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僕らの人生には事件が起きない。けれども、楽しい

ハライチ・岩井さんの『僕の人生には事件が起きない』を読んだ。

この本には、よく芸人の方々がテレビ番組で笑いを取っているような、「本当にそんなことあるのかよ」と言いたくなる面白おかしい話や事件は出てこない。

しかし、だからこそ岩井さんはすごいと思う。

自分の日常がありふれたものであることを自覚しているからこそ感じる違和感や疑問、気づき。そこには岩井さんの感性が光っている。

僕が好きなのは、あんかけラーメンの汁を水筒に入れて出かけるエピソードだ。

インスタントのあんかけラーメンにドはまりした岩井さんは、そのトロトロとした汁を水筒に入れて持ち歩くことを思いつく。電車を待っているホームで、買い物に来たホームセンターで、天気の良い公園で、岩井さんは誰にも気づかれることなく、水筒であんかけラーメンの汁を飲む……。これほどシュールな光景はあるだろうか。想像しただけで、ニヤニヤしてしまう。

岩井さんによる、相方・澤部さんの分析も面白い。

岩井さん曰く、澤部さんは「ブラックホールのような"無"からこちらが要求したものを出す不思議な男」だという。澤部さんには実体がない。澤部さんは自分自身の価値観を持っておらず、常に他人の物差しを使って価値観を計っている。

自分の価値観を持っていないからこそ、澤部さんは誰かがやっていたことをインプット吸収して、自分を通してアウトプットするのがとても上手い。"オリジナリティ"を求めないから、他の番組を見てよいと思ったことを100%実行に移せる。だから、ある分野で突出しているわけではないが、すべてにおいて平均点を叩き出し、総合点で1位を取る。よって、澤部さんは最強のバラエティ芸人なのだ、と。

そんな相方を持った岩井さんだからこそ、みんなが求めるような笑いではなく、少し捻くれた笑いが好きになった。王道とは違う、何か新しいものを生み出さなくてはいけないという業を背負っている。だからこそ、岩井さんという"魔人"が生まれたのかもしれない。

人生の95%は普通の日々の積み重ねだ。そうそう面白いことなんて、起こるものではない。でも、たとえ平々凡々な毎日だったとしても、ちょっと見方や考え方を変えてみるだけで、楽しみを見つけることができる。

「どんな日常でも楽しめる角度が確実にあるんじゃないかと思っている」

あとがきに記されているこの岩井さんの言葉は、平凡な毎日を送る僕たちの心に、まるで漢方薬のようにジワリと沁みこんでくるのだ。

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