話の長いドイツのおじさん」や「突然おじさんに噛まれた金メダル」になってしまった。要は、大事なところがおじさんになってしまった。 名古屋市長のあの映像は、サメ映画を見ているときの「そんな!」と同じ感情で受け取って、なんかB級事件で、名古屋という地域性とは関係なく日本の東西都市の中間で起きたというのがどうも残念な感じがして。 名古屋という都市が好きで、む

          8/10 オリンピック終わってた

          5/4 春のうちにもう来ないかもしれない春のこと

          五月に入って数日経過したのでありますが、今年のゴールデンウィークは例年とは違っております。外出の自粛が要請されて飲食もままならず、とても黄金【ゴールデン】というわけにはいかない。今年のゴールデンは、イミテーション・ゴールドです。嗚呼、嗚呼、嗚呼、イミテーションゴールド。 桜の季節はもう終わっておりますが、また次の春が訪れるとは限らない。これが最後の桜になるかもしれない。そんな想いにとらわれる人はきっと年齢の如何に関わらずいるようで、私自身もその念と無縁ではありません。 春は

          5/4 春のうちにもう来ないかもしれない春のこと

          5/3 「噺家は世情のあらで飯を食い」を再起動する

          とにかく仕事が入らず、歴史上最大の不況です。この期間は生命維持に費やし来るべき時に向けて上質な睡眠をとるのもひとつの方策ですが、やはり今しかできない面白そうなことを考えてしまうのが芸人の性であります。 しかしそれは今即座にお金になるものではないので、当座のところはどうしましょうという状況は変わらないのです。 それでもまあ、生物として生きていくための不要不急のもの(!)を除けば、水を飲んでいくらかの栄養を摂取していけばこの世に存在していくことは可能です。ご飯を食べること、これ

          5/3 「噺家は世情のあらで飯を食い」を再起動する

          5/2 忌野清志郎・十三回忌・日本語ロック

          仏教のルールで、まだ生きてる者の心性にとても合っているなと思うのは、年忌があることで、1・3・7・13…とそれぞれに意味のある数ごとにその人を思い出すことを促す。この間隔がちょうどよく(個人差はあります)て、17・23・25・27・33…50と続いていくらしいです。 二十三回忌~二十七回忌の畳み掛けるところなど非常にエモーショナルですね。三十三回忌なんてのはメジャーですが、周りの縁のある方々が直接参加できる最後の機会になるからかもしれません。 五月二日は忌野清志郎の十三回忌

          5/2 忌野清志郎・十三回忌・日本語ロック

          5/1 落語動画の基礎知識

          5月に入って、落語界は停止状態に入りました。これは都内に四件ある寄席の定席が営業を休止することになったためで、公共のホールなども休業に入り見かけ上の生の落語の高座が消えたようであります。目に見えぬ微小な敵との間の勝負が続くなか、効果のほどを今(おそらくこの後になってもそうかもしれない)確認することはできず、沈黙をもって時間と空間を埋める日々へ。 代わりに無観客での高座を動画にて配信するという方法が確立しつつあり、これはあくまでも臨時の代替手段でしかないのだと誰もが了解してい

          5/1 落語動画の基礎知識

          4/27 ほどのよく

          久しぶりに落語会があって、途中休憩を5分ほど挟んで独りで100分近くしゃべり続けた。お席亭に場を用意していただいたわけで、高座の機会の減っている昨今ではとても有り難いことでした。しかし舞台用の大き目の声で喋る頻度が極端に減ったからか、以前よりも喉が気になってしまう。身体の部位は好調であるときは意識に登らず不調のときにこそ意識されるように、です。 ある意味では発声のみで成立しているこのパフォーマンスにあっては、喉の状態がすべてともいえてしまう。もちろん(もちろん、とことわるのは

          4/27 ほどのよく

          4/21note

          一か月後に誕生日を迎えるので、そのときに何か所信めいたものを述べようと思っているのですが、どうせなら一ヶ月くらいかけて書こうと思って久しぶりにnoteを開いてみました。 今まで人生において日記というものが続いたことがなく、成人して以降に日記帳を買うことがあっても中途半端にしか続かなかった。それが、2021年元旦から記し始めた今年の日記は今日まで100日以上続いている。これにはやはり昨今の社会事情が影響しているのだろうけど、以前は仕事がない日は日記に書くことがなかった。ところが

          毎日マクラ「へ」☆へ☆

          平仮名の中でいちばん力が抜けるのって、これはもう圧倒的にナンバーワンだと思うんですが、絶対に「へ」ですよね。 「へ」って口にした瞬間に、ヘナヘナと力が抜けていく感じ、なんなんでしょうね。 まず形からして、力とか熱が入ってないじゃないですか。 棒を一本横に引いただけの状態から、こう、真ん中へんで折ってるわけですよね。一気に右肩下がりに落ちていくんですよ。 同じ棒一本系の平仮名でも、「く」はカ行の強さが隠し切れないですし、追い詰められたときでもこう、「クッ…」って噛みしめる

          毎日マクラ「へ」☆へ☆

          毎日マクラ「ふ」☆不織布☆

          もうマスクしてるのが当たり前になってきましたね。マスクしてないと不安になるというか、でも私なんかだと、外に出てマスクをしてないおじさんを見ると一周回って安心してしまうというところがありますよ。 国会なんか皆マスクしちゃってますね、表情が読めなくてどことなく不気味なんですよね。なんだか仮面舞踏会みたいな(笑)隠すところが逆ですけども。 議論が難しくなったりしてるのかなって思います。 このマスクをめぐって、世界中が揺れましたよね。 初めのほうは、マスクしても意味ないなんて情

          毎日マクラ「ふ」☆不織布☆

          毎日マクラ「ひ」☆ひとり☆

          いちばん好きな人数って、やっぱり、ひとりですね。ネガティブにいわれることが多いですけども。 孤独って言葉があって、まあこれは自由だと思うんですけど、この言葉には物凄くネガティブな言葉が続くんで、死をつけると孤独死になりますね。 ナントカ死って言葉がいくつかありますけど、大抵は死に方を指しますよね。転落死とか墜落死とか、滑落死とかがありますけど、孤独死っていうのは死因でなく、死んだときの状態ですね。孤独だろうがなんだろうが、勝手でしょって思いますが(笑) これだと、孤独が死

          毎日マクラ「ひ」☆ひとり☆

          毎日マクラ「は」☆花火☆

          言葉のね、順序を入れ替えると意味が完全に変わっちゃうって単語ありますよね。 流行りの言葉だと“ステイホーム”、ね、家から出ちゃいけない。これを逆にすると、“ホームステイ”。海外に渡航しちゃう! 意味が逆転しちゃいますけど。 やっぱりダイナミックなものだと、花火。暗い空に、ドーンと広がるのは壮大なスケールですけど、これをひっくり返すと、火花。とたんにスケールが落ちますね。パチッてなってすぐ消えちゃう。冬にドア開けようとして、アッて、静電気がくるみたいな。なんだこれ!って腹立つ

          毎日マクラ「は」☆花火☆