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ドイツのサッカークラブはなぜ潰れないのか?|100年続く経営のからくり(4379文字)
今日も今日とて読書感想文を書く。
感想
本書は、多くの人に「会計」という学問に興味をもってもらうために作られた本で、そのためにありとあらゆる工夫が施されていた。
「会計学」というとっかかりにくそうなイメージのある学問にどうしたら興味をもってもらえるか?と著者や編集者がとにかくたくさん考えて作られた1冊であることを感じた。
興味のない人に興味を持ってもらうというのは容易なことではない。興味のない人の気持ちになって、そこに寄り添った設計が必要である。
僕は簿記3級の勉強を自ら進んでやり遂げた経験があるくらい「会計学」に関してはそもそも興味があった側の人間だったので、そういった本書の設計に関して学ぶことが多かった。
身近な例を持ち出して、「言われてみれば気になるな」という小さな問いに対して、会計学を用いたアプローチ、それも専門用語などを極力使わずにできるだけ簡単に解説することによって、会計学の魅力を存分に伝えることに成功。結果、累計発行部数165万部を超えるベストセラーとなっている。
会計における考え方が人生にどのように活きるのか、その本質まで書かれており、気づいたら3時間ほどで一気に読み終えていた。
学び
何者でもない僕のnoteをこれからたくさんの人に届けていくためには、
・興味のない人のアテンションをどのように引くか
・読みやすく面白い文章を書けるか
当たり前だが、この2つが重要だと感じた。ここのあたりを意識しながら、文章を設計し、執筆していきたいなと思う。
その他にも、連結経営の考え方はサッカー選手にとって特に役に立つ考え方だし、経営会計上では機会損失をマイナス計上するというのも参考になる考え方だなと感じた。
会計は数字を通して、物事の本質を見極めたり、人生で役に立つ考え方を学べたりするので、ぜひ読んでほしい一冊としておすすめしておく。今ならKindle Unlimitedで読めるのでぜひ。
ドイツ5部アマチュアサッカークラブのからくり
また、本書での考え方を参考に、僕が現在所属しているサッカーチーム(ドイツ5部)の規模を具体的な数字を用いてざっくり推測で計算してみた。(これを「フェルミ推定」という)
ドイツアマチュアサッカークラブの経営やビジネスモデルを解明していく。
年間6000万円の支出
まず、支出から計算していく。
選手一人当たりの給料のだいたいの目安があり、それに選手の人数を掛け算すると、おおよその人件費がわかる。
計算結果は、
年間1200万円。
選手以外にもスタッフがいたりするので、プラスアルファを考えてざっくりとした人件費は年間で1500万円といったところだろうか。(ここから逆に選手一人当たりの給料を計算するのはやめてください笑)
もちろん人件費だけでなく、設備やグラウンドの管理費、支給する練習着、アウェの試合の貸切バスの手配、キャンプでの費用など他にも支出はあるので、ざっと人件費の3〜4倍くらいはかかるだろうか。
となると、約6000万円。
以上が支出のおおよその金額。
これは裏を返せば、最低でも年間で6000万円以上の収入源がないと成り立たないということを示している。(故に6000万円が損益分岐点と推測できる。)
では次にその収入源を見ていこう。
主な収入源と赤字
主な収入源として考えらえるのはスポンサー収入だが、この額に関しては全く検討もつかないので、一旦保留。
他に考えられる収入源としては、観客からの入場料。
入場料は、「1試合当たりの入場料×1試合当たりの平均観客数×ホームでの年間試合数」で求められるので、計算するとだいたい年間で650万円の収入がありそうだ。そして、これには原価がないので、まるまる利益になる。
ここで、仮にスポンサー収入の額を3000万円としても「6000万円-3000万円-650万円」で「-2350万円」。まだ赤字だ。
僕のクラブは1919年に創設され、近くにある5つのクラブを併合しながら大きくなってきたクラブで、100年以上の歴史がある。これだけ長い間存続しているということは、間違いなく最低でも利益が出ているということだ。
だとしたら、なにかしらこの「-2350万円」の赤字を補うだけの収入源があるはずだ。それもかなり大きな。
その正体は何か。
100年以上サッカークラブが存続できる経営のからくり
間違いなく「ビール」だ。
ドイツのサッカークラブは規模に限らず、必ず自前のサッカーグラウンドを持っている。アマチュアクラブであっても天然芝、人工芝、土などで3面のサッカーグラウンドを持っているのが普通だ。
そんなグラウンドには必ずクラブハウスがあり、選手のロッカールームやミーティングルームなどが備えられている。
クラブハウスに加えて、グラウンドに必ずあるものがもう一つある。
それがバーだ。
お酒を頼んで飲めるバーが必ず併設している。
これが「-2350万円」を補う収入源の正体だ。
お酒は利益率が高い商品として有名である。ビール大国のドイツでは、水よりも安くビールが飲める場面もある。
それに加えて、ドイツ人の年間ビール消費量は世界第3位だ。つまり、利益率の高い商品が飛ぶように売れる国なのである。
〇〇大国のドイツとサッカーの相性
