私が勢いで全寮制高校の先生になった結果(採用編)③
女子生徒の見事な演技と持ち前の何も考えなさと無鉄砲さで、無事採用試験を最後まで受験してしまった私。そんな私に、神様が学校勤務を引き留めているかのような出来事が訪れるが、果たして私は内定辞退を決意できるのか!?(皆様ご存知のように出来ていません。)
これは、落ちこぼれ大学生の私が経験した少し変わった教員生活記録である。
⑤来ない内定通知書
試験当日に学校長の口から「君は内定だよ。」と言われてから、一週間、二週間と時間が経った。その間、学校からの電話やメールなどの連絡は何一つ無かった。勿論、内定を伝える通知書さえも私の手元に来ることはなく、何日経っても全くもって内定が取れたという自覚もなく過ごす羽目になったのである。
試験から二週間を過ぎた頃、先にしびれを切らしたのは母だった。
「この前受けた学校はどうなったん?受かったんじゃないの?」
母には面接で内定と言われたことを説明していたが、教育機関が即日採用などと言うはずがないと信用していなかったのである。(ママ、言うこと聞かなくてごめんなさい。)
「内定だって確かに言ってもらえたよ。」私は少し苛立ちながら、荒々しく答えた。確かに、面接で内定と聞いている。しかし、それは確たる証拠がなければ到底信頼に足るものではない。母が私の言葉に不信感を抱き心配していることは理解していたが、若い心には『母に自分が嘘をついていると思われている』こと自体が受け入れ難いものであった。
「それなら、なんで内定通知書の一つも来てないの?普通はそういう書類がくるってテレビで観たんだけど?お母さん見せてもらってないよね?本当に来てないなら一回学校に電話しなさい。こういう時は自分から動けないと。」
母の声色は、私の反抗的な態度を受けて明らかに硬くなっていく。こうなると母は烈火のごとく怒り続ける。このままでは、私が目の前で学校に連絡を取るまで怒鳴り続けかねない。21年間の経験を元にそんな想定をした私だが、私も母の子だ。母の責めるような口調と音沙汰のない学校に無性に腹が立ち、母を振り切って用事もない大学へと逃げ込むや否や学内にいた友人と飲みに繰り出したのだった。
「それさ、一回その学校に電話しなよ。二週間も経つんだし、通知書位とっくにできてるんじゃない?」
愚痴交じりで理論的でない説明を一頻り聞いた友人は、ため息混じりにそう言った。なるほど至ってまともなアドバイスである。母と全く同じことを言われたが、友人の話はすんなり聞けてしまう。子の心理とはいつでも勝手なものなのだ。
こうして私はようやく重い腰を上げて、学校へ連絡を取ることにしたのである。
翌日、早速学校へと電話をしてみることにした。思わず緊張が走る。今更だが内定は自分の聞き間違えだったのではないかという考えがコール音の度にぐるぐる頭を駆け巡った。
電話口に出たのは落ち着いた声の女性であった。私は、早速名前を名乗り、採用試験の結果が届いていない旨を伝えたところ、その女性は驚いた様子で話し始めた。
「内定出てますよ。学校長からも採用試験の際にお伝えしましたし、書類は送っているはずですが。」
おかしい。確かに書類は送られていない。現に手元にないのだ。私は、女性にもう一度確認してもらうように頼み込んだ。女性は数分間かなり渋った様子であったが、何とか一週間以内に電話連絡がもらえる約束を取り付け電話を終えた。
一週間後、電話が掛かってくることはなかったが一通の封筒が学校から届いた。消印は二日前、中身は内定通知書と内定者説明会の案内、そして『担当者が送るの忘れてましたごめんね!』というような文章が書かれた小さなメモ用紙であった。
一般の方ならここで内定を辞退するのだろうか。友人も母もこの出来事により、学校へ不信感を持ったのだそうだ。
しかし、私はこの時内定を辞退する事も考えなかった。内定を辞退すれば、もう一度就職活動を始めなければならない。その上、学校の求人はほとんど終了している時期であり、内定辞退は則ち教員への道を諦めるということだったのである。通知書のこともヒューマンエラーはどんな職種でも存在するからという滅茶苦茶な理屈で自分を納得させてしまったのである。
教員編①に続く
あとがき
この学校の対応は、恐らくブラック企業の見分け方としてよく知られる特徴と一致しているのではないでしょうか。一般企業であれば、必要な書類が二週間届かない、問い合わせにおいて約束した電話連絡が期日に来ないなどと言うことは非常識な行動ですよね??
実際にこのような状況であったのにも関わらず、目の前のことしか見ていない私は自分に都合の悪い事実は見ないフリして就職先を決めてしまったのです。
また、今でも治すように気を付けている事なんですが、私は非常に視野が狭い人間です。他にも学校はたくさんありますし、最初の数年は常勤講師に登録して採用試験の勉強することだって出来たはずなのに、この時は何故か正規で採用されることに固執していました。
実際に当時連絡を取っていた学生時代の恩師には、常勤講師として働くことを勧められていましたし、本来はその方が教員としての勉強も覚悟も持って職務に迎えていたんだと思います。
さて、ここまで採用試験編として色々書いてきましたが、やっと次回から教員編に入ることが出来ます。教員編は、楽しいエピソードから暗いエピソード、実際に起こった心霊騒動なんかについても番外編書いていこうと思っています!(実は内定通知書事件の後、内定者説明会の案内が卒業間近まで来なかった事件などもありましたが面白くないので割愛します☆)
本筋に関しては、暗いし私自身も思い出すのに体力が要るので、ゆっくり書き上げていきたいですね。
ここまでお読みいただきまして、誠にありがとうございました!
よろしければ次回も遊びにいらしてください!!