睡眠ゲーム
脳みその中にマトリョーシカみたいに何重もの部屋がある。部屋の中に、部屋があって、その部屋のドアを開くとその中にまた一回り小さい部屋がある。
目を閉じると、一番外側の部屋のドアが閉まる。私は一つ内側の部屋に入る。もう少しじっとして、世界の音を耳から遠ざけると、その部屋のドアも閉まる。気づくと私はさらに一つ内側の小部屋にいる。目は暗闇になじんで、呼吸に集中するようになって、またもや小部屋のドアが閉まる。入った内側の部屋はもはや物置部屋くらいに狭い。あともう少し。
3日間くらい上手く寝付くことに成功してないから、脳みそのど真ん中を上下に貫く太い神経は傷だらけで、緊急時を知らせるように真っ赤に光っている。物置部屋の私にも聞こえるサイレン。今日こそはあと二つのドアを突破し、マトリョーシカの一番若い子孫、トイレの個室くらい小さな部屋の中央で赤く光るあの神経までたどり着き、傷を治療してやらなければならない。できることなら、治療した後、その部屋で放映される、夢という映画もみておきたい。映画の内容は日替わりだし。
今の私は、表面上は寝ているがもし名前を呼ばれればはきはきと答えることができてしまう状況にいる。さあ、意識を飛ばそう。理性を空高く放り投げていざ、次の部屋へと続くドアに手をかけた瞬間のことだった。分厚い画用紙の紙飛行機が体当たりしてきた。嫌な予感。開いてみると、中には鉛筆で一言、「Tik Tokがみたい。」と。
とんでもない。右手で紙飛行機をぐしゃぐしゃに丸めて、ふと左手を見ると、ブルーライトとガチャガチャした音楽が飛び込んできた。しまったと思ったがもう遅い。閉めてきたドアは一斉に開き、私はあっという間に今の部屋から追い出され、ふりだしの、広い一番外側の部屋へと送り返されてしまった。
こんなことならセーブしておけばよかった。スーパーマリオブラザーズのあの赤色の旗を、立てておくべきだった。もう一度プレーする気にもなれず、気休め程度に睡眠改善薬というアイテムをぶちこんで、冷蔵庫の中とか見ていたら、外は明るくなっていた。タイムリミット。ゲームオーバー。大爆発。
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