【人間そっくり】上質の密室会話劇
オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆
〜比較的読みやすい安部公房作品〜
「壁」や「砂の女」などで有名な安部公房の作品。安部公房の作品は難解とよく言われるが、本書は安部公房作品の中でも比較的読みやすい作品である。安部公房入門としておすすめしたい一作でもある。
もともと安部公房は大好きな作家で、学生の頃は古典といえば安部公房しか読んでいなかった。難解ながらもクセがある独特の世界観を持つ安部公房作品にもう一度触れたいと思い、今年は安部公房作品をなるべく多く読み返してみようと考えている。
〜自己言及に追いつめるロジック〜
さて、本作は一言でいえば密室会話劇である。
脚本家のもとに現れた男が「自分は火星人だ」と名乗るところから物語は始まる。そこから、男が火星人なのか地球人なのかをめぐって話が行ったり来たりする。
密室会話劇は映画や小説では定番であるが、「地球人なのか火星人なのか」というような荒唐無稽なテーマで繰り広げられるものはそこまで多くない。
馬鹿馬鹿しい対話と思いきや、脚本家が理性を保とうとしても飛躍した論理で脚本家を惑わす訪問者のロジックはかなりユーモアに溢れ、同時に狂気に満ちており、読んでいるこちらも不安になってしまう。
結局のところ、「地球人である自分が地球人であることの証拠」を求められる、「逆説論理学」でも述べた「自己言及」の罠にハマっていくことになるのだが、論理的な思考とは理性があって初めてできるものであり、異常な人間を目の前にすると理性を保つのは困難になってしまう恐怖が本作からは感じられた。
安部公房作品では「自己」を取り上げることが多いが、本作は真っ直ぐに「自分は本当に自分の考えている自分なのか?」という、不幸にしかならない問いをまざまざと突きつけられる。
短いながら、安部公房の作風を強く感じられる一作だ。