見出し画像

【残像に口紅を】究極の「思いついてもやんないよ」小説

オススメ度(最大☆5)
☆☆☆☆

いやぁ、すごい小説だった。
本作は世界から一文字ずつ文字が消えていき、その名称にその文字を使うモノ自体も世界から消えていく、というトンデモ設定のメタ小説である。
例えば、その世界から「あ」の文字が消えると、世界から「愛」や「あいつ」の存在が消えてしまう。さらに、消えた文字が氏名で使われている人はその人自体が消えてしまう。例えば、「た」の文字が世界から消えたら「太郎」や「田中」と人物は世界から消えてしまうのだ(正確にはこの小説の主人公が「太郎」や「田中」と"認識"している人が消える)。

そうして、消えていく文字は小説の本文中からも消えていく。「あ」が使えなくなれば、本文中では「あ」の文字、そしてその"音"も使えなくなる(「クーラー」は「くうらあ」と発音するので、クーラーはこの世界からは消える)。

そんな制約の中、第二部の終盤、50文字近く使えなくなった状態でも(数え方にもよるが、ひらがなは濁音半濁音を加えると70〜80文字ほどある。本作では「お」と「を」や「じ」や「ぢ」を同じ音として、72文字で設定している)ある程度文章にして物語にしている筒井康隆さんという作家の筆力・剛腕に舌を巻いてしまった。筒井康隆さんの作品はこれが初めての作品なのだが、ぜひとも他の作品を読んでみたいと思った。

逆転美人」の時にも感じた「思いついてもやんないよ」小説の最たるモノだと思う。他には感じられない読書体験をぜひ。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集