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日々のちから 『724の世界 おまけ版あるいは予告編 2022年11月13日~12月31日』吉本ばなな
『724の世界 おまけ版あるいは予告編 2022年11月13日~12月31日』吉本ばなな
せっかく世の中には電子書籍というものがあり、紙の本ではできないことがあるので、それで何か面白いことができないかなとずっと考えていたけど、この吉本ばななさんの本は、なんだか新しい試みだな、と感じた。何が新しいというわけではないのだけれども、でも、こういう使い方、こういう出版の仕方が新しいと思うのだ。毎週届くメルマガとも違う。完成された分厚い本とも違う。どこか新しい世界。そんなのを少しだけ垣間見えたような気がする。
そして、たった数十ページ? と最初は思ったけれども、それだけでも一気に読んでしまうとお腹がいっぱいになってしまう。ホテルや旅館に泊まった時に豪華な朝ごはんでもう最初からお腹いっぱいという感じである。さすがばななさん。
そして、日記という形式。他人の日記なんて読んでどうなるの?と思うかもしれないけれども、他人というものがいて、日々を生きているそれを感じるだけでどこかなごむのはなぜだろうか。究極的には、あなたは私で、私はあなた、というところに行き着いてしまうのかもしれないけれども、でも、日々というものにはこれほどのちからがあるのか、と感じさせられるものがある。
僕たちの人生は日々でできている。当たり前のことだけれども、輝かしい過去、忙しい現在、不安な未来を想って僕たちは生きている。でも、それも日々でしかないのである。日々の積み重ね。変化のない日々を思うと憂鬱になることも多いけど、でも、積み重なった日々は人生に豊かさや味わいをもたらしてくれる。僕たちは日々の上に生きているのである。しかも自分がつくった日々の上だ。自分にしか築けない大事な場所。その中に僕たちは住んでいるのだ。
そんなことを思い出させてくれる。思い出すとなごむことができる。忙しない日々に心が戻ってきてくれる。日々のちからを侮ってはいけない。そして、大切にしたいと思う。
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