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【私の幸福論】刺激の強い幸福論

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

〜不幸にならないための一冊〜

人間・この劇的なるもの」では頭を撃ち抜くような刺激的な言葉の数々で感銘を与えてくれた福田恆存さんの著書。こちらも、平易な言葉ながらも容易には読めない刺激の強い一冊である。

タイトルにある「幸福論」という言葉から、人が幸福に生きるためのノウハウが書かれているかと思いきや、その内容は逆説的である。
一言で表すなら「不幸にならないための本」である。


〜まず、あらゆる事実を受け入れる〜

さて、では不幸にならないためにどのように生きれば良いのか。
それは、都合の悪いことを事実として受け入れること、である。

人間は不平等だ。悪いといおうが、いけないといおうが、事実だ。しかし現実がどうであろうとこの世に生まれた以上、あなたは幸福にならねば…。

こんな言葉が本書の紹介文に書かれており、これだけでかなり身構える一冊ではあるが、本書はそんなことでは収まらない。

女性向け雑誌で連載されたとは到底信じられないが、冒頭から「美醜」について語り、そのほか、自我、宿命、自由、教養、女らしさ、などなど語るのも憚れるようなテーマを次々と読者にぶつけてくる。そして、その内容は、今日の著名人がSNSに書いたら間違いなく炎上するようなものばかりである。

しかし、全編通して一貫した話は、「言いにくいこと言わず、考えないようにして蓋をしても、事実をまず受け入れなければ、『幸福』は形骸化してしまう。真の幸福はまずあらゆる事実を受け入れることから始まる」ということだ。

大衆的に考えられる「幸福」とは所詮「欲求を満たす」ことでしかない。自明の通り、人間の欲求は天井知らずであり、そんなものを追い求めても永遠には幸福になれないのだ。
真に幸福な人は、壁にぶつかり不安になったとしても幸福なのである。

いつまでも満たされない形骸化した幸福を追い求めることほど不幸なことはない。それよりも、あらゆる事実を認め、自分の人生を信じて生きることが真の幸福なのだ。

幸福についてかなり高い理想を掲げる、厳しいことが書かれた一冊である。読む人にとっては、最初の「美醜について」を読むだけで嫌悪感を持ち、本を投げ捨ててしまうかもしれない。
「時代錯誤だ」「差別的だ」と本書を批判するのは簡単だ。しかし、触れにくいことを正面から突きつけられることで、見えてくる景色もあるはずだ。
不幸にならないための刺激的な幸福論。「幸福とは何か」という疑問に対する毒にもなりかねないヒントがここにある。

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