重力‐01 「歩く」と重力
私たちは地球の上で生活しています。ですから、今ある私たちの身体は「地球上という大いなる前提」の上に進化してきました。地球による人体への影響が「重力」です。ですから運動には必ず重力との関係が存在します。
たとえば「歩く」という運動。
これを3次元的にとらえてみると――右足が空中を移動していちばん前まで行き、地面に接地した瞬間、「右足と左足の間の距離」は最大になります。
この時、私たちの骨盤はいちばん低い位置にきます。次に、左足が地面を離れ、右足を追い抜く瞬間、骨盤は最高点に位置します。そして今度は左足が空中を移動し、いちばん前まで行った時には、先ほどと同様、「左足と右足の間の距離」は最大になり、骨盤は最下点に。右足が左足を追い抜く瞬間には骨盤は最高点に位置します。
私たちは「前」に向かって歩いていても上下運動、つまり「骨盤が重力方向に落ちては、反重力方向に上がる」を繰り返しています。骨盤の上下運動に合わせて、頭部も上下に動きますから、眼を通じて入力される進行方向の景色は微妙に上下します。
これらのことからも(別段意識しなければ)「水平方向の運動」と思ってしまいがちな「歩く」という動きには、「垂直方向の運動」が含まれていることがわかると思います。
つまり「歩く」とは、「重力を利用しながら進行方向と垂直方向に上手に身体を動かす」ということなのです。
これ、言われてみればその通りであり、多くの人たちがそれを自然にやってしまっているわけですが、「自然にやってしまっている」ということは「意識化できていない」ということでもありますから、それを意識的に取り出して行えば、パフォーマンス全体が向上する可能性があるということです。
というわけで早速、重力を意識しやすいように、次の実験をしてみましょう。
A:普段の歩幅で歩いてみる。視線は真っ直ぐ、水平方向に保ち、進行方向の景色を記憶する。
B:普段の1・5~2倍の広い歩幅で歩いてみる。視線は真っ直ぐ、水平方向に保ち、進行方向の景色を記憶する。
AとB、進行方向の景色の上下方向の動きの大きさはどうだったでしょうか?
これはBの方が大きくなったと思います。普段の歩幅で歩くと、当たり前すぎて、なかなか垂直方向の要素を実感しにくいものですが、歩幅を変えることで、「歩く」という運動の中の「重力」を自覚しやすくなります。
・歩くを知る。動くが変わる。