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【生殖記】○○○視点の日常系小説

オススメ度(最大☆5)
☆☆☆☆

〜朝井リョウさん最新作〜

正欲」以来、三年ぶりとなる朝井リョウさんの新作。
朝井リョウさんは大好きな作家さんの1人で、今まで読んだ作品はどれも心を打たれてきた。
その大きな理由の一つは、朝井リョウさんが常に現代的なテーマに対してメスを入れる鋭い視点を持っているからだ。

「正欲」では「多様性」という言葉に鋭いメスを入れてきた。多くの人が感じていた違和感を見事に言語化して、モヤモヤを解消した。
本作もその例にもれず、現代的なテーマを多分に盛り込んでいる。多様性に始まり、LGBTQ+、SDGs、資本主義、そして、現代人が抱える得体の知れない不安とモヤモヤ。

しかし、本作で特筆すべきはその語り部である。語り部がまさかの○○○であると判明した時にはひっくり返りそうになった。


〜○○○が言いたい放題〜

さて、本作はそのヒトではない○○○が語り部となるため、これまで僕が読んできた朝井リョウ作品と比べるとかなり温度の低い文章となっていた。かなり軽い口調で語る○○○は、ヒトや社会の営みについてかなり切り込んだことを語るのだが、そこに深刻さは見られない。
いわば、ヒトを達観している○○○がヒトのことを好き勝手に言いたいように言っているのである。

それが故に小説、というよりは○○○の評論を読んでいる感覚に近いだろう。
登場人物たちの人間模様はそれなりに面白いのだが、○○○のキャラクターがタチ過ぎていて(!?)脇のキャラクターたちはどうも印象が薄くなってしまう。

作品の中で切り込んでいく内容やどうにも表現するし難い感情を言語化する朝井リョウさんの鋭い洞察と筆力は健在で、その点は相変わらず素晴らしいのであるが、物語としては、少し物足りなさが残る。


〜満足度は高い作品〜

とはいえ、○○○を語り部としたのは斬新すぎる手法だし、性やヒトの社会を深掘りした内容は強く心に響くだろう。
先ほど「物語としては…」ということを書いたものの、言いたい放題で終わりではなく○○○の主人(?)の行く末もひとつの正解として着地点を示しているのは、作品として見事に完成している。

小説らしくないと感じる人もいるかもしれないが、面白い、と自信を持ってオススメしたい。

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