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玉響
2020年10月17日 23:46
「私、金木犀の香りって嗅いだことないや。」何気なく言ったら、友人がビビり倒した。「24年生きてきて、金木犀の香りを知らないの!?」その剣幕に私の方こそビビった。彼女の手には、期間限定のパフューム、「キンモクセイ」が握られていた。大人気で、発売と同時にすぐ完売した香りなんだそうだ。ほら、と、お気に入りの香水をシュッと空気に吹きかけて、私に香らせてくれる。「わぁ、甘〜い」彼女はやれやれ、
2020年9月1日 19:48
休日、私は地下のスターバックスで、アイスのスターバックスラテを飲んでいた。そこで、唐突に死の恐怖に襲われた。その時、私はairpodsでビルボードチャートを聴きながら、よくありがちな自己啓発本を読んでいた。「残された人生をどのように生きるか」みたいな話が長々と書かれていて、なんだかどうでも良くなって、ふと周りを見た瞬間、その恐怖がやって来た。残された人生で何をすべきか?でもいつか死んでしま
2020年9月11日 16:12
「私は無花果を愛している」などと言うけれど、愛ってなんでしょうか。ふとした時に無花果を食べたいな、と思うことでしょうか。スーパーで無花果を見かけては、美味しそう、可愛いと褒めそやすことでしょうか。無花果のケーキやら香水やらがあった時に、無意識に惹かれることでしょうか。それとも、無花果を丁寧に料理して、あるいは無花果酒みたいに手間暇かけて、美味しくいただくことでしょうか。私はある本を読んで、
2020年9月1日 00:10
8月と9月の境目、例のごとく寝付けない夜、私はプラムのケーキを作り始める。くすんだ深いプラム色、ついついこの色の口紅を買って集めてしまうくらいには好きな色だ。だがプラム自体は、それほど食べたこともない、馴染みのない果物だった。一年中ある果物ではないからということを差し引いても、人生で数える程度しか食べたことがない。どこか渋みもあり、桃やら無花果に比べると圧倒的に酸っぱいから、意図的に選んでこな
2020年8月23日 20:53
なんだか寝付けない夜は、決まって夜更けまでキッチンに篭るのが、私の常だ。1週間前の夜中もそうだった。生あたたかい夏の夜、ぼんやりと、ああまたこの日かと動揺も無く、私は早々にタオルケットを引き剥がした。冷蔵庫の上には、レモンが4つ転がっていた。ころんとしたそのフォルム、かたくてしっかりとした皮、熱気で靄がかった気分をはっとさせてくれるようなビビッドイエローに惹かれて、その日の昼間に購入した。
2020年8月3日 21:33
4日前、アンティークピンクの薔薇を、いつものスーパーの片隅で見つけた。色もはっとするくらい美しかったが特に素晴らしかったのはその香りだ。あまりに甘くてくらっとしてしまう香りだった。私は一瞬で心を奪われて、二束、衝動買いをした。 今朝、その香りはもうしなかった。暑さからか色もくすんで、しなっと萎んでいた。私は冷たい水を差しながら、もう生花は買わないだろうと思った。せめてあの香りの香水があればいい
2020年8月14日 21:41
「食べられないもの、ある?」「パクチー」私は即答して、匂いがだめです、と付け足した。「貴方は?」「俺は、トマト」彼は即答して、なんでだめかは分からない、と笑った。そうか、なんでだめかは分からないのか。私も、トマトが好きではないが、好きではない理由はなんとなく分かる。ぶちゅっとした触感、トロっとした中身、酸味、後味。幼いころから、ミートソースやケチャップは大好きなのに、野菜のトマトはその