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通勤読書②「ある行旅死亡人の物語」

行旅死亡人とは、旅の途中に置いて死亡し、引き取り手のない人のことを指す。また、旅をしていなくても本籍地や住民票が判明せずに引き取り手のない人も行旅死亡人に分類される。

「ある行旅死亡人の物語」において謎の死を遂げた千津子さんは後者に分類される。この本は、コロナ禍の尼崎市内で起こった実際の出来事をまとめたものである。
高齢女性が身寄りがないまま亡くなっていくのは決して珍しいことではないが、自宅に残されていた遺留物に謎が多く、冒頭から引き込まれてしまう。
・金庫に現金3400万円
・千津子さんの身長133センチ、右手の指は全て破損している
・韓国紙幣と、北朝鮮を連想させる星型のペンダント
・ベビーベッドの上に昭和後期に製造されたぬいぐるみ
・契約書は千津子さんの名前でなく、やはり身元の分からない男性の名前で借りられていた。

これらの情報が記された小さな新聞記事に目をつけた2人の新聞記者が、千津子さんとは何者だったのか、そもそも本当に彼女は田中千津子という名前なのか?から疑って取材をスタートさせる。
記者が入手できる情報、持っている権限は、実はそこまで大それたものではない。足を使って地道にコツコツと情報を積み重ねていくしかないのだ。僕たちと同じようにFacebookを使ったり、ググったりしながら誰かを探すこともある。

そもそもこの事案は記者たちが目をつける前から警察や探偵が粗方調べていた。それでも何者なのか分からない。調査のプロたちが動いているのに判明しないのなら、それはもう迷宮入りだろうと僕なら諦める。しかし諦めなかったその先に、真実があった。

千津子さんの苗字は沖宗という珍しい苗字であったことが分かる。それが突破口となり、記者たちは千津子さんの輪郭を描いていく。1人の女性が死に至るまでに何があったのか、ページをめくるたびにその人物像が見えてきて一気に読んでしまった。
小説にはならないリアルさというか、尼崎という僕にも馴染みのある地で「千津子」という名の女性が一人で亡くなったリアルが、不謹慎かもしれないけど好奇心を搔き立てた。読みやすくてそこまで長くもないので、みなさん年末年始の読書にどうぞ。

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松本拓郎
サポートしていただいたお金を使って何かしら体験し、ここに書きたいと思います。

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