例えばバーでビールを頼んだら、500mlのグラスに注がれて出てくる。一杯5€(700円)だ。スーパーでビールを買えば、一杯1€(140円)もしない値段で飲めたりする。つまり、利益率は80%で、ビール1杯につき560円が利益になる。
「2350万円」を560円で割ってみると、42000杯。つまり、ビールを年間で42000杯売ればいいことがわかる。
これを365日で割ると、115杯。つまり、1日平均で115杯ビールを売る必要がある。1週間で805杯。
例えば、試合がホームで行われた際、観客はざっと300人くらいくる。僕の肌感覚だが、そのうちの7割はビールを1杯は飲んでいる。さらにそのうちの5割は2杯以上、3割は3杯以上飲んでいる。
これをざっと計算すると、378杯だ。日本人の感覚だと想像できないかもしれないが、もっと飲む人がたくさんいる。なので378杯というのは、かなり甘く見積もった数字で、実際にはシナプスなどの少量でアルコール濃度高めのお酒も含めればざっと500杯くらいは売れるだろう。
試合に観戦に来た客は、ビールやソーセージを片手に試合を楽しむ文化がある。選手も試合後はビールを飲んだり、バーで飲んだり食べたりしながらブンデスリーガを見て過ごしたりするのが日常茶飯事だ。
練習後にバーで食事をしたり、ブンデスリーガの試合を見たりするが、それ以外にも僕らだけでなく、地元のおじいちゃんたちがおしゃべりしながらビールを飲んで長居している光景も多々目にする。
残りの300杯は残りの6日で売ればいいと考えると、季節やイベントごとにもよるが、それほど難しい数字ではなさそうだ。
概算で出した想像に過ぎないが、こうして2000万円以上の利益をお酒で出していて、それがクラブの経営を支えていると考えるとかなりすごい。さすがビール大国。
こうして、サッカーとビールの抜群の相性がサッカークラブを支えているからくりなのである。(本書にも紹介されていた高級フランス料理店の例に少し似ているだろうか。)
もちろん、これだけがすべてではないだろうが、カテゴリーや規模が違えど、ドイツのアマチュアサッカークラブのおおよそのからくりはこのようにできている。
(余談)
さらに、このバーで働いているのはいつもだいたい2人(アリーナっていう女性とクラウスっていう男性)、多い時でもせいぜい3人だ。2000万円以上の利益をこの数人で出している。人件費という面でもすごい。
すべてを現金で取引する3つの理由
加えてもう一つ。
入場料にしても、お酒代にしても、選手の給料にしても、すべて「現金」で取引が行われている。2022年も終わりに近づき、日本では考えられないかもしれないが、クレジットカードでの支払いなどできない。
ここにもなにか理由があるのだろう。
考えられる理由としては、
・クレジットカードの決済手数料がかからない
・足跡がつかない
・資金繰りがショートしにくい
だ。
・クレジットカードの決済手数料がかからない
クレジットカードでの決済を導入すると、店舗側は手数料として売上から2〜5%くらいの手数料を払わないといけない。これは売上が2〜5%減ってしまうのに等しく、仮に2000万円を売上た場合、40〜100万円が手数料として引かれてしまう。数%の手数料だが、この金額は大きな痛手になる。
・足跡がつかない
現金は、クレジットカードや電子決済と違って、取引の記録(足跡)がつかない。悪いことをしているわけではないだろうが、なにかとうまく誤魔化せるのが現金の良いところである。
ドイツのアマチュアサッカー界においてクラブが選手に対して給料を支払うことは良しとされておらず、グレーな文化なのだ。だから、僕も給料を銀行振込ではなく、封筒に現金でもらっていたりする。この給料はもちろん所得としてみなされず、課税もされない。ちなみにこの文化はドイツ全土で暗黙の了解として広まっている。
※プロクラブに対する目は全く異なり、かなり経営に厳しく、経営状態が悪いとカテゴリーを降格させられることが多々ある。
・資金繰りがショートしにくい
売り上げと同時に代金をもらうことができる業種は、個人向けの小売店・サービス産業だけだと思ったほうがいい。これは「現金商売」と呼ばれる業種で、他の多くの業種からはうらやましがられている商売である。(中略)小売業は資金ショートの危険性の少ない業種なのである。
本書にも書かれていたが、現金が手元にあるというのはかなり好ましい状態だ。経営においては、借金があることよりも、現金がないことの方が遥かに苦しい。
最後に
日本では文化との相性か、こうしたビジネスモデルの形成が難しく、会費を払わないとサッカーができなかったり、ユニフォームや練習着一式を揃えるのにお金がさらにかかるのが現状だ。
それに比べてドイツでは、こうしたビジネスモデルのおかげで、僕らサッカー選手は給料をもらい、素晴らしい環境でサッカーをすることができている。
本書で解き明かされている、売れているところを見たことがない「さおだけ屋」のからくり、お客さんがいるところを見たことがない「高級フランス料理店」のからくりを筆頭に、たくさんのビジネスモデルについて多くの人が学んで、こうした素晴らしい環境やサービスを作る人が増えることを願っている。
ではまた。
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